遺言書のないケースで財産分割が困難を極める理由

前回は、相続トラブルを防ぐ「遺産分割協議書案」の活用について取り上げました。今回は、遺言書のないケースで財産分割が困難を極める理由について見ていきます。

専門家でも手間がかかる「遺産分割協議書」の作成

日本の家庭では、子供にお金にまつわる話をする機会が少ないように思います。家の財産や税金のことなどは大人が考えるべきものだとされ、何もわからないまま過ごしてきた方も数多くいるかと思います。

 

親族が亡くなると、役所や金融機関などでいろいろな手続きをしなくてはいけません。お葬式をしたり故人のものを整理したりするとわかるのですが、意外にいろいろとお金がかかるものです。葬儀代や香典返しだけではありません。葬儀に来てくれた親族への車代や戒名をつけていただくお寺への費用など、亡くなって初めてわかることは本当に多いのです。

 

そんな初めてのことに加え、亡くなった人がどれだけの財産を遺していたかなど、知るわけもありません。その時に誰しもが思うのは、「故人が財産のリストを作ってくれていたらよかったのに」ということです。そして「そのリストがあれば、親族で処分を話し合って遺産分割協議書が作れたのに」と、きっと思うはずです。

 

故人が誰に何を遺すと明示した遺言書を作っていてくれたらいいのですが、相続人に恨まれることを避けたいのか、病気が重くてそんなことをしている余裕がないのか、自分が亡くなる話をしたくないのか――、遺言書など作りたくないという方が結構いるのです。

 

「俺が死んだ後のことなんか知らんわい」その気持ちもわからなくはありません。しかし遺言書がないと、相続にあたり、相続人が皆で協議して財産の分け方を決めなくてはいけません。それが遺産分割協議書です。相続人は故人の財産リストを作った後に遺産分割協議書を作ることになるのですが、実は作成にはかなりの労力を費やすことになるのです。

 

「そんな時のために税理士さんがいるんじゃないか」と思われるかもしれません。ところが、いくら税務に長けた税理士だったとしても机上の計算だけでは済まされないのが、遺産分割協議の難しいところです。税理士としての業務に加え、人として相続人の方々の心の機微を理解し、様々な対応を要求されることがあるからです。

10年経過しても決着がつかないケースも…

とあるお客様の相続時の話です。ある日、相続人の一人であるご長男が事務所に来られました。ご長男は家督を継がれることを意識してなのか、財産分割の方向性をあたかも自分が決めるかのようにお話しになっていました。

 

そして、ご長男が事務所にいるのをどこかで見聞きしたのでしょうか、彼が帰るのを見計らったように、今度はご長女が突然事務所に来られました。それから「長男には内緒で」と、財産分割についての自分の想いを延々とお話しされ、ひとしきり自分の故人への献身を語られた後、ご長女は満足したような顔で帰って行かれました。

 

ほっと一息しようとした時、今度は、ご次男がこれまた彼女が帰るのを見計らったかのように事務所に来られたのです。そして「あの二人はけしからん」と怒鳴り、「故人の生前に貢献したのは自分だ」と拳を振り上げて言われたのです。担当者である税理士は、三人のお話をとにかくじっくりと聞くことにしました。

 

そんな日が1か月も続いたでしょうか、何度か協議の場所を設けましたが、決着しそうかに見えても、また不満が噴出してやり直しという協議が何度も繰り返されました。とうとう各人の弁護士が出てくるありさまで、分割協議に私たちの入り込む余地はなくなってしまいました。

 

結局、複雑な経緯を経てもめにもめた結果、協議がまとまらないまま10年ほどが過ぎていきました。その間、当事務所としては亡くなったお客様が遺した賃貸マンションの確定申告を行うことでお付き合いは続けていました。

 

ところがある時、不思議なことに相続人の方々全員が、時をほとんど同じくしてお亡くなりになったのです。

 

お孫さんや配偶者など遺された親族の方たちは、遺産をそれぞれの割合できっかりとお分けになり、長い相続はようやく完了しました。お孫さんたちからは「長い間、面倒な処理をありがとうございました」とのお礼の言葉をいただきました。これは世代を超えて合意できた珍しいケースです。

 

誰もこんなに長くなるとは思ってもいませんでした。今思えば、もっと良い対応があったかもしれませんが、やはり財産を遺す人が生前にしっかり対応しておくのが一番良いのです。

当人がいない中、心情まで絡むお金の話は難しい

生きているうちに自分のお金や財産の話などを家族にする人は少ないでしょう。ですが私たちは、親御さんは子供たちにお金や税金の話をもっとしておくべきだと感じています。

 

筆者の所属する事務所のメンバーの一人などは、職業柄、日記のように今の財産状況を記載して、子供に会うたびに「今はこのような財産状況だからこう分けてね。平等になるように考えているから、大丈夫」と話をしているそうです。

 

すると、「もうわかったよ。そんなものあてにしていないよ。自分のお金なんだから自分のためにどうぞ使ってください」と、いつも言われて相手にされていないようです。でも、これだけオープンに話しているのだから、安心してそう言ってくれているのかなとも思っているみたいです。

 

お金の話はいろんなことが絡み合って本当はとても難しい話題です。だからこそ、生前にしっかり子供たちに話しておくことが必要と考えます。自分がいなくなって何も知らない子供たち同士で話し合うなんて、もっともっと難しいのです。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

新月税理士法人 代表社員

平成17年3月税理士登録 平成23年5月新月税理士法人設立
お客様の人生に添ったタックスプランを設計するタックスデザイナー。争いになる前の相続人同士の関係に配慮した細やかな調整から事業承継および相続のための株価算定、納税猶予などの資産税対策を通じてオーダーメイドの生涯タックスプランをデザインする。

著者紹介

連載骨董品、高級腕時計——妻に内緒の「嗜好品」を持つ社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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