前回は、好立地の「中古ビル」が収益物件として魅力的な理由を解説しました。今回は、不動産の高値売却に不可欠な「マイナス要素」の解消というテーマを取り上げます。

不動産鑑定評価の考え方のひとつ「収益還元法」とは?

不動産を売却しようとする場合、多くの方は買い手を探してくれる不動産売買の仲介会社に価格査定を依頼するのではないでしょうか。この価格査定を依頼することは必要であるとは思いますが、そのやり方には問題があります。それは、依頼する時期が遅いという点です。

 

恐らく、不動産を実際に売却しようとする直前になって依頼するのが一般的でしょう。売却する必要に迫られて初めて、いくらくらいで売却できるのかを探ろうと価格査定を依頼する、そういう流れです。

 

価格査定を依頼された不動産会社は当然、その不動産の価格を評価します。手掛かりの一つは、周辺の坪単価です。それも具体的な取引事例での成約価格を参考にします。その成約価格は、不動産の売買仲介で広く活用されている「REINS(レインズ、不動産流通標準情報システム)」に登録された取引情報を基に把握することが可能です。国が毎年3月に公表する公示価格を基に相場観をつかむこともあります。

 

もう一つ、収益還元法と呼ばれる不動産鑑定評価の考え方を基に、その不動産で見込める賃料収入と期待利回りから不動産の評価額を割り出す方法も取られます。これは、不動産の価格とそこで見込める賃料と利回りの関係を利用したものです。利回りとは投資額に対する収益額の割合ですから、これを不動産に置き換えると、利回りとは不動産の価格に対する賃料収入の割合ということです。

 

つまり、利回りと賃料収入を基に不動産の価格を割り出すことができるわけです。例えば、賃料収入を年間600万円、利回りを6%と見込むなら、その不動産の価格は1億円と計算できます。不動産に1億円を投資すれば、その6%にあたる600万円の収益を上げられるということです。

 

この利回り数値には相場があって、例えば東京都心の青山であれば4%程度、東京郊外の府中になると10%程度とみられます。価格査定は簡易に査定するものから条件を突き詰めて詳細に査定するものまで、レベルはさまざまです。条件をどこまで勘案するかによって査定額は異なります。その条件とは、細かな立地条件ということもあれば、どの程度利用できるのか、不動産の利用計画を実際に描いてみた上で把握できた利用条件ということもあります。

 

いずれにしても何らかの価格がそこで明らかになります。それはそれで、相場観としてつかんでおくことは必要です。ただ、それが不動産を売却しようとする時期の直前では遅いというのは、価格とは別の理由からです。それは、売り手にとってはこの価格査定を通じて初めて分かることが価格のほかにもあるという理由からです。その初めて分かることを知るのが売却直前では遅い、というのです。

手遅れにならないうちに「マイナス要素」を解消する

不動産の価格を一定程度の細かさで査定しようとする不動産会社は、査定対象の不動産がどの程度の価格で売れそうなのかを見極めるとき、先ほど挙げたような立地条件や実際にどの程度の建物を建設できるのかなどを確認します。そのなかには、不動産を売却する上でマイナスの要素も含まれています。一般には売却しにくい不動産の例としてこの連載で再三にわたって挙げている検査済証のない建物は、その具体例の一つです。

 

不動産の売買に精通したプロの目から見て売却の妨げになりそうな要素が、価格査定の機会に初めて問題点として認識されるようになるわけです。こうしたマイナス要素は当然、査定価格を押し下げます。

 

所有者は1億円で売買できるのではないかと踏んでいた不動産が、マイナス要素が積み重なっていたため、価格査定では6000万円の値しか付かないということもあり得ます。それが売却しようとする時期の直前であれば、厳しい現実を突き付けられて自らの皮算用を悔いるしかないでしょうが、売却までにまだ時間の余裕があればどうでしょう。

 

指摘を受けたマイナス要素のうち全てとは言わないまでも、内容によってはそのマイナスを解消できる可能性があります。査定価格が思惑に反して6000万円だったとしても、そこで初めて認識するに至ったマイナスの解消を図れれば不動産の売却時点では8000万円まで査定価格を回復できる可能性があるということです。

 

だからこそ、売却直前の価格査定では遅いのです。マイナス要素が明らかになっても、その解消を図るだけの時間的な余裕がありません。価格査定を通して不動産を売却できそうな価格を把握することは大事です。しかし、自ら所有する不動産を仮に売却するとどの程度の価値を見込めるのかという点を不動産のプロに評価してもらう機会は、その評価結果だけに意味があるわけではありません。

 

なぜ、そのような評価結果になったのかという点にも重要な意味が隠されています。それを常日ごろから把握しておく、その重要性をぜひご理解ください。そして、自ら所有する不動産に隠れているマイナス要素はできるだけ早いうちに発見し、把握しておくようにすること、さらにその解消を図れるものは早くに対応策を講じてマイナスを解消しておくこと、この2つを実践することが、不動産の高値売却には不可欠です。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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