今回は、寄与分が焦点となった兄弟の争続を見ていきます。※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

亡き父と同居していた兄が「寄与分」を主張

≪トラブルの事案≫

農業を営んできたAさんには、妻Bさんのほか子どもは、農業の承継者である長男Cさん、家から独立して出て行っているサラリーマンの二男Dさん、それに嫁いで行った長女Eさんがおりました。

 

そのAさんが亡くなってAさんの遺産の田畑・宅地などの不動産や預貯金等含めて約5000万円についての相続が問題となったのですが、Aさんは遺言書を書いていなかったので相続人間で話し合うことになりました。しかし、子どもらの意見が合わずなかなかまとまりません。

 

長男Cさんは、「自分が長年親父と一緒に農業を続けてきて田畑等の維持もできてきたし、両親のそばにいて助けてきたので自分の貢献度を考慮してもらえば、寄与分(*)は5割くらいあるので自分の取り分は多くなる」と主張し、二男Dさんや長女Eさんは、「兄さんの寄与はそれほど過大に評価すべきでないし、反対に両親と一緒にいたおかげで生前贈与も受けるなどその分良い目をしてきたはずだ」と主張して譲りません。

 

そこで家庭裁判所に調停の申立てをしたのですがそれでも決着はつかず、審判となりその結果、長男Cさんの寄与分は4割の2000万円、また長男CさんがAさんからの生前贈与を受けて持戻しを認められた特別受益(**)の価額は1000万円と認定されました。そして、審判ではみなし相続財産の価額は、遺産の価額5000万円に長男Cさんの特別受益1000万円を加えた6000万円からCさんの寄与分に当たる2000万円を控除した4000万円となり、相続人の具体的相続分は、配偶者のBさんが2分の1の2000万円、子どもらは各6分の1で約666万円ずつとなるとされました。

 

更に審判では長男Cさんに持戻しを命じられた特別受益の額1000万円のうち、Cさんの具体的相続分約666万円を超過した部分の334万円を認定された寄与分の価額から差し引いた上でCさんが現実に取得すべき価額を算定しました。Cさんはどうも算定方法に納得が行かず抗告しました。

 

公平な相続分の算定には「寄与分・特別受益」を考慮

*寄与分ってどうして認められるのですか?

例えば亡くなった者(被相続人)の共同相続人の中に、被相続人の行っていた事業に関して労務の提供や財産上の給付を行ったり、あるいは被相続人の療養看護に努めたりして被相続人の財産形成や維持に貢献してきた者とそうでない者がいた場合に、一律均等に相続分を算定するのは不公平というものです。

 

そこでこのように被相続人の共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の貢献があった者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の貢献に見合った働き分(これが寄与分です)を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、その算定された相続分に寄与分を加えた額をその者の相続分とするのです(民法904 条の2)。

 

これは、相続人間の実質的な公平を図るために考慮された制度なのです。

 

**特別受益ってなんですか?
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受けたり、生前贈与を受けた者とそうでない者があるときは、相続に際して一律に同等の割合で相続分を算定するのはやはり不公平です。

 

そこで、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えた(これを贈与の持戻しといいます)ものを相続財産とみなし、算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とするのです(民法903 条)。

 

これも共同相続人間の公平を図るための制度です。

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    本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

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    栗坂 滿

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