トラブルを未然に防ぐ、遺言書の「正しい作り方・取り扱い方」

今回は、トラブルを防ぐ遺言書の正しい書き方を見ていきます。本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

パソコンで作成した遺言書は「無効」

遺言の方式について、民法は、特別な方式にすることが許される場合を除いて、普通の方式として①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つによると定めています(民法967条)。なお、特別の方式による場合としては、①死亡の危急に迫った者の遺言(民法976条)、②伝染病隔離者の遺言(民法977条)、③船舶中にある者の遺言(民法978条)、④船舶遭難者の遺言(民法979条)について定めています。

 

普通の方式による遺言の中で、一番オーソドックスなものは、1番目に挙げた自筆証書遺言でしょう。これは、遺言をする者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押すことで作成します(民法968条1項)。遺言書中に誤字や書き間違いがあり、加除訂正や変更する場合は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じません(同条2項)。

 

最近は、パソコンやワープロが普及し、自宅で手紙等もパソコンなどで作成する人が多いですが、遺言書をパソコン等で作成しても自書と認められず無効になるので注意してください。したがって、ペンや筆を手にしても身体的な理由等で字が書けない人はこの自筆証書遺言を作成することはできず、他の方法によらざるを得ません。また、自筆証書遺言の保管は自己責任でするしかなく、公的機関で保管する制度は今のところありません。

 

普通の方式の遺言で2番目に挙げた公正証書遺言は、公証人が作成する遺言であり、①証人2人以上の立会いの下に、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、③公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、④遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名し、印を押し(ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます)、⑤公証人が、その証書は①から④に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、署名し、押印することにより作成します(民法969条)。

 

なお、以前は、口や耳が不自由な人は、公証人に遺言の趣旨を口述等できないことから公正証書遺言を作成できませんでしたが、民法が改正され、話すことができない遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により述べるか、又は自書して、口授に代えることができ、さらに、遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、読み聞かせに代えることもでき、公証人は、これらの方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならないことになりました(民法968条の2)。

 

作成された公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されます。遺言者には遺言書の正本や謄本が交付されますが、遺言を執行するときはわざわざ公証役場に足を運ぶ必要がなく、その正本や謄本で執行が可能です。正本等が紛失したりした場合でも原本が公証役場に保管してあるので安全です。

 

最後の秘密証書遺言は、①遺言者が、作成した(自筆証書遺言と違って必ずしも自書による必要はありません)遺言書の証書に署名し、印を押し、②遺言者が、その証書を封筒に入れて封をし、証書に用いた印章をもってこれに封印し、③遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、中に自己の遺言書が入っている旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述し、④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すことによって作成する遺言です(民法970条)。

 

この遺言書が「秘密」と称されるのは、作成過程で公証人や証人が関与する必要があるにもかかわらず、公証人や証人は、遺言書が既に封印された封書に入っているので書いてある遺言書自体を目にすることができず、内容は分からないからです。この秘密証書遺言も保管については、遺言者の自己責任でするしかありません。

封印のある遺言書の開封には「立会い」が必要

以上の普通の方式の3種類の遺言のうち、自筆証書遺言と、秘密証書遺言については、遺言者が亡くなられた後、その遺言書の保管者又は発見した相続人が、遅滞なく家庭裁判所に提出してその「検認」を請求しなければなりません(民法1004条1項)。

 

なお、封印のある遺言書は、これを相続人等が勝手に開封して読むことは禁じられており、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができません(同条3項)。自筆証書遺言等の保管者等が、遺言書を提出することを怠り、家庭裁判所の検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外において封印された遺言書の開封をした場合は、五万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。

 

ところで、この遺言書の検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

徳島公証役場 公証人 芦屋大学 客員教授

京都府出身。関西大学法学部卒業後、1983年検事に任官。以後、大阪、京都、神戸、広島など関西、西日本の高検・地検を中心に勤務し、京都地検公判部長、広島高検刑事部長等を経て、2011年神戸地検尼崎支部長を最後に退官。同年公証人に任じられ、徳島地方法務局所属公証人として活動を始める。
現在、市民生活にもっと溶け込んだ有益な公証業務の普及を図るべく日常業務の他、講演活動、執筆活動に携わっている。

著者紹介

連載公証人が教える「遺言」「相続」をめぐるトラブル事例と予防策

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

「あなたの遺言書の書き方は正しいですか?」 間違った遺言書はトラブルのもと!! 正しい遺言書・公正証書の書き方40例を解説

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