今回は、近年各業界が「アイデアソン」に注目している理由を見ていきます。※本連載は、コミュニティデザイナーとして活躍する須藤順氏と、エイチタス株式会社の代表取締役である原亮氏の共著、『アイデアソン!アイデアを実現する最強の方法』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、アイデアソンの概要と、アイデアソンを実際に取り入れたことで、企業にどのような好影響が表れたのかを紹介します。

元々はハッカソンのイベントの一部だったアイデアソン

アイデアを出すための手法やワークショップはこれまでも存在していたはずだが、ここ数年、特に注目が集まっているのはなぜか。アイデアソンの名称やイベント、主催する人や組織を俯瞰しながら、背景を探ってみよう。

 

くり返しになるが、アイデアソンとは、「アイデア(Idea)」と「マラソン(Marathon)」の造語で、一定の時間で集中してアイデアを出し続ける場を指す。

 

この単語は、ITエンジニアが集まってソフトウェアなどの試作品開発を行うイベントである「ハッカソン(Hack+Marathon=Hackathon)」に影響されたもので、もともとは、ハッカソンのイベントの中で、アイデア出しのワークショップを行うようになり、その部分が「アイデアソン」という名称で固定化されたものである(※)。

 

(※)「-ソン」という言葉は、テレビやラジオの業界で、長時間の枠で放送するチャリティ番組(テレソン、ミュージックソン)で古くから用いられており、アメリカで1966年から始まった「レイバー・テレ・ソン」が代表的な使用例。

 

ハッカソンは、90年代末ごろにアメリカで生まれた。日本では2011年ごろから広がり始め、それに合わせてアイデアソンの名も普及し、それ以前から存在していたアイデア出しのワークショップも、アイデアソンという呼び方に吸収されていったふしがある。

 

国内のハッカソンで行われるアイデアソンでは、創造工学の研究者、石井力重氏が考案したメソッドが広く使われているが、その原型は、2010年5月に仙台で行われたスマートフォン向けアプリケーションのアイデア出しイベント「アイデア創発ワークショップ」に求めることができる。

震災の「復旧・復興」の過程で広がりを見せるように

IT業界で行われるハッカソンが公開型のイベントとして広がりはじめたのは、東日本大震災からの復旧・復興への貢献を目指したITエンジニアたちの活動によるところが大きい。彼らITエンジニアは社会活動にコミットするために、所属を越えてボランティアとして集まり、短時間で成果を上げる場として、ハッカソンを活用してきた。

 

この活動は、国内において主に3つの流れを生み出した。1つ目は、「シビックテック」と呼ばれる領域で、ハッカソンの活用が進んだ。

 

シビックテックとは、社会課題の解決に向け、市民活動としてテクノロジー(ここではITを指す)を活用する運動を指すもので、こちらもアメリカで広がったものが、近年、日本にも流入しつつある。

 

震災復興の活動で中心的存在だったITエンジニアたちが、その後、シビックテックの旗振り役として活躍を続け、それぞれの活動にハッカソンを積極的に取り入れてきた経緯がある。

 

いずれも地域の課題へアプローチし、ITで解決策を見出す。彼らはそのために、ITエンジニア以外に地域の人々との交わりから、課題への理解や解決策の案出を試みた。

 

従来のハッカソンが、ITエンジニアのみが集まって、腕を競う場であったところから、異なる背景、意識、専門性を持つ多様な人々が集まる場として、ハッカソンが再設計されていった。そうして、多様な人々が集まる対話の場として、アイデアソンが活用されるようになった。

 

2つ目は、全国のITコミュニティと呼ばれるITエンジニアのサークル活動として、ハッカソンが広がったことである。ITエンジニアが集まるイベントとしてハッカソンが開かれるケースが増え、企業がITコミュニティの協力を得ながら、自社のサービスを活用するためのハッカソンなどを開催する流れにもつながった。

 

3つ目は、産業振興の一環で自治体主催のハッカソンが生まれたことである。東北での震災復興の活動にハッカソンが取り入れられたことに触発され、2011年8月には岐阜県が自治体主催として初のハッカソンを、同県のIT産業集積地である大垣市のソフトピアジャパンで開催。

 

ソフトピアジャパンではその後、さまざまなテーマ、主体でハッカソンが開催され、県内の高校生がアプリ開発の腕を競う合宿イベントなども行われている。

 

その後、青森県や長野県などが情報産業振興の一環として、地元のIT企業を参加対象としたハッカソンを主催するようになり、自治体発のハッカソンが広がり始めた。

 

この動きは、シビックテックの活動とも合流し、ITを活用した地域課題解決を目指すハッカソンが、市町村レベルでも開催されるようになり、いずれの場でも、地場の産業やNPOのほか、自治体職員自らも参加者となることで、多様な人々の参加を前提とした場づくりが進んでいった。

 

もちろん、国内のすべてのハッカソンが上記の流れを汲むものではない。しかし、ハッカソンおよびそこから派生したアイデアソンが、この流れに触発されて広く一般へ浸透していったのは、無視できない事実である。

成果物が「その場限り」になりがちなハッカソンだが・・・

同じころ、大阪でも新しい潮流が生まれた。大阪駅北地区(通称「うめきた」)の再開発で、2013年4月に開業された複合商業施設グランフロント大阪に、大阪市が「大阪イノベーションハブ」を開設。

 

自治体発のイノベーション創出拠点として、活動を開始した。その直前の同年1月、市が「大阪市グローバルイノベーション創出支援事業」として「ものアプリハッカソン」を開催し、ソフトウェア開発を行うITエンジニアがハードウェアの開発に挑戦する場が持たれた。

 

当時、ハッカソンが広がるのとほぼ軌を一にして「Makers(メイカーズ)ブーム」が叫ばれ、技術仕様が公開されている電子基板を活用して、センサーなどが付いたハードウェアを、制御用のソフトウェアとセットで自作する活動が、日本のITエンジニアの間で広がり始めていた。

 

ものアプリハッカソンでは、その潮流をいち早く自治体主催のハッカソンで取り入れ、大阪からITエンジニアたちが画期的なサービスを生む場づくりとして、注目を浴びた。

 

ハッカソンの課題として、成果物がその場限りの作品となり、新たな商品・サービスにつながらないという批判もあるが、大阪では、ものアプリハッカソンで集まったメンバーが、その後、ウェアラブルおもちゃ「MoffBand」(手首につけると体の動きにアプリが反応し、楽器、チャンバラ、スポーツなどの音が出る)の商品化に成功し、メディアでも注目を浴びている。

 

こうして、大阪市は冒頭から有用な事例を生み出すことに成功し、以後、新たな商品・サービス創出を狙って、あらゆるハッカソンがイノベーションハブのみならず、大阪各所へ広がっていった。

サラリーマンを「副業」にしよう

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俣野 成敏

プレジデント社

「老後2000万円問題」「働き方改革」「残業規制」…等々。政府も会社も「自助努力でなんとか生きよ」と突き放す中、コロナ・ショックによる「リストラ」が、さらに追い討ちをかけています。一方で、自己責任の名のもとに「副業…

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