「解けない問題は決してない」と捉えるプロ棋士の思考法

今回は、プロ棋士は問題解決の名人であると自負する棋士・曺 薫鉉(チョフンヒョン)氏の「解けない問題は決してない」というマインドに迫ります。※本連載は、棋士・曺 薫鉉氏著、戸田郁子氏訳『世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョフンヒョン)の考え方』(アルク)の中から一部を抜粋し、世界最多勝、世界最多優勝を誇る伝説の囲碁棋士・曺 薫鉉氏が自らの経験をもとに、日々起こるものごとを肯定的、創造的に捉え、人生で勝つための考え方を語ります。

強い意志を持って眺めれば「解決策」は必ずある

私は時々、こんなことを考える。人間の世界で起こる複雑で微妙なさまざまな問題を、碁盤の上に置き換えて考えてみたらどうだろうかと。そうすればちょっと難しいことでも、解けない問題はないのではないか。

 

囲碁は、問題解決の連続だ。対局を行う時はまず頭の中に盤を描き、勝つための計画を立てる。しかし囲碁は、初めに考えたとおりには決して進まない。相手もやはり勝つために、同様に緻密に盤を描き、計画を立てるからだ。だから碁盤の上で私たちは、限りなくタックルを受ける。予想もしなかった問題が発生して窮地に追い込まれることもあれば、生き延びるためにあらゆる手段を動員もする。一手一手、命がけの問題が発生する場所。それが碁盤の上だ。

 

その意味で、すべてのプロ棋士は、九死に一生を得て生き延びる問題解決の名人だ。基本的に棋士たちは、どんな問題でも解決できないものはないという姿勢で世の中を見ている。幼いころから数多くの難題にぶつかってきたし、結局はどんな問題でも解決できることを見てきたからだ。

 

時には解けない問題もあったが、自分にできなくとも誰かが必ずその問題を解いてしまう。だから、世間のことすべてが碁盤の上と同じだと考えれば、解けない問題は決してないはずだ。問題は必ず解ける。解けるまで忍耐強く、諦めないという根性さえあればいい。

 

その根性とは、つまり考えだ。解くことができるという肯定性、必ず解決するという意志、そして解決の方法を模索するのに必要なすべての知識と常識、体系的な思考、独創的なアイデア。これらすべてを包括する概念を、私は「考え」と呼びたい。「囲碁式思考法」と呼んでもいいだろう。棋士のマインドこそ、このような要素をすべて持ち合わせているからだ。

 

もしも世の中のことがすべて碁盤と同じならば、すべてのことは解決できる問題だ。すぐには糸口すら見つからず、いじればいじるほど悪化するかのように見えても、強い意志を持って眺めれば、解決策は必ずある。もちろんその解決策とは、必ず望んだ結果を得られるものではないだろう。たとえ最上でなくとも最善のために努力し、それでなければ次善の策を選択する。あるいは譲歩や妥協、それともきれいさっぱり諦めて別の目標に向かうというのも、一つの解決策だ。

最後まで執拗に次の手を考え続ける

重要なことは、その過程は青天の霹靂(へきれき)のように訪れるわけではなく、自ら導き出さなければならないという点だ。多くの人は、問題が起こるとそこに積極的に向かい合わずに、避けたり知らんぷりをしたりする。解決しようと努力する前にまず疲れてしまって、なるようになれというふうに行動する。囲碁に例えれば、危機に追い込まれた状況で、何も考えずにどこでもいいと石を置くのと同じだ。

 

しかし棋士たちは、決してそんなことはしない。たとえ秒読みとなっても、最後まで執拗に次の手を考える。たとえ終わりの見えた囲碁だとしても、投了するまでは一手一手、最善を尽くす。好手(こうしゅ)でなくとも妙手(みょうしゅ)でも、そうでなければ悪手(あくしゅ)でも、猛烈に悩み、自ら選択するのだ。

 

囲碁には明確な目標があり、論理があり、ゲームの法則がある。棋士のマインドは、一種の知略家だ。戦略と戦術を立てて布石を行い、絶え間なく形勢を読み、一手一手慎重に石を打つ。

 

囲碁は、勝敗をかけたゲームだ。どんな状況に直面しても、解決するためにあらゆる手を考えなければならない。時には崖っぷちに追い詰められたり、罠にかかってもがいたりもする。時には自らが招いた失敗で大きな犠牲を払うこともある。しかしそれでも目標は変わらない。つまり、勝つために最後まで最善を尽くして戦うことだけだ。

 

誰もが日々、生存という人生の現場で、自分だけの碁を打つ。一日に一目ずつ石を置いたとしたら、今の私の碁はどこまで進んだろうか。まだ布石の段階だろうか。それともすでに中盤まで進行しただろうか。あるいはすでに勝負手(しょうぶて)に向かって、走っているのではないだろうか。

 

どこにいようとも、自ら負けを認め、投了しない限り、あるいは盤をすべて埋めない限り、人生という囲碁は終わらない。今、どんな危機に直面していようとも、まだ生き残る望みはある。囲碁が私に教えてくれたことは、この世には解けない問題はないということだ。集中して考えれば、必ず答えは見つかる。自分では解決できなかった問題でも、後になってふり返ってみれば、意外にも答えがあったことを悟ることもある。

 

人生は、それ自体が試練だ。考える力こそが、その試練を意味を持って切り抜けられるよう助けてくれる。私はその過程こそが、自分自身を発見し、幸せを見つける道だと考えている。

棋士

世界最多勝(1946 勝)、世界最多優勝(160 回)を誇り、「囲碁の皇帝」と呼ばれる韓国囲碁界の伝説的 な棋士。1953 年生まれ。満 4 歳のときに木浦で囲碁を始め、満 5 歳で修業のためにソウルへ。1963 ~ 72 年、日本での修行生活を送り、瀬越憲作、藤沢秀行という最上の師から薫陶を受ける(瀬越憲作門下)。 1972 年、兵役のために韓国へ帰国。その後韓国を中心に活躍を続ける。 日本の棋士との交流は長く深く、その名を囲碁界で知らぬ者はいない。1989 年の第1回応氏杯で、日・ 中の名だたる棋士を次々と撃破し、優勝。曺薫鉉の名を世界にとどろかせ、韓国の囲碁が躍進するきっかけを作る。「石仏」と呼ばれ、名手として知られる李昌鎬(イ・チャンホ/이창호)を、師の瀬越憲作が自分にしてくれたように弟子として受け入れ、育てた。2016 年、国会議員に当選。

著者紹介

作家・翻訳家

韓国在住。仁川の旧日本租界地に 90年前に建てられた日本式の木造長屋を再生し、「仁川官洞ギャラリー」(http://www.gwandong.co.kr/)を開く。また、韓国で「図書出版土香(トヒャン)」を営み、口承されてきた韓国の民謡を、伽倻琴演奏用の楽譜として整理した『ソリの道をさがして』シリーズ、写真集『延辺文化大革命』など、文化や歴史に関わる本作りを行っている。著書に『中国朝鮮族を生きる 旧満洲の記憶』(岩波書店)、『悩ましくて愛しいハングル』(講談社+α文庫)など多数。

著者紹介

連載世界最強の囲碁棋士が語る人生の「勝負哲学」

世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョフンヒョン)の考え方

世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョフンヒョン)の考え方

曺 薫鉉(チョ・フンヒョン/조훈현)

アルク

世界最多勝(一九四六勝)、世界最多優勝(一六〇勝)を誇る「囲碁の皇帝」曺薫鉉は、どのようにして戦いに勝ち切ってきたのか? 満九歳で来日し、九年間の修行生活を送った曺薫鉉。瀬越憲作を精神的な師、藤沢秀行を盤上の師とし、…

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