「家賃値上げ規制」によるSFベイエリア不動産への影響

11月8日、アメリカ大統領選の真っ最中に、サンフランシスコ・ベイエリアの一部の地区では、「レント・コントロール」と呼ばれる、家賃値上げ規制の導入に関する住民投票が行われました。今回は、その家賃値上げ規制について、具体的にどのようなものかを見ていきましょう。

すでに規制が導入されている市町村も

前回は、サンフランシスコ・ベイエリア不動産市況に影響を与えていると思われるいくつかの要因を紹介しました。

 

今回は、11月8日の大統領選と同時に行われた、サンフランシスコ・ベイエリアの一部の市町村の住民投票により決まったレント・コントロール(家賃値上げ規制)について、新たな動きがありましたので見ていきます。

 

[図表1]サンフランシスコ・ベイエリアの一部の市町村で行われた家賃値上げ規制

備考:⭐️赤線は2016年規制強化された都市。上からリッチモンド・オークランド・マウンテンビュー・サンノゼ。⭐️赤点線はすでに導入済都市。上からバークレイ・サンフランシスコ・ヘイワード。地図にはないがこれらの他イーストパロアルト・ロスガトスがある。⭐️黄線は住民投票の結果否決された都市。上からアラメダ・サンマテオ。地図にはないがこれらの他サンマテオのすぐ北側にバーリンゲームがある。
備考:
赤線は2016年規制強化された都市。上からリッチモンド、オークランド、マウンテンビュー、サンノゼ。
赤点線はすでに導入済都市。上からバークレイ、サンフランシスコ、ヘイワード。地図にはないがこれらの他イーストパロアルト、ロスガトスがある。
黄線は住民投票の結果否決された都市。上からアラメダ、サンマテオ。地図にはないがこれらの他サンマテオのすぐ北側にバーリンゲームがある。

 

レント・コントロールについては、2016年3月1日付けで掲載した第7回で簡単にふれましたが、サンフランシスコ・ベイエリアでは、すでにサンフランシスコ市、オークランド市、サンノゼ市、バークレイ市等のいくつかの市町村で導入されております。

 

日本では法的に借家人に借家権を認めているのであまり違和感はないかもしれませんが、カリフォルニア州では、ごく一部の都市部に限定し借家権を認めているだけです。したがって、規制されている市町村では、その条例により家賃値上げの上限が設けられていたり、理由なき立退き等に規制が加えられています。

 

サンフランシスコ・ベイエリアでは、リーマン危機後共同住宅を中心に過去3〜4年で約50%と目覚ましい家賃上昇を経験し、一部では社会問題化するに至りました。今回は、この家賃上昇に対する対応策について、住民投票で問われることになったものと考えられます。

 

実は第7回で触れたレント・コントロールですが、掲載後の2016年5月17日にサンノゼ市が規制強化を決定し、6月17日に暫定案が施行となりました。そして11月8日に新たにマウンテンビュー市で規制導入され、オークランド市およびリッチモンド市でも規制強化が決まりました。

 

それでは、サンノゼ市、マウンテンビュー市、オークランド市で、どのような規制が導入されるかを見てみましょう。

 

①サンノゼ市(規制対象戸数:4万3,000戸)

 

●1979年9月7日以前に建築占有された建物

 

●2戸までの戸建て(いわゆるDuplexを含む)、タウンハウス、コンドは対象外

 

●政府系、ホテル、病院、学生寮は対象外

 

●設備投資等の例外規定なし

 

●毎年の家賃上昇幅の上限が8%から5%に引き下げ。あるいは2年毎の値上げでは、値上げ上限が21%だったものを17%に引き下げ。

 

●正式施行日:2017年1月1日までに。

 

②マウンテンビュー市(規制対象戸数:14,000戸)

 

●1995年2月1日以前建築された共同住宅が対象。物価上昇率以上の家賃値上げの規制。上限5%下限2%とされた。また理由なき立ち退きの禁止。

 

③オークランド市(もともと1983年1月1日以前に新築で占有した共同住宅については、市が決める物価上昇率以上の家賃値上げ規制がある)

 

●理由なき立退き禁止の導入。賃貸人による借家人の家賃値上げ幅は、あらかじめオークランド市承認が必要となった。

 

今回見送りとなったアラメダ市、バーリンゲーム市、サンマテオ市、住民投票に至らなかったものの、くすぶりを見せるパシフィカ市、サンタロザ市、ラファイエット市等も引き続き注視する必要があります。

ロサンゼルス郡内の9市町村では、住宅価格が低下

それでは、レント・コントロール導入が共同住宅の価値に何らかの影響を与えるかどうかを見てみましょう。

 

サンフランシスコ・ベイエリアと同様、ロサンゼルス市およびその周辺ではレント・コントロール規制が施行されている地域がありますが、中でも1979年に導入されたサンタモニカ市は、レント・コントロールで極めて有名な街です。

 

1988年5月に出されたカリフォルニア大学ロサンゼルス校、WernerZ.Hirsch 氏の論文によると、ロサンゼルス郡内の9市町村で、レント・コントロールの導入が共同住宅の価値を7〜12%程度押し下げたことが確認されていると言います。

 

それでは、サンノゼ市における世帯数4戸以上・1979年以前建築の共同住宅(アパート)売買事例を参考に、レント・コントロール強化の前後で、売買単価に大きな変化があったかどうかを見てみましょう。

 

弊社が2015年初から2016年8月まで、商業不動産ブローカー等の各方面から情報収集・蓄積したデータをグラフに取りまとめました。

 

[図表2]レント・コントロール強化による売買単価の変化

(出所:商業不動産ブローカーから収集したデータに基づき弊社が作成)

備考:WSは「WalkScore」の略。
https://www.walkscore.com/学区(e-m-h,t)は「Great!Schools」における(小-中-高,合計)のスコア
http://www.greatschools.org/をご参照ください。
SFはスクエアフィートの略(1スクエアフィート=約0.09㎡)。
GRMは価格/フル稼働想定家賃収入。
出所:商業不動産ブローカーから収集したデータに基づき弊社が作成
備考:WSは「WalkScore」の略(https://www.walkscore.com/をご参照ください)
学区(e-m-h,t)は「Great!Schools」における(小・中・高の合計)のスコア(http://www.greatschools.org/をご参照ください)
SFはスクエアフィートの略(1スクエアフィート=約0.09㎡)
GRMは価格/フル稼働想定家賃収入

 

合計で42件のデータを、4つの単価(ドアプライス<世帯あたり価格、左軸単位:千ドル>・SFあたり単価<左軸単位:ドル>・純利回り<ネット・キャップレート、右軸単位:%>・GRM<グロス・レント・マルチプル=粗利回り>、右軸単位:倍)にまとめました。

 

ちなみに、米国では共同住宅(アパート)の売買の目安として、ドア・プライス(世帯当たり価格)が頻繁に使われています。

 

[図表3]サンノゼのドア・プライス(世帯当たり価格)

(出所:商業不動産ブローカーから収集したデータに基づき弊社が作成)
出所:商業不動産ブローカーから収集したデータに基づき弊社が作成

 

42件のうち、規制強化後に売買されたものは5〜6件にとどまりますが、あまり値段に変化が見られないものと考えます。2015年からの価格上昇トレンドは引き続き継続しているものとみて良いでしょう。

 

サンノゼ市における規制強化がそれほどきついものではなかったので、価格面で大きく値を下げる効果はなかったと言えます。もしくは、2016年第1四半期からの市況回復の影響を受けたのかもしれません。

 

今回11月に新規導入を決めたマウンテンビュー市についても、1年後あたりにデータを分析解析させて頂きます。

クラウドクレジット株式会社 商品部 商品組成担当マネージャー

北海道出身、一橋大学経済学部卒業。UCLA不動産関連科目履修。
東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)開発金融部海外不動産グループ(米国担当2年半)、ユニオンバンク(7年加州駐在)にて、不動産を中心とした開発金融・アドバイザリー業務を経験。2000年に退職後、ローンスターファンド・ラサールインベストメント等の外資系投資ファンド・日系投資会社、ブルックス・グループで、不良債権・再生・不動産・未公開企業等のオルタナ投融資の実績と経験。2017年7月より、クラウドクレジット商品部にてソーシャルレンディング関連販売ファンド組成業務に就き、現在に至る。

著者紹介

連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動産投資の最新事情

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