本連載は、諏訪貿易株式会社の会長で、世界各国の宝石および宝飾関連業者とのビジネスを行っている諏訪恭一氏の著書、『価値がわかる 宝石図鑑』(ナツメ社)の中から一部を抜粋し、主要な宝石について、その価値や品質、選び方などを紹介します。

永く身に着けることができる宝石こそ、価値がある

現在、主な宝石は約50種類あります。宝石には、人々に賞賛され、受け入れられてきた、それぞれの歴史があります。はじめに、宝石の定義、品質の7要素、品質の表示と価値の目安、価値のつき方をまとめます。

 

①宝石の定義

 

宝石は、大自然が生み出したもので、美しく、永く身に着けることができて価値を持ち続けるものです。多くの宝石は、地中の深いところで結晶し、地殻変動によって人の手の届くところにまで運ばれ、さらに人に発見されるという、いくつもの偶然が重なって存在します。

 

現在、わたしたちが目にする宝石の多くは、近代の技術によって研磨され、ジュエリーにセットされた、美しく輝くものです。硬度の高い格式のある宝石が素晴らしいジュエリーに仕立てられると、永く身に着けられる装身具となり、価値を持ち続けるのです。

 

「身に着けてこそ宝石」です。本連載では、「宝石」を「石」だけに限定せずに、「宝石の装身具(ジュエリー)」として広義にとらえて考察します。

 

参照ページは本書籍をご覧ください。
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宝石の格は「硬度」で決まる

宝石の格は硬度を拠り所にしています。ドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モース博士が考案した硬さの尺度がわかりやすいため、本連載の宝石もモース硬度順に整理しています。

 

モース硬度は、「あるもので引っかいたときの傷のつきにくさ」を10の基準宝石を使って相対的に判定しています。「叩いて壊れるかどうか」の堅牢さではありません。ちなみに、人間の爪の硬度は2½、ガラスは5です。

 

色相、産地、濃淡…7つの要素が宝石の価値を決める

②品質の7要素

 

宝石に二つとして同じものはありません。宝石の品質は7要素で見分けて、価値を判断します。

 

 

(1)色相と鉱物種

 

最初に何の鉱物かを判別します。地球上には約5000種の鉱物が存在しますが、そのうち30〜120種が宝石になりうる鉱物です。

 

たとえば、赤い透明な石があったとき、コランダム(ルビー)、あるいはスピネル、ロードライトガーネット、赤いガラス、合成ルビーかを見分けます。ガラスや合成石は宝石ではないので、他の要素で見分けることは不要です。

 

(2)産地

 

ルビー、サファイヤ、エメラルドは産地によって価値が大きく異なる宝石です。これは、それぞれの産地の固有の美しさと伝統、そして産出量に大きな差があるためです。固有の美しさの要因は、結晶が成長したときの環境の違いが、微量成分(元素)の取り込みや透明度に差を生じさせるからです。

 

産地の判別は肉眼でもある程度は可能ですが、分析による確定が必要な場合もあります。ダイヤモンドは原石群の場合は産地がわかりますが、カットされると特定できません。

 

 

(3)処理の有無

 

たとえば、コランダムという鉱物種の場合は、自然のままで美しい透明な赤色のコランダムが研磨され、宝石「ルビー〔無処理〕」に仕上がります(下記図表A)。

 

参照ページは本書籍をご覧ください。
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潜在的に美しさを持つ赤いコランダムは加熱され、宝石「ルビー〔加熱〕」に仕上がります(同B)。美しくないコランダムは、AやBのような宝石にはなりませんが、現在の技術で人工的に着色し、きれいに仕上げます(同C)。Cは人工的な加工で、大量生産が可能なため宝石としての価値はなく、他の要素での見分けは不要です。

 

(4)姿と輝き

 

現在、市場の約90%は、パビリオンとクラウンを持つカットが占めています。ブリリアント/ステップカットはジュエリーに仕立てたときの「姿」を整え、光をつかまえて「モザイク模様のパフォーマンス」を最大限に引き出します。

 

三次元のモザイクの中にダイヤモンドは輝きと分散光が、カラーストーンは濃淡さまざまな色が見てとれます。

 

 

上のミャンマー産サファイヤには、濃いブルー、淡いブルー、赤みの強いブルー、グレイみのブルー、無色や半射面の調和のとれた三次元のモザイクが見られます。身に着けたときの動きを伴ったモザイク模様のパフォーマンスが、美しさの鍵なのです。

 

カボションカットは、形、純色の度合いと透明度が優れているかが、美しさの決め手です。

 

(5)濃淡

 

カラーストーンの最適な濃さは、サイズに合わせて判定します。小粒の宝石は淡め、大粒の宝石は濃いめが美しさを発揮します。大粒の濃いめの透明度の高いブリリアント/ステップカットは、濃い色の中に光をつかまえてコクのある美しさを発揮します。

 

(6)不完全性

 

完全な宝石はありません。それは、大自然が生み出したものだからです。たとえば、ダイヤモンドのVS2グレードでは、大粒石では肉眼でキズが見えて欠点になりますが、小粒石ではキズは見えません。

 

美しさに支障がなく、劈開性を伴わなければ欠点ではありません。不完全性が自然の証なのか欠点なのかを見極めることは、プロの重要な役割です。

 

(7)サイズ

 

サイズは美しさを左右し、品質判定の決め手となります。また、ジュエリーにはスタイルによって適したサイズがあります。たとえば、ソリテール(単一の石)の指輪の場合、3ct以上のラウンドブリリアントカットのダイヤモンドは、その深さゆえにエレガントに仕上がりません。

 

一方、存在感が十分でない小粒の宝石でも、複数をまとめて使えば、連鎖や集合によって強い輝きを引き出すことができます。サイズは他の6要素に関連するとともに、ジュエリーの仕立ての方向を決める要素でもあります。

 

この話は次回に続きます。

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