今回は、不動産の「仲介手数料」に関する裁判例などについて見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

負担した「仲介手数料」が損害として認められた例

Q ①買主(借主)が負担した仲介手数料が損害として認められるのはどのような場合ですか。また、②仲介業者による仲介手数料の請求が認められるのはどのような場合ですか。

 

A ①については、売主(貸主)及び仲介業者に違法行為があれば仲介手数料相当額の損害賠償義務が認められている。なお、損害賠償については、請求者側の過失を考慮して減額されることがある。②については、買主や売主に仲介業者を排除して売買契約を締結するなど社会的相当性を欠くような行為が認められる場合に、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる余地がある。また、契約が成立したものの最終的に履行されなかった場合には、あらかじめ定められた仲介手数料を基準に一定割合減額された金額の請求が認められることがある。

 

【肯定例】

仲介業者の違法行為を認めているものとしては説明義務違反(〈①神戸地尼崎支判H25・10・28〉、〈②東京地判H25・8・21〉、〈⑦大阪地判H20・5・20〉、〈⑨東京高判H12・10・26〉、〈⑩東京地判H10・5・13〉)が多くみられる。損害について購入代金の1割とした〈②東京地判H25・8・21〉、買主側の仲介業者の過失を「被害者側の過失」として斟酌すべきであるとして損害額の2割を過失相殺した〈⑦大阪地判H20・5・20〉、(賃貸借の事例において)借主も支障となる事情を知っていたとして損害額の5割を過失相殺した〈⑧東京地判H20・3・13〉は参考になる。なお、代替建物のための仲介手数料を認めた〈⑤福岡地判H23・3・24〉と〈④東京地判H23・3・30〉は、瑕疵による損害として参考になる。

 

仲介手数料の請求については「取引の目的が達成された場合を想定してその金額が定められている」と認定し、契約が成立したが最終的に履行されなかった場合について手数料の8割の限度で手数料請求を認めた〈⑥東京地判H21・12・26〉が参考になる。

 

①神戸地尼崎支判平成25年10月28日判例秘書L06850609

マンション賃貸借契約において、家主が借主に居室内で自殺があったことを告げずに契約したことは説明義務違反であるとして、仲介手数料(2万1000円)等の損害賠償請求を認めた。

▶マンション⇒仲介手数料−請求額(2万1000円)・認容額(2万1000円)

 

②東京地判平成25年8月21日判例秘書L06830648

土地の売買契約後、近隣に暴力団事務所が存在していたことを理由に主位的請求として債務不履行解除等による売買代金の返還を、予備的請求として説明義務違反による不法行為に基づく損害賠償請求として暴力団事務所を前提とした価格と実際の購入価格との差額等の支払を求めた事案につき、債務不履行解除等は棄却したが説明義務違反は認め、購入代金1割の賠償請求及び購入代金1割減を前提とした仲介手数料の差額の賠償を認めた。

▶土地⇒仲介手数料−請求額(214万円または126万円)・認容額(63万円)

 

③東京地判平成23年10月12日判例秘書L06630575

宅地建物取引業者の媒介により有効に成立した土地建物の売却及び別の土地建物の購入に関する売買契約が依頼者の債務不履行により解除されたとして、専任媒介契約に基づく約定の報酬の支払及び一般媒介契約に基づく仲介業務手数料の支払請求を認めた。

▶土地建物⇒仲介手数料−請求額(140万2300円)・認容額(140万2300円)

 

東京地判平成23年3月30日判タ1365号150頁

分譲マンションの構造計算書が偽装され耐震強度が不足していた事案につき、構造設計を担当した元一級建築士の不法行為責任を認め、仮住まいに移転する際の仲介手数料等を損害として認めた。

▶マンション⇒仮住まい移転の仲介手数料−請求額(不明)・認容額(不明)−原告51名

 

⑤福岡地判平成23年3月24日判時2119号86頁

マンションの構造計算を行った建築士に構造計算の誤りがあったことに関する不法行為責任を認め、補修工事に伴う代替住居移転のための仲介手数料等を損害として認めた。

▶マンション⇒代替住居移転の仲介手数料−請求額(483万円=一戸1万1150円×42戸)・認容額(483万円=一戸1万1150円×42戸)

 

⑥東京地判平成21年12月26日判例秘書L06430093

土地売買契約が合意解約された場合の仲介業者の買主に対する仲介手数料請求につき、仲介手数料請求権は売買契約の成立によって発生するのが原則であるが、取引の目的が達成された場合を想定してその金額が定められているものであるから、売買契約が最終的に履行されなかった場合等には一定の減額対象になるものとして、約定手数料(663万円)8割にあたる金額(530万4000円)の限度で仲介手数料請求を認めた。

▶土地⇒仲介手数料−請求額(663万円)・認容額(530万4000円)

建物の「物理的瑕疵」を買主に告知しなかった例

⑦大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的の土地建物の売買契約において売主を仲介する仲介業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があるとの情報を認識している場合には買主に対し積極的にその情報を告知すべきであり、これを怠った仲介業者には不法行為責任が認められるとして取得した仲介手数料等の支払を命じた。なお、買主から仲介の委託を受けていた会社の過失は被害者側の過失として斟酌すべきである等として公平の見地から損益相殺後の損害額の2割を過失相殺した。

▶土地建物⇒仲介手数料−請求額(56万7000円)・認容額(不明)

 

⑧東京地判平成20年3月13日判例秘書L06331817

工場使用目的で建物の賃貸借契約を締結したものの、同建物が建築基準法に照らし工場として使用できないことが判明した事案につき、借主の仲介業者に対する債務不履行による損害賠償請求を認めたが、借主も同建物が第一種低層住居専用地域に存在することは知っていたとして、損害額の5割を過失相殺した。

▶建物⇒仲介手数料−請求額(55万2720円)・認容額(27万6360円)

 

⑨東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

がけ地を含む土地の売買につき、不動産仲介業者が買主に対して関係法令に基づく規制があること、利用が大幅に制限され、多額の擁壁工事費用が生じることも説明しなかった場合には、仲介業者には仲介契約に基づく債務不履行責任が発生すると認め、買主への仲介手数料分(370万8000円)の支払義務を認めた。

▶土地⇒仲介手数料−請求額(370万8000円)・認容額(370万8000円)

 

⑩東京地判平成10年5月13日判時1666号85頁

売買の対象となった建物に瑕疵が存在したことにつき、仲介業者以外に仲介的役割を果たした銀行や税理士の告知義務違反に基づく買主に対する不法行為責任を認めて、買主の仲介業者に対する仲介手数料相当額の賠償請求ほかを認容した。

▶雑居ビル⇒仲介手数料−請求額(700万円)・認容額(700万円)

 

東京地判平成6年9月1日判時1533号60頁

仲介業者の報酬請求に対して、買主は重要事項説明義務違反があり、これが原因で売買契約は解除されたので支払義務はないと主張したが、仲介業者の請求を認めて買主に対して305万9100円の仲介業者への支払義務を認めた。

▶土地⇒仲介報酬−請求額(305万9100円)・認容額(305万9100円)

 

⑫東京高判平成6年7月19日金商964号38頁

複数の仲介業者の仲介により成立した不動産売買契約が、売買契約の当事者の債務不履行が原因で解除された場合、各仲介業者は法定された範囲内で報酬の支払請求ができるとして仲介業者の売主に対する仲介手数料4600万円の請求を認めた。

▶不動産⇒仲介手数料−請求額(4600万円)・認容額(4600万円)

 

⑬東京高判平成6年7月18日判時1518号19頁

売買の対象となった土地、一戸建て建物に関する建蔽率・容積率について誤った新聞広告がなされ、かつ契約締結時においても仲介業者から買主に対して誤った説明がなされた事案につき、買主の錯誤無効の主張が認められ、売主の買主に対する売買代金、固定資産税分担金及び駐車料金分担金相当額の(不当利得)返還義務が認められ、かつ、仲介業者に対して不法行為に基づく損害賠償義務として仲介手数料(262万6500円)の支払義務が認められた。

▶一戸建て⇒仲介手数料−請求額(262万6500円)・認容額(262万6500円)

「損害賠償請求・仲介手数料の請求」を否定した事例

【否定例】

違約金の定めを根拠として損害賠償請求を否定した〈⑥東京地判H5・12・16〉がある。仲介業者による報酬金請求につき、仲介業者の報酬の期待を侵害する不法行為とは「売買契約が成立することが確実で、買主がことさら仲介業者を排除して売買契約を締結する等、買主らの行為が社会的相当性を欠くような場合に限られる」として仲介手数料の請求を否定した〈①東京地判H26・5・22〉、並びに宅建業法の免許を持たない者の裁判上の請求権は否定されるとした〈⑤東京地判H5・12・27〉は参考になる

 

①東京地判平成26年5月22日判例秘書L06930407

本件土地の売買仲介業務を行っていた不動産業者Aが本件土地を売主から購入した買主及び当該売買契約を仲介した不動産業者B(以下「買主ら」という)に対し、買主らが不動産業者Aを排除して当該売買契約を締結した不法行為があるとして仲介手数料相当額2706万円の支払を求めたのに対し、買主らの行為が不動産業者Aの媒介報酬の期待を侵害するものとして不法行為となるのは、不動産業者Aの仲介により売買契約が成立することが確実で、買主らがことさら不動産業者Aを排除して売買契約を締結するなど買主らの行為が社会的相当性を欠くような場合に限られるとして請求を否定した。

▶土地⇒仲介料−請求額(2706万円)・認容額(0円)

 

②東京地判平成26年4月28日判例秘書L06930345

土地を購入した買主が仲介業者に対し、近隣に暴力団関係団体事務所のビルがあることの調査説明義務に違反したとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求として仲介手数料(636万3000円)等の支払を求めた事案につき、当該ビルに関する事情は重要事項に該当するが、仲介業者が説明義務を負うのは当該ビルに暴力団関係団体事務所が存在すると認識していた場合であるとして請求を否定した。

▶土地⇒仲介料−請求額(636万3000円)・認容額(0円)

 

③東京地判平成24年2月8日判タ1388号216頁

特別地方公共団体が都市計画の情報提供のために作成した図面に高度地区表記の誤りがあったため、その表記を前提にマンション建築事業を計画し土地を購入した後に、同図面の誤りが判明したため同事業を断念した不動産業者の国家賠償請求を認めたが、表記が誤りであることを知っていれば土地を購入しなかったとはいえないこと、マンション建築を断念して同土地を売却したわけではないことから仲介料(388万811円)の損害賠償請求は因果関係がないとして否定した。

▶土地⇒仲介料−請求額(388万811円)・認容額(0円)

 

④横浜地判平成10年2月25日判時1642号117頁

建物賃借人が化学物質過敏症に罹患したとして賃借建物に新建材を使用したことは債務不履行にあたり、賃貸人の賃料等の損害賠償をした事案につき、賃貸人は化学物質過敏症の発症を予見し、対応することは期待不可能であるから過失はないとして請求を否定した。

▶賃借建物⇒仲介料−請求額(21万6300円)・認容額(0円)

 

⑤東京地判平成5年12月27日判時1505号88頁

宅建業法上の免許を持たない者は、仲介契約に基づく報酬請求裁判において報酬請求権を行使することができないとして仲介した者の契約当事者に対する1099万円の報酬請求を否定した。

▶不動産⇒仲介手数料−請求額(1099万円)・認容額(0円)

 

⑥東京地判平成5年12月16日判タ849号210頁

転売目的の鉄筋コンクリート造マンション売買契約において建築基準法上の完了検査済証を交付することが予め特約として定められていたにもかかわらず交付できなかった事案につき、完了済検査証がない場合の不都合等も斟酌して買主からの解除請求を認めたが、違約金の定め(代金の20%)があり、この損害賠償額の予定の推定を覆す反証がないことから違約金以外の仲介手数料などの損害賠償請求は否定した。

▶鉄筋コンクリート造マンション⇒仲介手数料−請求額(1749万3333円)・認容額(0円)

 

東京地判平成4年7月23日金商932号33頁

宅建業法の免許を持たない者は、不動産売買の仲介契約をしても裁判上報酬を請求することはできないとして、仲介した者から買主に対する報酬請求(1億円)を否定した。

▶土地⇒仲介料−請求額(1億円)・認容額(0円)

 

⑧東京地判平成元年7月28日判時1354号111頁

国土利用計画法適用対象不動産であるために県知事による不勧告通知等があるまでは契約及び予約を締結できない土地の売買において、県知事の許可を得られた時は速やかに売主と買主が契約締結するなどを内容とする特約を結んだが、買主の期限の延長の申入れを売主が拒否したことによって合意が失効したため契約に至らなかった事案につき、仲介業者の買主に対する2940万円の報酬請求を否定した。

▶土地⇒不動産仲介料−請求額(2940万円)・認容額(0円)

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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