今回は、武富士事件を題材に、第1審と最高裁で異なった「住所」の法解釈について詳しく見ていきます。※本連載では、青山学院大学法学部教授・木山泰嗣氏の著書『税務判例が読めるようになる―リーガルマインド基礎講座・実践編』(大蔵財務協会)の中から一部を抜粋し、近年の重要判例をもとに、法的三段論法をふまえた「税務判例の読み方」を解説します。

第1審判決で示された法解釈は…

第1審判決も、最高裁と結論は同じですが、法律の解釈については、少し違います。住所の法解釈(判断枠組みを含みます)について、第1審は、次のように判示しています。

 

武富士事件第1審判決(東京地裁平成19年5月23日判決・税務訴訟資料257号順号10717)

法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をすべき特段の事由のない限り、住所とは、各人の生活の本拠を指すものと解するのが相当であり(最高裁昭和29年10月20日判決参照)生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものである(最高裁判所第三小法廷昭和35年3月22日・民集14巻4号551頁参照)。そして、一定の場所がある者の住所であるか否かは、租税法が多数人を相手方として課税を行う関係上、客観的な表象に着目して画一的に規律せざるを得ないところからして、一般的には、住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等の客観的事実に基づき、総合的に判定するのが相当である。これに対し、主観的な居住意思は、通常、客観的な居住の事実に具体化されているであろうから、住所の判定に無関係であるとはいえないが、かかる居住意思は必ずしも常に存在するものではなく、外部から認識し難い場合が多いため、補充的な考慮要素にとどまるものと解される

外部から認識しがたい「主観的な居住意思」

特に、「一般的には住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等の客観的事実に基づき、総合的に判定するのが相当である」という判示が、注目すべき点です。

 

客観的事実の部分でみるべき考慮要素については高裁とほとんど同じです。しかし、客観的事実で止めていて、主観的な居住意思については、そのあとで「これに対し」というところで、「あくまで補充的な考慮要素にとどまる」ということをいっていますね。

 

最高裁(上告審)は、補充的な考慮要素とすらいっていないのですが、地裁(第1審)では、居住意思といった主観的なものは、外部から認識しがたいので、補充的な考慮要素に留まるということをいっています。結論は最高裁と同じで、香港に住所があるといっていますが。

税務判例が読めるようになる― リーガルマインド基礎講座・実践編

税務判例が読めるようになる― リーガルマインド基礎講座・実践編

木山 泰嗣

大蔵財務協会

裁判所の判断は、なぜ分かれたのか? 近年の重要判例である、14の事件を素材に、法的三段論法をふまえた「判決の読み方」を講義。苦手な判例の「読み方」が、自然と身につく1冊です。

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