今回は、「事業」をスムーズに承継するための権利調整について見ていきます。※本連載は、税理士・田中潤氏著『きっと今までになかった相続の権利調整を考える本』(メディアパル)から一部を抜粋し、相続を円滑に進める「権利調整」について、分かりやすく解説します。

「事業を引き継ぐ人」が他の相続人に譲歩する姿勢を

亡くなった人が工場経営やお店などの事業をしていた場合に、相続人の内でそれを継承する人とそうでない人との間で相続財産についてトラブルが起こる可能性があります。

 

一つは、その事業の場としていた不動産が全体の相続財産の中でかなり重要な場合、つまり金額が大きい場合、事業を引き継ぐ人がこの不動産を単純に引き継ぐことが難しいからです。

 

このような時は不動産を引き継ぐ代わりに他の相続人にお金を支払うことが一つの方法です。一括払いか分割払いかは、お互いの話し合いで決めます。また、不動産の名義を共有にして、事業を続ける人が地代や家賃を共有名義者に支払うというのも妥当な考え方です。こじれると、不動産を処分してお金で分けるということになり事業そのものの存続に重大なリスクが生じるので、事業を引き継ぐ人が他の相続人に譲歩した思考を持つことは大切です。

 

次に、事業を法人化していた場合その株式の相続をどうするかという点です。事業が赤字続きで株そのものに価値がなければ問題はありません。法人に財産があり、また現在の事業が好調ならば、株式は当然一定の評価額となり相続財産としての価値や相続税にも影響します。

「遺言」や「生前の株式の贈与」を積極的に活用

通常、事業を引き継ぐ人が原則として株式も引き継ぐわけですが、株式の価値が高く1人で相続すると相続上バランスが悪くなるようでしたら、他の相続人も分けて持つということにならざるを得ません。

 

但し、こうした場合も、事業をする人は事業の経営権を侵害されることのないよう、全体の50%以上は絶対に保有しなければなりません。仮に、そうすることで法定相続分を超えてしまい、他の相続人から異論が出るようなら、不動産の場合と同様、代わりに自分のお金で支払うということも一つの選択肢です。

 

なお、事業を続けてきた人は、自分の相続に際して相続人同士が対立することのないよう、事業を引き継ぐ人がスムーズに相続できるよう、遺言でその後の具体的方向を作ったり、生前に株式を贈与するなどしておくことも必要です。なお、相続税法では事業承継に関する税金の納税猶予を設けて、事業者の保護を図っています。

 

また、事業をしていくにあたって借入をして個人で連帯保証人になっていた場合は、当然リスクが各相続人に引き継がれるので、事業を引き継がない相続人もその事業の行方には無関心でいられません。事業を引き継ぐ人だけに連帯保証人も引き受けてもらわなければならないわけです。これは特に相続人以外の第三者が事業を引き継ぐ場合大きなポイントになります。

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