前回は、配偶者の優遇制度を活用した相続税の節税について説明しました。今回は大幅な節税が期待できる広大地の規定について、どのような基準で判定されるのかを見ていきます。

「広大地規定」は、やり方次第で節策の本命となり得る

ここからが、土地評価への工夫による節税策の本命の部分です。相続税の多寡に、最大かつダントツに影響を与えるのは「広大地の規定」です。そして多くの場合に、適用されるべきこの規定が適用されないまま、余分な税を極めて多額に納付しているケースが多いのです。

 

不動産には「面大減価」といって、面積が大きくなればなるほど坪単価が下がっていくという傾向があります。

 

不動産は高額な資産であるだけに、買い手の予算が大きく関係してきます。年収に限りがあるほとんどの人は、5000万円、1億円といった総額の大きな土地等は買うことが難しいでしょう。いきおい、土地面積の狭い購入可能な土地等でなければ売れないのです。したがって、広い土地のままではその単価は大きく下がらざるを得ません。その結果、広い土地の多くは細分化されていきます。

 

また、より広大な土地は開発事業者しか買い手がいません。彼らは一般消費者が買えるような面積に分割します(下記の図表参照)。そのときには、当然、つぶれ地と言うべき道路を作らなければなりません。したがって、こうした土地にするには全体の2〜3割にのぼる(図表では約26%)つぶれ地の負担、全体の造成費(水道等の設置を含む)を要します。

 

 

[図表]広大地の開発例
[図表]広大地の開発例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その上、これを販売するまでの広告費、その他の販管費、借入利息、そして事業利益の確保が必要です。その結果、こうした面積の広い土地の単価は、その面積や道路付けに応じて3〜6割という大きな幅で下がることになります。

 

このような広大地の特性から、平成16年の改正以降、国税庁は一定の広大地につき補正を次のような算式で行うように定めました。なお、規定の対象となるのは500㎡以上(地方都市では1000㎡以上)の面積の土地です(ただし5000㎡超は5000㎡とする)。

 

広大地補正率=0・6-(0・05×広大地の面積÷1000㎡)

 

この規定によれば、2000㎡の土地で評価額はちょうど半分(0・5)になります。広大地の最小面積の500㎡だと0・575(42・5%減額)で、最大面積の5000㎡だと、何と0・35(65%減額)にまで下がります。この強烈な減額規定を示す算式は、実際の多くの鑑定評価事例を集め、統計的に処理して求めたとされています。つまり、この減額率は実勢を反映しているわけです。

普通の税理士は「適用」の判断から逃げたがる!?

広大地は面積が大きいだけに評価額の絶対値も大きくなります。規定が適用できれば多額の税を減らすことができます。しかし、普通の税理士はなかなか広大地規定を適用しようとしません。なぜならば、広大地規定はできるかどうかの判断がかなり難しいからです。その結果、「下手にこれを適用して税務署に否認されてはたまらない」とばかりに適用を避けて(逃げて)しまうわけです。

 

判断が難しいケースの典型はマンション敷地です。立地がマンションや大型事務所ビルに向いた商業地のような土地では、むしろ面積は広いほうが有利です。そこに床面積の広い大型の建物が建てられるからです。こうした土地(マンション適地)には、当然に広大地の減額規定が適用されません。となると問題は「どこがマンション適地か」です。

 

むろん山手線の内側の土地であればマンション適地であることは明らかでしょう。しかし、大都市の近郊にはマンション建築には向いているような、いないような、何とも言えない土地がたくさんあります。確かに国税当局は容積率等を目安とする判断基準を示してはいます。その判断のポイントは、その周辺における既存の分譲マンションと戸建開発分譲地のどちらが多いかです。

 

ただし、実務上はそれをどうやって判断すればいいのかがわかりません。そこでほとんどの税理士は、分譲マンションが多少なりともあればすぐにあきらめてしまうようです。
少し遅れて国税庁は、マンション適地以外にも広大地に該当しない土地の例示を書面で示しました。その一つに「有効利用されている建物の敷地」があります。

 

本来、土地の相続税評価は利用状況の良否に関係なく行うものとされており、この例示は不合理なのです。とはいえ国税庁の指示である以上、税務署は当然にこれにしたがいます。

 

となると問題は「有効利用とは何か」です。高層賃貸マンションなら有効利用はほぼ間違いないでしょうが、小さなアパートではどうなのか。考えようによっては自宅敷地であっても有効利用しています。実務上の境目は、収益性の高いものが有効利用とされているようですが、これも曖昧で困ってしまうのです。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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