前回は、誤解の多い連年贈与や名義預金の注意点について解説しました。今回は小規模宅地等を利用した対策について見ていきます。

評価額が8割引きになる「小規模宅地等の特例」

前回までの連載では、不動産を中心に、これらの相続税を減らしつつ、いかに相続人に承継させるかという前段の説明をしてきました。つまり、親の生前の話であったわけです。これからは、相続発生後において相続財産である不動産を低く評価することなどにより、いかに節税していくかという話になります。

 

ともすると皆さんは「同じ相続財産であれば誰がどのようにやっても同じ評価額になるはず」とお考えかもしれません。しかしそうではありません。預金の1000万円は誰が評価しても1000万円ですが、土地に関してはやりようによってガラッと変わってきます。

 

評価規定をしっかり理解した上での工夫した評価と、これを漫然と適用した評価では、大変な差が生じます。なお、この種の本格的な話は後日の連載でご紹介します。

 

そこで皆さんには、まず「不動産はやり方しだいで評価規定が変わる」という点を具体的にご理解いただきます。そして、それを前提に、そのような評価が可能となるような状況を生前におつくりいただけたらと思います。なお、事の性格上、ここでは土地の評価規定の説明といった側面が強くなります。したがって多少ごちゃごちゃした記述になります点をご容赦願います。

 

まず、最初は「小規模宅地等の特例」です。これは被相続人の居住用宅地に関しては、その評価額を8割引きにするという大特例です。

 

簡単に言うと、相続対象のマイホームの土地評価額が1億円であれば、その評価額が2000万円になります。迫力満点の減額規定です。まあ「生活の本拠」にドカッと課税するのはいかがなものかというわけなのでしょう。

 

ただし「生活の本拠」は、本来そう広い土地である必要はありません。したがって減価の対象は330㎡(平成27年1月から適用。それ以前は240㎡)までの部分です。またこの特例は8割減と効果が大きいため、かなり厳しい適用要件があります。

要件が満たせないなら、何としても「家なき子」に

まずこの土地を相続する人は、配偶者か被相続人と同居していた親族に限られます。したがって、同居していない子らが相続してもダメです。ですから、適用が受けられるような遺産分割を行う必要があるわけです。何より、配偶者のいない親の面倒をみていた長男夫婦が、同じ敷地でも別棟に住んでいた場合は適用が受けられません。これが最も厳しい点です(二世帯住宅であれば入り口が別という構造でもOKです)。

 

その一方で、こんな有利な規定もあります。

 

同居していない親族がこれを相続しても、その人が過去3年間、自分もしくはその配偶者の所有するマイホームに住んでいなければ適用を受けられると言うものです。これは俗に「家なき子」規定と称されています。「親と同居したくても転勤などでそれがかなわない人」を救うのが規定の趣旨のようです。

 

さて、繰り返しになりますが、同一敷地の別棟で親を懸命に介護している息子(娘)夫婦はこの適用を受けることができません。むろん同居していないからです。そこで何とか受けられるような工夫を考えてみましょう。

 

まず親に配偶者がいれば、その配偶者が宅地を相続して適用を受ければいいでしょう。
しかし、親が独り身になっている場合は、何とかして「家なき子」の規定に持ち込むことです。つまり、息子(娘)夫婦の家が親の名義になっていればいいのです。

 

ですから、すでに夫婦の名義になっている場合は、その家を親に買い取ってもらいましょう。その際にはしっかり登記することが必要です。そしてその後、3年経過すれば即「家なき子」です。なお、敷地の名義は誰のものでもかまいません。

 

売買価格は固定資産税評価額をめどに考えてください(高くとも500万円ぐらいでしょうか)。金額は高ければ高いほうが節税対策になります。親の金融資産が子に移転することになるからです。

 

ただし、これらを行うに当たっては注意すべき点があります。税金をたくさん取りたい税務署は、当然このような節税策に難を示します。後日、「なぜわざわざ親子間で家を売買したのか?」と問われる可能性があります。正直に「節税対策です」と答えるよりも「これこれの理由で急にお金が必要になったから」などと、もっともらしい理由を用意しておくべきでしょう。なおこの「家なき子」作戦は、親と同一の敷地に住んでいなくても使うことができます。

「小規模宅地等の特例」は自宅以外にも使える

ところで、この「小規模宅地等の特例」の対象は、今までお話ししたマイホームの敷地だけではありません。200㎡までの賃貸建物の敷地の5割減、さらに被相続人らの営んでいる事業のための建物の敷地(400㎡まで8割減)があります。ただしこれらは原則として併用できず、どれかを選択することになります。


とはいえ、このマイホーム用の減額が受けられない場合には「200㎡まで5割減」と減額幅は少ないものの、この賃貸住宅敷地で代用すれば相応の節税効果が得られましょう。

 

いずれにしても、この「小規模宅地等の特例」の仕組みはかなり複雑です。規定に微妙な部分もあります。となると「配偶者の税額軽減」の規定や、二次相続における税負担を考慮の上、誰がどの土地についてどのような特例を受けるか、そのためにはどのような遺産分割をすべきか、これらをしっかり考え、的確な対応を取ることが求められているわけです。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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