「中国経済の失速」が懸念され、世界各国のマーケットにも大きな影響を及ぼし始めている。実際のところ、中国経済は大丈夫なのか。本連載では2回に分けて、その実態を解き明かしていきたい。

求められるのは中長期的な観点

経済指標が相次いで悪化する中で株価が急落、また輸出テコ入れとも見られる人民元相場の引き下げ調整も行われた。中国経済の実態はかなり悪いとの見方が広がり、世界経済の不安要因になっている。世界同時株安を受け、中国当局は8月25日、追加緩和策を発表した。しかし本問題については、個々の指標に過度に反応するのではなく、むしろ中期的観点から中国当局の政策対応を注視していくことが重要だ。


さて、中国経済上期GDPは前年比7.0%、政府目標どおりの伸びだったが、市場では統計の信頼性への疑念が再燃している。他の経済指標が軒並み悪化しているためだ。より景気の実態を表わすと言われる「李克強指数」を構成する電力消費量(13年7.5%増、14年3.8%増、15年1-8月1.0%増)、鉄道貨物量(同1.6%増、3.9%減、1-7月10.2%減)人民元融資残高(同14.1%増、13.6%増、15年1-8月15.4%増)はいずれも悪化または弱含み、特に中小企業の景況を示すと言われる財新製造業景況指数(PMI)は、景気の分かれ目と言われる50のラインを下回り、3月以降大きく落ち込んでいる。

 

 

1-8月の投資、中でも不動産が大きく減速、工業生産額も6.3%増と前年の8.3%増から鈍化した。1-8月の輸出は前年比1.6%減、輸入は14.6%減、通年の貿易伸び目標6%増はほぼ達成不可能で、すでに商務部も実質的に目標を「プラス成長維持」に変更している。消費者物価指数(CPI)、製造業出荷価格指数(PPI)も弱い。CPIが強含みだった2月は春節の影響、7、8月は周期的に急騰、急落を繰り返す豚肉価格が急騰局面に入ったという特殊要因がある。

 

各種経済指標の「かい離」をどう見るか?

各種指標から見て、中国経済の基調がかなり弱いことは間違いない。ただ中国内のエコノミストら(国奏君安証券等)も注目する、以下のような指標間のかい離、その背後にある要因を冷静に見ると、実態を過度に悲観する必要はなく、むしろ各種指標の動きも、経済構造の変化を反映するものと見ることができる。


①成長率と雇用とのかい離。昨年成長率は7.4%と1990年以来の低い水準だったが、目標1000万人を大きく上回る1300万人以上の雇用創出、また本年上期も718万人、すでに目標達成率71.8%だ。第3次産業比率の比重が上昇する一方、その単位当たり雇用吸収力が2次産業より高いためだ。3次産業の生産額シェア、就業シェアは各々、2010年44%、35%から14年48%、41%へと上昇している。雇用は李克強首相の「最大の関心事」で、同首相は繰り返し「雇用が民生の基礎」「成長の背後にある雇用状況をより重視」と強調しているが、基本的に雇用は安定している。

 

②李克強指数と成長率とのかい離。これまでは、エネルギーの70%以上を石炭が占め、その約半分は鉄道輸送に依存していたことから、電力消費量や鉄道貨物量が景気の実態を示すとされてきたが、産業・エネルギー構造の変化、GDP単位当たりエネルギー消費の低下(対GDP弾性値は2010年0.69、14年0.3)などから、両指標と電力消費量等とGDP、ひいては工業生産額とGDPとの相関が弱くなっている。また、社会融資総額に占める銀行の人民元融資の割合が近年低下(2012年初76%、14年末41%)、信託融資等の影の銀行(シャドーバンキング)が拡大し、企業の資金調達ルートが多様化する中で、伝統的な銀行融資が実体経済に与える影響の度合も低下している。

 

③貨幣供給量(M2)とCPI、PPIとの弱い相関。13年頃まではマネーが住宅市場に流れ資産価格を押し上げ、またここ2,3年は、高金利の理財商品等の影の銀行に流れていたため、マネーが実体経済に回って消費や投資を刺激せず、CPIやPPIにあまり影響しないようになった。

 

④マクロ成長率とミクロの企業業績のかい離。過剰設備を抱えた一部製造業が成長率の足を引っ張っているが、産業構造変化の中で、むしろ業績が改善している企業も多い。上期、企業全体の利潤は前年比0.7%減少したが、41産業分類で、プラスの伸びを記録した産業は30、マイナスになったのは石炭、石油採掘、金属関係など11に止まる。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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