今回は、「持分の定め」の有無から見た医療法人M&Aの留意点を解説します。※本連載は、株式会社日本M&Aセンターの医療介護支援室長、谷口慎太郎氏の編著『病医院・介護施設のM&A成功の法則 改定新版』(日本医療企画)の中から一部を抜粋し、具体的な事例をもとに、病医院・介護施設のM&A成功の法則を解説します。

「持分の定めあり」の場合、社員と出資者の違いに注意

医療法人M&Aの分類は、大きく「持分の定めあり」と「持分の定めなし」の2つに分かれます。まず組織を構成する要素を整理します。

 

【図表1 「社団医療法人―持分の定めあり」の組織構成】 

 

当社でもっとも相談・成約実績が多いのは、この「社団医療法人―持分の定めあり」というケースです。このケースに焦点を当てて考えた場合、社員・理事・監事の三者に追加して「出資者」への留意が必要です。

 

医療法人における出資者というのは通常、上記の通り社団医療法人の設立時に財産を出資した者を指し、創業者である理事長が社員かつ出資者を兼ねているケースが一般的です。ここで、出資者と社員の地位はイコールではないというのが大きなポイントとなります。

 

社団医療法人の最高意思決定機関である社員総会における議決権の考え方が、出資額の多寡ではなく「1人1議決権」なのです。株式会社でいう「1株1議決権」とは大きく異なります。つまり、1億円出資した社員Aと1円出資した社員B、究極的には1円も出資していない社員Cの議決権割合は、法律上全くの同等ということになります。

 

では出資者のメリットは何なのかというと、出資者は対象医療法人を退社する際に、その出資持分につき、その割合に応じて払戻しを請求することができる権利を有するということです。

 

また対象医療法人が解散をした場合には、残余財産の分配請求権も有します。つまり出資した段階よりも医療法人の規模が大きくなっていれば、いわゆるキャピタルゲインのようなイメージで経済的価値を獲得できる権利を有するのです。

 

M&Aで病院を譲渡し、後継者問題や先行不安を解決するためには、「経営権の譲渡」と「経済的価値の獲得」を大原則として実現させる必要があります。上述したことを踏まえると、「社団医療法人―持分の定めあり」の場合、この両輪を充足させるためには「出資持分の譲渡」+「社員の入社・退社」という2つの手続きの組み合わせが必要となります。

 

【図表 出資持分譲渡+入社・退社】

「持分の定めなし」の医療法人は出資持分の概念がない

次に「持分の定めなし」の医療法人について説明します。例えば特定医療法人・財団医療法人・社会医療法人といった医療法人には出資持分の概念がありません。これらの医療法人をM&Aの検討対象とした場合は以下の方法で行うのが一般的です。

 

【図表 「財団医療法人―持分の定めなし」の組織構成(代表例)】

 

持分の定めのない医療法人M&Aの場合は、主に理事・監事・評議員を買い手が指定するメンバーに変更することで、経営権が移ります。その対価としてこれらのメンバー変更の際に退職金を支給するという手法が一般的です。退職金の支給額のみでは金額が折り合わない場合は、継続的な報酬を支払うことで対応します。

 

これで「持分の定めのない」医療法人M&Aの場合の手続きは完了しますが、それよりも難しいのは、評議員の方たちにどう「納得」してもらうかということです。出資持分がないので経済的なモチベーションが発生しないケースがほとんどで、かつ経済的な面は度外視で就任されている方が多いのが実情です。したがって、きちんとした説明でM&Aの必要性を理解してもらうことが極めて重要なポイントになります。

本連載は、2015年10月15日刊行の書籍『病医院・介護施設のM&A成功の法則 改訂新版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病医院・介護施設のM&A成功の法則 改訂新版

病医院・介護施設のM&A成功の法則 改訂新版

谷口 慎太郎

日本医療企画

M&Aが経営を変え、地域の医療・介護の未来をつくる! 進展する超高齢社会は、日本の社会構造をはじめ、医療・介護の経営環境を変貌させる。 2025年に向けて、人々の安心と安全な暮らしを守るために、経営者がくだすべき判断…

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