今回は、金融円滑化法によって救われた中小企業の「その後」について見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。

金融円滑化法の施行後、大きく増加した倒産件数

前回、金融円滑化法の弊害について述べましたが、そのような指摘を裏付けるデータがあります。金融円滑化法を利用して借入金の支払猶予を受けた企業が、その後、倒産した件数が年々増えているのです。

 

金融円滑化法の施行直後である2010年度では倒産件数は53件にすぎませんでしたが、年を追うごとに増加し、2013年度には545件に達しています。

 

金融円滑化法は企業の資金繰りを支援する法律です。借入金等の金融負債の支払を停止することにより、資金繰りは一時的に楽になり、目先の資金ショートは回避することができます。そのため、いったんは倒産を回避して、事態の先送りができます。

 

しかし、これはあくまで一時的な延命措置にすぎず、業績不振の企業についての抜本的な再建策にはなりません。これらの企業を抜本的に再建するためには、売上を伸ばし、費用を削減する等して、事業構造の改革を行い、損益や財務内容を改善する必要があります。業績不振の企業が営業損益で赤字を計上しているような場合は、その黒字化を図らなければ、どんどん手元資金が流出して資金が枯渇し、いずれは取引債務の支払すらできなくなってしまいます。そうなれば、倒産は避けられません。

 

金融円滑化法利用後の企業の倒産数の増加というデータ(図表1)は、金融円滑化法によりいったんは倒産を先送りしたものの、抜本的な再建にはいたらず、その後に最終的には倒産してしまう企業が増えているということを裏付けています。

 

【図表1 「金融円滑化法利用後倒産」の推移】

(出所:帝国データバンク 第12回「金融円滑化法利用後倒産」の動向調査)
(出所:帝国データバンク 第12回「金融円滑化法利用後倒産」の動向調査)

「リスケ」による倒産回避は「事業の再生」ではない

前述の通り、業績が悪化した企業について、支払猶予という資金繰り支援によって一時的な倒産を回避することはできます。しかし、それは本当の意味での事業の再生になるわけではありません。借りたお金はいつか返す必要があり、恒久的に支払が猶予されるわけではありません。

 

そこで、支払猶予を得た上で、資金繰りを確保し、再建のための対策をとる時間を得つつ、その間に事業収益を改善して黒字化し、事業の再生を図っていく必要があります。中小企業の経営改善に向けた出口戦略が求められています。

 

この点、金融円滑化法の失効後の総合的な対策の1つとして、中小企業・小規模事業者に対する経営支援の強化があり、その中で、中小企業再生支援協議会の機能強化があげられています(下記参照)。

 

そして、実際の中小企業再生支援協議会に対する相談件数の推移(図表2)をみると、2009年12月に金融円滑化法が施行された後、2010年度以降はいったん相談件数が激減していました。しかし、2012年度末の同法の失効に向けて件数が増加し、2012年度が3712件、2013年度が4128件と急増しています。

 

金融円滑化法の施行後に相談件数が激減した理由は、以下の通りと考えられます。もともと中小企業再生支援協議会の重要な機能の1つは、金融機関間との調整による借入金の支払猶予(リスケ)でした。ところが、金融円滑化法の施行により、多くの企業が同協議会の支援なしに簡単にリスケを受けられるようになったため、2010年度にいったん相談件数が激減したと思われます。

 

しかし、その後の2012年度末の金融円滑化法の失効をにらんで、中小企業の経営改善への取組みに向けた意識が高まり、同年度以降、中小企業再生支援協議会への相談件数が増加したものと推測されます。

 

【図表2 相談企業数の年度推移】

(出所:中小企業再生支援協議会の活動状況について〜平成25(2013)年度活動状況分析〜)
(出所:中小企業再生支援協議会の活動状況について〜平成25(2013)年度活動状況分析〜)

 

【参考】

中小企業金融円滑化法の期限到来に当たって講ずる総合的な対策

関係省庁が連携して、以下の施策を推進

 

Ⅰ.政府全体として円滑化法終了に対応する体制の構築

○関係省庁が連携した「中小企業金融等のモニタリングに係る副大臣会議」を設置

 

Ⅱ.金融機関による円滑な資金供給の促進

金融検査マニュアル・監督指針に以下を明記し、検査・監督で徹底

➢(円滑化法終了後も)貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めること

➢他の金融機関等と連携し、貸付条件の変更等に努めること

 

地域経済活性化支援機構法に、金融機関は金融の円滑化に資するよう努めるべきとの趣旨を規定

➢機構法案64条「機構及び金融機関等は、…金融の円滑化に資するよう、相互の連携に努めなければならない

 

金融業界は、円滑化法終了後も貸付条件の変更等に真摯に対応していく旨を申合せ

 

○金融機関に、貸付条件の変更等の実施状況の自主的な開示を要請

 

Ⅲ.中小企業・小規模事業者に対する経営支援の強化

○金融機関に対し、中小企業・小規模事業者の経営支援に一層取り組むよう促す

⇒金融検査マニュアル・監督指針に、中小企業・小規模事業者の経営改善を最大限支援していくべき旨を明記し、検査・監督で徹底

⇒金融機関が中小企業・小規模事業者の経営支援に係る取組状況等を公表

 

○独力では経営改善計画の策定が困難な小さな中小企業・小規模事業者に全国約11200の認定支援機関(税理士、弁護士等)が計画策定を支援

中小企業・小規模事業者(2万社を想定)の経営改善計画策定に関し、

•認定支援機関に対する研修の案施【予備費・補正予算:15億円】

•認定支援機関が行う計画策定支援やフォローアップに係る費用を補助

【補正予算:405億円】

 

年間数千件程度の再生計画策定支援の確実な案施のため、中小企業再生支援協議会の機能強化を図る

⇒各都道府県の協議会・全国本部の専門人員の抜本的増員等【補正予算:41億円】

 

○企業再生支援機構を地域経済活性化支援機構に改組・機能拡充

【当初予算政府保証枠:1兆円】

⇒直接の事業再生支援に加え、地域の再生現場の強化地域活性化に資する支援のための機能(専門家の派遣、事業再生・地域活性化ファンドへの出資等)を追加

【補正予算:30億円】

 

○経営支援と併せた公的金融・信用保証による資金繰り支援

経営支援型等のセーフティネット貸付【事業規模:5兆円】

⇒複数の借入債務を一本化し返済負担軽減を図る借換保証を推進【事業規模:5兆円】

⇒政府系金融機関による資本性劣後ローンの拡充【事業規模:0.4兆円】

 

全都道府県に中小企業支援ネットワーク(※)を構築し、参加機関が連携して中小企業・小規模事業者の経営改善・事業再生を支援

⇒定期的な情報交換会や研修会による経営改善・事業再生ノウハウの向上、個別の中小企業・小規模事業者の支援の方向性を検討する枠組み(経営サポート会議)の構築等

(※)信用保証協会を中心に、商工会・商工会議所・中小企業団体中央会、税理士・弁護士・公認会計士、中小企業診断士、地域金融機関、政府系金融機関、中小企業再生支援協議会、地方公共団体、財務局・経産局等により構成

 

Ⅳ.個々の借り手への説明・周知等

金融機関は、円滑化法終了後も顧客への対応方針が不変であることを個々の中小企業・小規模事業者に説明

 

○円滑化法終了後も金融機関や金融当局の対応が不変であること、各種の中小企業・小規模事業者支援策を、商工会、中小企業団体中央会、税理士会、公認会計士協会、中小企業診断協会、行政書士会等を通じ、中小企業・小規模事業者に幅広く説明

 

わかりやすいパンフレットの作成、新聞広告など政府広報を活用した中小企業・小規模事業者に対する広報の実施

 

○経済産業省に「中小企業・小規模事業者経営改善支援対策本部」を設置し、関係団体、認定支援機関に対し、各種施策の積極的活用を要請

 

○金融庁及び中小企業庁等において、中小企業・小規模事業者等に対する説明会、意見交換会等を集中的に実施

 

○全国の財務局・財務事務所に「金融円滑化に関する相談窓口」、全国の経済産業局、中小企業再生支援協議会、公的金融機関など関係機関に「経営改善・資金繰り相談窓口」(約580カ所)を設置し、中小企業・小規模事業者からの個別の相談・苦情・要望にきめ細かく対応

 

(出所:金融庁HP)

本連載は、2015年1月20日刊行の書籍『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

よくわかる中小企業の継ぎ方、 売り方、たたみ方

松村 正哲,小宮 孝之,荒井 邦彦

ウェッジ

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