今回は、海外アウトソーシング、海外移転の落とし穴について説明します。※本連載は、コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

情報のやり取りや、品質の維持が難しい「海外移転」

自社の資源を得意領域に集中するため、それ以外の領域においてはアウトソース(その領域を専門として、色々な企業から受託している別の会社へ委託すること)を活用することは、現在の日本企業において必須ともいえる手段になっています。ところが委託先が海外となると、いっきにそのハードルが高くなります。

 

個別の機能のコスト・人件費単価は圧縮できても、情報のやりとり(トランザクションコスト)や品質保証・維持にかかる手間が実際に発生してくると、当初の見込みよりも効果が小さくなってしまうことがあります。

 

さらにはリスクや納期対応などの時間的な信用を考慮した場合には、むしろ損をしているということもあり、元に戻す・撤収する企業もあります。

時間単価の安い労働力ほど、逆に「コスト」がかかる!?

海外アウトソースは言葉で言うのは簡単ですが、例えば自分がデータ分析を担当していたとして、

 

「あなたの仕事をこれからは大連の企業にアウトソースするので、とりあえず先方の中国人スタッフにきちんと教えてください。その後はあなたがその結果をチェックしつつ、それまで自分が分析にかけていた時間は○○の仕事をしてください」

 

と言われたら、「え! 大変だなあ。そもそも無理だよ」と思うのではないのでしょうか。仮に日本人のスタッフが先方にいたとしても、最終的な品質を維持することについては、言葉の問題は関係ありません。

 

会社から見れば時間単価2000円の人がやっていた仕事を、その1.5倍の時間がかかるものの時間単価500円の人がやってくれるのであれば、経費が1時間あたり2000円-750円=1250円軽減される計算になります。1日8時間を20日間行うと考えると160時間分、つまり月額20万円の経費削減になります。

 

仮に残業が多くなって割増分が100円×40時間発生していた(正確な説明は省略しますが、1日のうちに過剰に長時間労働させると、追加で単価を上げたりしなければなりません)としても、19万6000万円です。

 

ところが、出てくる分析結果にミスがないかのチェックに1日2時間割くことになり、2日に1回ミスがあってその修正指示に2時間かかるとしましょう。

 

そうなると当初の試算より月額2000×(20×2+20÷2×2)=12万円がかかることになります。つまりトータルで見たら7万6000円の経費削減と、効果は期待の半分以下になってしまいます。

 

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

出口 知史

徳間書店

現役東大生を対象に著者が行っている経営戦略の講義が待望の書籍化。 今年で9年連続となる人気講義には、経営者が判断を誤る背景、成果主義の弊害、新興国進出の損得、アウトソース依存による空洞化危機、危ない経営の見抜き…

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