前回は、募集開始から16カ月空室が続く賃貸ビルのケースを取り上げました。今回は、空室が続いたこの賃貸ビルの問題点について見ていきます。

自分のビルの賃貸相場を把握できているか?

前回に引き続き、16カ月も空室だったビル経営の問題点について見ていきます。

 

ひとつはそもそもの募集条件です。このビルでは競合となる周辺のビルや市場の動向について貸ビル専門の仲介会社から資料を集め、それをベースにして募集条件を決めていました。紙の上の資料を見るだけで現在の市場を見ようともしない。ここに大きな問題があったのです。

 

オフィスビルの市場は同じ不動産でも住宅より値動きが速く、景気などに応じて乱高下します。特に駅から遠い、新しく開発されたオフィス街である場合には、古くからのオフィス街よりも価格変動が激しく、かつビルの個別性による価格差が大きく出ます。

 

つまり、周辺の値動きは激しくなり、相場はつかみにくくなっていたなかで、自分のビルの価値を知るためにはビルのメリット、デメリットを客観的に把握する必要がありました。ところが、このビルではそのどちらの作業も行われておらず、過去の高かった時期の賃料を参考に募集条件が決められていたのです。これでは借りてくれる企業がなかなか現れないのは当然です。

 

市場動向、競合ビルの条件、動きなどについて常にリアルタイムで把握、自ビルについて客観的にプラスマイナスを知っておくべきなのです。

テナント交渉は相手を徹底的に調べてから行う

次の問題点は、最終的な判断を下す立場にある社長に必死さが足りないことでした。実のところ、空室の16カ月の間に借りたいという企業がなかったわけではありません。申し込みはあったのです。

 

それは空室となっているフロアの大半を一括で借りたいというものでしたが、それには募集条件にあった賃料よりもかなり低い金額での指値がついていました。これに対し、社長はただ数字だけを見て、当初の募集条件と指値の中間となる額での決着を図るよう、指示を出しました。しかし、金額だけで優良なテナントを選べるものでしょうか? また、単純に中間の額を取るという結論で、経営の収支は合うのでしょうか?

 

当社では申し込みがあった場合、その企業がどんな事業を行っているのか、どのような理由でオフィスを移転しようとしているのか、ほかにどのような条件のビルと比べて検討しているのか、指値を拒否した場合にどういう対応をするつもりなのかなどといった点について徹底的に調べます。

 

よしんば相手が指値をいってこなかったとしても、経営状況の危ない企業をテナントにすることは将来に大きなリスクを抱えることになりますし、厳しい指値をいいながら、本音ではそこまでの値下げを期待していないのに、相手のいうなりの値下げをするのは大きな損となります。

 

実際、指値を出す企業の多くはやみくもに条件を出しているだけで、それが断られてもさほど気にはしないもの。そんな相手に無用の譲歩をする必要はありません。テナント選び及び指値などに対する交渉は相手を知ることから始まるのです。

 

しかし、このビルでは社長がこのような態度ですから、当然、ほかの役員も同様です。仲介を依頼した会社も仲介すればよいだけの立場ですから、申し込んできた企業について調べることなどはしてくれません。これではまとまる交渉もまとまるはずはなく、空室期間はさらに延びていきました。

本連載は、2010年12月21日刊行の書籍『空室を抱える中小オフィスビルオーナーのための満室ビル経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

空室を抱える 中小オフィスビルオーナーのための 満室ビル経営

佐々木 泰樹

幻冬舎メディアコンサルティング

サブプライム問題、リーマンショックを経て、悪化した賃貸オフィスビル市場は依然厳しく、地方都市では都心以上に苦しい状況にあります。 そのような中、特に中小規模のオフィスビルは、バブル期以前に建った築20年以上のビル…

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