前回は、不動産の登記にまつわるトラブルについてご紹介しました。今回は、不動産の「代襲相続」に関するトラブルについて説明します。

親より子が先に亡くなるケースは多いだけに・・・

超高齢化の今、親よりも子が先に亡くなるといったケースは珍しくありません。それに伴って、代襲相続も増えてくるだろうと筆者は予想しています。代襲相続は、孫が相続に絡んでくることで、さまざまなトラブルに発展しやすい面を持っています。

 

例えば、孫が本当に法定相続人なのかをはっきりさせるために、故人の出生から死亡までの戸籍謄本を役所から取り寄せます。孫が多ければ、その調査にも時間がかかります。分割協議や相続の手続きなども複雑になります。

 

被相続人である祖父母と疎遠に暮らしてきた孫が、いきなり代襲相続と言われて戸惑ってしまうこともあります。あるいは、被相続人に子が複数いて、その孫同士(つまり、いとこ同士)の交流がなかったりすると、ほぼ初対面の者たちで分割協議をしなくてはなりません。

 

もっと単純に、孫が地方に散り散りになっているだけで、分割協議もしにくく、協議書にハンコをもらうために東奔西走しなくてはいけないこともあります。その気苦労、体力的な消耗は、たとえ税理士や弁護士などの代理人を立てたとしても相当なものです。

亡夫の妹との不動産共有が関係悪化のきっかけ

実際にこんなケースがありました。両親と長男・長女の家族の話です。父は数年前に亡くなり、母と長男・長女で一次相続を済ませました。遺産のメインは、1階部分が自宅で、2階、3階部分が賃貸マンションになっているタイプの不動産でした。自宅部分を母と長女が相続し、賃貸マンション部分を長男が相続しました(図表参照)。

 

[図表]賃貸マンションの区分所有と代襲相続
[図表]賃貸マンションの区分所有と代襲相続

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2年後、長男が若くしてガンで亡くなりました。長男には妻と子が2人います。長男の遺産である賃貸マンションは、妻が相続しました。この時点で、長男の妻と、母と長女の3人が1つの不動産を分け合う形になっています。

 

実は、おとなしい性格の長男の妻と、勝ち気な長女は以前からあまり仲がよくなく、すでに火種はこの段階からくすぶっていたようです。また、長男の妻は姑である母ともしっくりいっていませんでした。これまで盾になってくれていた夫である長男が亡くなったことで、長男の妻への風当たりは強くなっていきました。母は2人の孫だけはかわいがっていましたが、独身の長女にしてみれば、それもおもしろくなかったのだと思われます。

 

そして、今回、母が亡くなり二次相続が発生しました。相続人は長女と、長男の代襲相続人である孫2人です。かねてから長男の妻に不満を抱いていた長女の気持ちが、ついに爆発しました。「嫁のくせに親の面倒も見ないで、孫を取り入らせて遺産だけもらおうなんてずるい。母の面倒を最後に見たのは私なのだから、母の遺産は私がもらうのが当然でしょ。孫たちの代襲相続は放棄してもらうわ」と長男の妻に言い放ったのです。

 

長男の妻は長女に言われるがまま、未成年である子らに代わって、「代襲相続を放棄します」という書類にハンコを押してしまいました。長男の妻は「このままでは、夫から相続した賃貸マンションと土地まで、長女に取り上げられてしまうかもしれない」と危惧して、私のところに相談に来られたのでした。

 

長男の妻は、「長女はあのような性格だから、母の遺産をよこせと迫ってくることは予想ができた。自分もトラブルは嫌だから、それでいいと思っていた。しかし、実際にハンコを押してみて、それが長女の傲慢さに拍車をかけることになってしまった。長女の怒りの矛先が2人の子におよぶのだけは避けたい」と言っていました。

一次相続の段階での対策がやはり重要に

このようなケースでは、一次相続の段階で、区分所有にしたことがまずかったと思います。その時点では長男もまさか自分が親より先に死ぬことになるとは思っていなかったでしょうから仕方のない面もあるのですが、せめて自分がガンであるとわかった時に、何らかの対策をしておくべきでした。

 

例えば、自宅と賃貸マンションをまとめて売却し、その金銭で、母と長女は自分たちが住む自宅を別に購入、長男は別の賃貸マンションなどを購入するといったようにです。そうすれば両者がスッパリと住み分けができ、仲のよくない者同士の心理的な距離も保てたのではないでしょうか。

 

さらに、二次相続にあたっては、孫たちを母の養子に入れてもらうという手もありました。養子になれば、代襲相続人ではなく通常の相続人になりますから、相続権をもっと強く主張できたはずです。折り合いのよくない嫁が「孫を養子に」と頼んでもおそらく承諾はしてもらえなかったでしょうが、かわいい長男の最後の願いとなれば、憎からず思っている孫でもあり母もこころよく受け入れてくれたのではないかと想像します。

 

とはいっても、長男はすでに他界しており、今からこれらの対策をすることはできません。今できることは、賃貸マンション部分の権利を守り抜くことです。長女との関係や建物のメンテナンスなどで所有しておくことがわずらわしければ、売却してしまってもかまいません。長女が「よこせ」と言うなら、正当な価格を提示して買い取ってもらえばいいのです。

 

いずれにしても、長男の妻は次こそは長女の勢いに負けて簡単にハンコを押さないことが大事です。子らを守る母として、その点は腹をくくってもらわなければなりません。

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    本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    倉持 公一郎

    幻冬舎メディアコンサルティング

    ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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