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連載福祉国家スウェーデンに学ぶ「公的年金の改革」【第4回】

スウェーデンの移民政策に求められる「異文化との共生」

スウェーデン移民政策

スウェーデンの移民政策に求められる「異文化との共生」

今回は、スウェーデンにおける移民政策には、移民の性急な労働力化よりも、より地道な相互理解への取り組みが必要であることについてお伝えします。※本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、福祉国家として確固たる地位を築いているスウェーデンが、すでに迎えている高齢化社会の年金政策として打ち出しているプランを参考にしながら、日本の年金政策の今後を模索していきます。

移民を労働力化するインテグレーション(統合)政策

スウェーデン国民は人種差別的な人々では決してない。移民への反発の原因は、あくまでも政府の移民政策にある。政府は、インテグレーション政策の名のもと、移民のスウェーデン社会への融合を積極的に進めているが、移民とスウェーデン国民の双方に恩恵を与えているとは言いがたい面もある。

 

移民のインテグレーション政策を担当する省は、雇用省(Ministry of Employment)である。雇用省には2人の大臣がいて、その1人が移民のインテグレーション政策を担当している大臣(Minister of Integration)だ。インテグレーション政策を雇用省が担当していることからわかるように、政府は移民の人たちができるだけ早くスウェーデンで働けるように支援活動を行っている。職業訓練とスウェーデン・ビジネス教育、そしてスウェーデン企業への斡旋などの活動が中心だ。

 

そうした活動を行っている現場は地方自治体で、政府は移民を受け入れている地方自治体へ補助金を出すという形で移民を支援している。インテグレーション政策の活動からわかるように、スウェーデンの移民に対する支援は、主として移民の労働力化への支援だ。

 

しかし実際には、移民の失業率は格段に高いのが現状であり、移民の労働力化は決して成功しているとは言えない。やはり、移民の融合には、多面的な支援が必要で、また、急いではだめなのである。

共生社会の創出に不可欠な「異文化を学ぶ教育」

異なる文化を背景に持った人たちが、一緒に共生の社会を創り上げていくことは、非常に大変なことだ。お互いの文化をしっかりと理解し、スウェーデン国民と移民の人たちとの信頼形成が不可欠であり、政府はこの点に注力するべきであろう。

 

信頼形成のためには、スウェーデンの国民に対して、イスラム、アジア、アフリカの文化の理解のための教育が必要だ。とくにスウェーデン企業が移民を雇用する場合、移民の人たちにスウェーデンのビジネス教育を行うだけでなく、企業側も移民の文化・背景を理解し、彼らが働きやすいよう、労働環境を変えていかなければならない。それは学校や地域においても同様であり、お互いに異文化を学ぶ教育が必要だろう。

 

スウェーデン政府が、移民受け入れのソフト面のケアを十分に行わないまま、移民の労働力だけを期待して大量の移民を受け入れているとすれば、摩擦が起こるのも無理からぬことである。スウェーデン・バリューは普遍的な価値だが、移民の文化と衝突する部分も、当然ある。例えば、男女平等に関しては、スウェーデンとイスラム文化では受け取り方が異なる。そこはお互いに、相手の価値を尊重する必要が出てくる。スウェーデン国民も移民の人たちも、双方が変わらなければならない。ただし、それにはそれ相当の時間がかかるはずだ。したがって、移民の受け入れは急いではだめなのである。

 

移民の受け入れを急がないことは、財政の観点からも重要だ。財政問題を考えずに、スウェーデン・バリューのみに基づいて積極的に移民を受け入れれば、財政がもたない。移民の受け入れを急ぐことは、財政を圧迫し、下手をすれば福祉の削減にもつながりかねないのだ。この点は、スウェーデン国民が憂慮するところである。現在のスウェーデン国民の反発は、政府が「異文化の共生」という地道な努力を避け、労働力化という観点から大量の移民の受け入れを行うことにあるのかもしれない。

 

スウェーデンの社会は、アメリカのような競争社会とは違う。アメリカなら、移民であろうがなかろうが、実力のある者がのし上がり、異文化の理解などはさして必要ない。また、移民というだけで不当に困難を強いられることもない。しかしスウェーデンは、しっかりとした共通の価値観を持った国民が、「国民の家」を形成している。そこでうまくやっていくためには、双方の理解が不可欠なのである。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

北岡 孝義

明治大学 商学部 教授

1977年、神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。経済学博士。専門は金融・証券市場の実証分析。
著書に『スウェーデンはなぜ強いのか』(PHP研究所)、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)、『Eviewsによるデータ分析入門』(共著、東京図書)、 『EViewsで学ぶ実証分析の方法』(共著、日本評論社)などがある。

著者紹介

連載福祉国家スウェーデンに学ぶ「公的年金の改革」

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか――。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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