クリニックM&Aで意識したい「買い手の目線」とは?

前回は、M&Aアドバイザーに求めたい条件を取り上げました。今回は、クリニックM&Aで意識したい「買い手の目線」について見ていきます。

すべてが「売り手目線」のM&Aはうまくいかない!?

クリニックのM&Aを成功に導くためには、買い手の目線で考えることも必要です。どうしても売ることばかりに気持ちがいってしまい、いくらで売れるか、いつ売れるかを相談される開業医の方がいます。しかし、自分の損得ばかりを考えていては、決してうまくいきません。周りが見えていなければ成功するはずのM&Aもうまくいくはずがないのです。

 

大切なのは一度立ち止まって買い手の目線になって考えてみることです。承継したのはいいが、クリニックの経営が続かないとなれば自分や家族の生活も危うくなります。買い手はクリニックに多額のお金を支払っていわば「投資」する気持ちでいるのですから、「将来いくら収益をあげられるのだろう」ということを第一に考えています。そしてできるだけリスクを回避し、さらに低価格で譲り受けることを望んでいるのです。

現在の財務状況が把握できる「正確でわかりやすい帳簿」

ここでクリニックの買い手は、具体的にどのようなことに着目しているのか整理してみましょう。

 

①現在の財務状況

本連載の第7回目では個人の財産とクリニックの財産の線引きをして、財務状況をすっきりと整理することが必要だと説明しました。そのため正確でわかりやすい帳簿があるということは、買い手にとっては重要です。

 

また、売り手側がどれだけ真摯に経営に携わってきたかを示すひとつの指標にもなります。買い手にとって現在の財務状況は必ずチェックする項目ですので、もし不安がある場合はアドバイザーに相談しながらしっかりと整理していきましょう。

 

《棚卸資産》

M&Aを成功するために、決算内容をよく見せようと粉飾決算など絶対にしてはいけません。M&Aで売りに出されているクリニックには、赤字経営のところもありますが、中には粉飾決算をして見た目をよくしようとするクリニックもあるようです。また、それによって譲渡価格を高くしようとする場合にも行われます。

 

例えば棚卸資産の水増しによって粉飾決算が行われてしまうケースがあります。棚卸資産とは購入しても使用していない資産のことです。商品・製品、半製品、仕掛品、原材料の総称を指します。クリニックでは、半製品、仕掛品、原材料などはありませんから、ほとんどが購入した商品・製品ということになるでしょう。医薬品や医療消耗品がそれにあたります。決算期末にある棚卸資産は期末在庫として費用から除きます。費用として計上されないということはそれだけ利益が上乗せされるという仕組みです。

 

このようなことが発覚すれば、信用は失われ、M&Aは成功しません。棚卸資産は、しっかりと把握して間違いのないように計上しましょう。

 

《固定資産》

クリニックの固定資産(基本的に取得価格が20万円以上のもの)は減価償却資産として固定資産台帳に計上されます。したがって、固定資産台帳と実際の建物、設備、器具等などの減価償却資産の金額は一致しなければいけません。固定資産台帳に計上されている資産が実際にあるかどうかという点も買い手はよく見ているのです。

 

過去に廃棄した固定資産などがあれば、必ず固定資産台帳から削除して帳簿に間違いがないようにしなくてはいけません。

 

固定資産においては、資産が実在するとともに、それが使用可能なものなのかも重要になってきます。このような確認作業をすることで医療機器や備品などの保有状況を確認でき、買い手にとっては、今後買い替えが必要な資産や修繕計画も立てられ、M&A後の予想外の支出を回避することができるのです。また、リース資産か所有資産かも確認しておきましょう。

 

《未収金》

医療経営を取り巻く環境悪化の中で、患者自己負担金などの未収金の増加は、注目される問題です。厚生労働省でも平成20年7月に「医療機関の未収金問題に関する検討会」の報告書を発表し、解決に向けた方策を示していますが、保険外診療など高額な治療を実施する診療所においては、高額の未収金が発生するケースも少なくありません。

 

しかし、一般的なクリニックで発生する未収金は少額であることが多く、その回収のコストを考えて、未回収のまま放置されているというのが現状なのです。

 

この未収金の管理がしっかりとできていないと、買い手はどれだけの未収金があるのか把握できません。そのまま承継してしまうと非常に大きなリスクを負うことになります。なぜならM&A後の税務調査で未収金計上漏れを指摘されてしまうからです。未収金管理は窓口スタッフの指導を含めて、必ず行わなければなりません。

 

【図表】未収金についてのアンケート

出典: 厚生労働省「医療機関の未収金問題に関する検討会」報告書 平成20 年7 月10 日
出典: 厚生労働省「医療機関の未収金問題に関する検討会」報告書 平成20 年7 月10 日

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『開業医のためのクリニックM&A 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載クリニックM&Aを成功に導く「6つのポイント」

岡本雄三税理士事務所 代表
株式会社MARKコンサルタンツ 代表 

岡本雄三税理士事務所代表。株式会社MARKコンサルタンツ代表。税理士、行政書士、宅地建物取引士、M&Aシニアエキスパート、経済産業省認定経営革新等支援機関。1967年生まれ。1991年、早稲田大学商学部卒業。1998年、岡本雄三税理士事務所開設。2000年、公益社団法人日本医業経営コンサルタント登録。個人医院の開業、医療法人の設立、税務など、医業コンサルティング業務のほか、一般法人の税務、事業承継、M&A支援、資産税にかかわるコンサルティング業務を手掛ける。

著者紹介

開業医のためのクリニックM&A

開業医のためのクリニックM&A

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

人口の4人に1人が高齢者という超高齢社会を迎え、社会保障費が年々増加を続けている日本。政府による医療費圧縮策や、慢性的な看護師不足、さらに後継者不足により、日本の開業医はかつてない苦境に立たされています。 帝国デ…

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