今回は、「屋号名義の取引」を利用した脱税の事例を紹介します。※本連載は、税理士・小宮山隆氏の著書『税務調査の実例40』(法令出版)の中から一部を抜粋し、法人税・消費税調査の実例を納税者目線で解明・追及します。

売上金の一部を、法人名義ではない口座に入金

事例④ 墓石等加工販売業の事例

 

今回は、帳簿書類等の提示をしないため、徹底した銀行調査と反面調査により、屋号名義の取引を利用した売上除外の全貌を把握した事例を紹介する。

 

調査法人は墓石等の加工販売業を営む法人で、毎期原価率の変動が激しく所得金額も低調であり、また、設立以来未接触であったことから、調査選定した。

 

調査法人に臨場し、代表者に対して帳簿書類等の提示を求めたが、破棄している等の理由により提示がないなど、調査に対して極めて非協力的であった。このため、臨場による調査と並行して、金融機関調査を実施し、調査法人名義の預金口座と入出金が連動する屋号名義の預金口座を把握した。当該屋号名義の預金口座の入出金状況を確認したところ、売上代金と想定される入金が認められた。

 

そこで、直ちに入金元への反面調査を実施したところ、屋号名義の預金口座への入金は、調査法人の売上代金である事実を把握した。

 

これらの事実を基に、再度、代表者に対し粘り強く調査協力を求めたところ、帳簿書類等の提示がなされ、法人名義の預金口座とは別に屋号名義の預金口座を開設し、特定の取引先については売上代金を当該屋号名義の預金口座に入金させることにより除外している事実が判明した。

 

なお、除外資金は、代表者及び代表者の親族からの借入金として調査法人に還流していた。(高松国税局)

「原価率の変動」を調べれば、不正は一目瞭然

税務署は、調査対象法人の選定に当たり、まず申告事績を詳細に分析する。この分析は、機械的なデータ分析を基に、調査担当者がその余の情報(データ分析に反映していない情報)を加えて、申告事績に対する疑義を抽出する。

 

このようにして抽出した疑義事項について統括官等を中心にして、その理由等を推測し、その事案の調査における着眼点を絞り込む。これと同時に、不正の手口も同業種の調査情報や経験等に照らして予測する。

 

調査法人は、「毎期原価率の変動が激しく所得金額も低調」であった。この原価率とは、「売上高」に「売上原価」(仕入高など)が占める割合のことである。

 

この原価率の変動が激しいということは、分母の売上高への計上漏れ(売上除外)があるか、あるいは分子の売上原価への過大計上(仕入過大計上)があるかである。このことについて、同業種の原価率や人件費率などのデータを物指しにして複数期を並べて分析すれば、売上除外が行われていると容易に想定できる。

 

そうすると、売上除外を行う一方、仕入高は在りのままであるだろうから、所得金額が同業種の所得金額(営業利益率)に比べて低調になるのは当然のことである。

 

本件事例において、売上除外に伴う現金等が簿外預金(屋号名義の預金口座)に入金されていることも、屋号資料の存在によって推測されていたはずである。

 

屋号資料というのは、資料情報(法定調書などの法定資料や他の調査時等において入手した法定外資料)に記載されるべき基本情報(住所、法人名、屋号、取引内容など)のうち、屋号だけはその法人と結び付くといったたぐいの資料のことで、いわば不完全資料のことである。

 

したがって、本件事例で言えば、調査着手時点ではその屋号資料記載の預金口座が調査法人のものであると断定できない状態にあった。また、簿外預金が1口座か複数口座かも断定できず、それらは金融機関調査の実施結果により判断しようと想定していたはずである。

 

本件事例では、「臨場による調査と並行して、金融機関調査を実施」している。つまり、複数の調査官(例えば、その担当部門5人全員)が一斉に従事している。このように担当部門を挙げて取り組む調査を「グループ調査」と呼び、二人が組になって取り組む調査を「組調査」と呼ぶ。

調査に対して「極めて非協力的」であったことも問題に

本件事例の場合、売上除外・屋号名義預金への入金が想定されていたことに加え、代表者が(その性向からして)「調査に対して極めて非協力的であった」ことから、「臨場による調査と並行して、金融機関調査を実施」することが予め計画されていた。このような場合、税務署側にとってはグループ調査を展開するのが最善である。

 

グループによる調査では、調査法人臨場班、A銀行班、B銀行班などと役割分担ができ、また、代表者の裏工作(例えば、銀行に預金の記録を見せるななどと依頼し調査妨害をすること)などの機会を奪うことができる。さらに、金融機関調査の経験の薄い調査官の教育訓練もできる。

 

調査法人は、「特定の取引先については売上代金を当該屋号名義の預金口座に入金させることにより除外」し、「除外資金は、代表者及び代表者の親族からの借入金として調査法人に還流」させていた。

 

代表者等からの借入金としていたのであるから、除外金は代表者等への報酬と考えるのが順当である。

 

最終的な処理(修正申告等の処理)結果は、不明であるが、恐らく、損益計算書面では計上「売上高」に「除外売上」を加算し、合わせて役員報酬に同額を加算し、貸借対照表面では加算なし(代表者等からの借入金は減額。つまり、役員への貸付としない)であろう。

 

したがって、法人税申告書(修正申告書等)では、「除外売上」を「売上」に加算(計上漏れとして課税所得金額の増加)、加算した役員報酬額は過大役員報酬に該当し丸まる損金不算入(計上漏れとして所得金額から減算できない)という処理(除外売上がそのまま課税所得金額の増額になる)である。これに加えて、役員報酬に係る源泉所得税の告知処分(もちろん不納付加算税が加わる)が行われる。

 

調査法人がこの調査により支払う法人税や源泉所得税などの税金の合計額は、除外売上金額に近い金額になった(ほとんど手許に残らない。除外しなければよかった)はずである。

 

売上を除外すると、それに見合う営業資金を確保(還流)するために、代表者等からの借入金等の仮装取引を起こさざるを得ない。このことは、キャッシュ・フロー計算書(精緻でなくてよい。大数観察程度で十分である)を作成すれば見えてくる(※1)。税理士には、関与先の適正申告のためにも、キャッシュ・フロー計算書の作成をお勧めしたい。

 

(※1)キャッシュ・フロー計算書は、その会計期間(事業年度)の現金及び現金等価物の増減を示す計算書である。現金等の増減は、営業活動・投資活動・財務活動の三つの活動区分に分けて示す。例えば、営業活動では、売上収入が現金等の増加、仕入支出が現金等の減少、として記載する。投資活動と財務活動は営業活動を補助する活動である。一般的に、営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動でその不足を補う形になる。仮に、営業活動に不正があれば、財務活動だけでなく、投資活動でも不足を補わなければならなくなる。

 

<本事例のまとめ>

 

①原価率の変動から、売上除外を想定し、調査のねらいにしている。

 

②売上除外に伴う現金等が屋号名義の預金口座に入金されていることも把握していた。

税務調査の実例40

税務調査の実例40

小宮山 隆

法令出版

日々淡々と行われている税務調査…本書では、所得隠し(脱税)の手口の実例を、誠実な納税者目線で余すところなく解明・追及します。税務職員が学ぶ顕著な事績がこの1冊に詰まっています!

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