今回は、歯科医院の事業承継と、それに伴う相続税対策を紹介します。※本連載は、中央税務会計事務所の税理士・中島由雅氏と、株式会社アックスコンサルティングの代表取締役・広瀬元義氏の共著『これ1冊で安心 歯科医院経営のすべてがわかる本』(あさ出版)の中から一部を抜粋し、歯科医院の節税、税務調査対策について解説します。

子に承継させるなら、医療法人設立当初から計画的に

相続税の対策として、医療法人化はとても有効です。たとえばこれから医療法人を設立する場合、その際の出資金が1000万円であれば、その後何らかの理由によって価値が100倍に増えていても、相続の際は1000万円のままで評価されます。

 

医療法人の事業承継には、3つのパターンがあります。1つ目は子どもによる継承です。親子間の医業承継の場合は、生前に引き継ぐのであれば贈与税の対策が、前院長が亡くなったときに承継するのであれば相続税の対策が必要となります。医療法人の法人経営を親から子どもが承継する場合は、2つの方法があります。

 

●所有権の移行:

医療法人の出資持ち分を子どもに移行させる。ただし、持ち分の定めのある医療法人(旧医療法人)の場合は内部留保として貯まった資金が多いほど出資持ち分の評価が高くなり、生前に移行するなら譲渡所得税および贈与税、相続開始時に移行するなら相続税が高額になる恐れがある。

 

●経営権の移行:

理事会で子どもを理事長に選任して経営権の移行を行う。診療所は法人の所有となるため、後継者に譲っても贈与税も所得税も発生しないが、出資持ち分を譲った場合に、無償のときは受贈者に贈与税が、有償のときは譲渡者に所得税および住民税が課せられる。

 

このため、医療法人を将来子どもに継がせることが決定している場合は、出資持ち分の評価が上昇しない設立間もない時期から、計画的に贈与していくことで税金額を抑えることができます。

第三者へ売却する場合は専門家に相談を

2つ目は、あらかじめ院内の従業員から後継者にふさわしい人物を副院長に据えておき、現院長がリタイアするときに副院長に医院を売却する。そして3つ目は、親族でも従業員でもない、第三者に医院を売却する方法です。

 

一般的には、医療法人の場合は法人ごとの売却となり、個人事業の場合は医療機器など医院の財産を売却する形になります。しかし事業承継を実施する場合、承継する資産や負債の決定、承継金額の決定、納税額の見積もり、契約書の締結など、非常に時間と労力がかかるため、専門家への相談をお勧めします。

 

また、承継金額を決めるときは、開業当初からある程度の患者数が見込めること、初期投資が低く抑えられることなどを付加価値として、帳簿価額(資産の未償却残高)を超える金額を設定することができます。ただしその差額は、譲渡所得として所得税および住民税が課税されます。

 

第三者に医療法人を売却する場合、出資持ち分を譲渡して医療法人を退職することになります。このとき、役員退職慰労金の支給が可能です。

 

また、法人出資持ち分の売却価格から出資額(または購入価格)を差し引いた差益に対し、所得税及び復興特別所得税と住民税(合計20.3−5%の税率)がかかります。退職金の支給を先に受け取ると、売却価格は下がりますが、退職所得(分離課税)になるため税制的に有利となります。

 

このあたりのことはかなり個別のケースになる話なので、税理士など専門家に相談されることをお勧めします。

本連載は、2015年7月1日刊行の書籍『これ1冊で安心 歯科医院経営のすべてがわかる本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

これ1冊で安心 歯科医院経営の すべてがわかる本

これ1冊で安心 歯科医院経営の すべてがわかる本

中島 由雅,広瀬 元義

あさ出版

新規開業の方法、アルバイトに高い売上を上げてもらう手立て、決算書の見方から、税務調査対策まで、歯科医院の経営を成功させるため実務に直結する具体的なアドバイスをお伝えします。 「コンビ二より激しい」といわれる歯科…

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