今回は、銀行の破綻を招いた「不良債権処理」の問題などを見ていきます。※本連載は、コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

以前は銀行の「破綻」など想定されていなかったが…

先日、テレビ番組で「リーマン・ショック」の「リーマン」って何ですか? と街頭インタビューで尋ねていました。10代の女性2人組が「サラリーマン?」と答えていましたが、少し驚いたのは、そのレベルの認識でも「リーマン・ショック」という言葉自体は知っていたことです。

 

20代の読者は当時小中学生だったとしても、1990年代のバブル崩壊や2007年のリーマン・ショックの際に、「不良債権処理」という言葉をニュースなどで耳にした機会はあったのかもしれません。

 

銀行が資金を貸していた企業が破綻したり法的整理に入ったりした場合に、その融資金が一部または全部返ってこなくなることで、銀行は会計処理をしなければなりません。

 

現金が追加で出ていくわけではありませんが、例えば10億円貸していた場合には最大10億円、「返ってくるはずのお金が返ってこなかった。実は損していましたので、損失として扱います」という後追いの会計処理です。

 

そうした処理は銀行そのものの業績に影響を与えることになります。100億円の利益を見込んでいた場合には、90億円に修正されます。多くの銀行は上場していますので、ネガティブなニュースが突然出れば、株価も下がります。

 

こうした処理が一斉かつ大規模に発生すると、単なる利益修正を超えて、「この銀行はそもそも財務体力がなくなっている。銀行業務を続けられるのか、どうなのか?」という疑義を監督官庁である金融庁に抱かれてしまいます。

 

個人だって、その銀行に預けていた貯金を引き出そうとします。銀行はモノを作って売っているような事業会社とは異なり、個人が預金をしているため、いきなり破綻してしまうと社会的な影響が甚大になります。

 

そのため金融庁が主管となって規制を通じて監督し、そうした事態が起こらないようにしています。もちろん銀行が破綻するなんてことは、バブル崩壊の前までは誰も想像しないことでした。

金融危機以後、貸し出す際の基準等も変化

ところが実際に破綻しそうな状況になり、他の銀行に吸収してもらわざるを得ない銀行が出てきてしまいました。

 

日本長期信用銀行(現在の新生銀行)は、一時国有化された後にアメリカの大手投資ファンドであるリップルウッドに救済・買収され、日本債権信用銀行(現在のあおぞら銀行)も一時国有化された後にソフトバンク、オリックス、東京海上などからなる投資グループに救済されました。北海道拓殖銀行は他の銀行に事業譲渡し、法人格は消えてしまいました。

 

大手都市銀行も次々と公的資金の注入(国による救済)によって延命し、合併することで数を減らしつつ切り抜けてきました。こうした社会不安が起きる可能性を排除するために、監督官庁である金融庁による指導・監督がいっそう厳しくなり、ルールや法制度も最悪のケースを起こさないようにすることを第一義として、再整備されていきました。

 

貸し出す際の基準や、貸し出した後の管理(貸した相手が約束通りの利子を払えるか、元本は約束した期日に返せるかどうかをチェックする)や対応の基準を厳しくするなど、統一していったりしました。

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

出口 知史

徳間書店

現役東大生を対象に著者が行っている経営戦略の講義が待望の書籍化。 今年で9年連続となる人気講義には、経営者が判断を誤る背景、成果主義の弊害、新興国進出の損得、アウトソース依存による空洞化危機、危ない経営の見抜き…

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