前回は、今後「中古不動産市場」が活性化していく理由について説明しました。今回は、不動産売買の前に心得ておくべき市場の「独特の構図」について見ていきます。

一口に不動産の買い手といっても主体はさまざま

不動産には売りやすいものもあれば売りづらいものもあります。

 

これは裏を返せば、買い手が付きやすいものもあれば付きにくいものもあるということです。不動産の売買が成立するということは、売り手の事情と買い手の事情がうまくマッチするということですから、不動産を高値で売却するにはどのようにすればいいかという売り手側の問題は、角度を変えれば買い手側の問題としてもとらえることができるはずです。

 

一口に不動産の買い手といっても、さまざまな主体が考えられます。エンドユーザーと呼ばれる一般の需要家が、まず挙げられます。戸建ての住宅用地であれば個人です。事業用地であれば法人も考えられます。いずれにしても、不動産を自ら利用しようとする層です。

 

エンドユーザーのほかには、不動産の投資家や事業者といったその道のプロとも呼べる層がいます。投資家は不動産を賃貸して収益を上げるのが目的です。運用益と場合によっては売却益も狙って不動産を購入します。

 

一方、事業者は不動産を購入し、何らかの形でその付加価値を高め、第三者に売却します。狙いは売却益です。不動産という材料を仕入れて、それを加工し販売する業態ともいえます。戸建ての建売会社や分譲マンションの開発会社などが、これに当たります。一つの不動産を例にとっても、その不動産がエンドユーザーにとってみれば魅力的でも、投資家にとってみればそうでもないことがあります。

 

具体的にどのようなことなのか。中古マンションを例に考えてみましょう。エンドユーザーは自らそこに居住しようとマンションの購入を検討します。選択基準として何を重視するかは人によって異なりますが、多くの人は居住性に目を向けるはずです。そこに永住しようと考えている人であれば、なおさらそうでしょう。

 

ところが投資家であれば、一番気に掛けるのは、高い家賃で借りてくれる人が見つかるか否かです。家を借りて住む人はむしろ利便性を重んじます。例えば最寄り駅との間の距離など立地条件を第一に考えます。したがって、借り手の視点に立とうとする投資家も同じように、不動産の選択基準として利便性に目を向けます。

 

自ら居住する目的か、誰かに賃貸する目的か、不動産を購入しようとする狙いによって、不動産を見る視点はこのように異なります。自己居住にはいい、投資にはいい……と、買い手の狙いによって不動産の価値は異なるともいえるわけです。

買い手と売り手の組み合わせは無数にある!?

先ほどはエンドユーザーが重視するポイントは居住性と言い切りましたが、実際には、同じエンドユーザーだとしても、選択基準は人によって異なります。にぎやかな場所が好みの人もいれば、静かで落ち着いた場所が好みの人もいます。それは、投資家や事業者も共通です。

 

例えば同じ事業者といっても、業態はさまざまです。戸建て住宅の建て売り事業もあれば、分譲マンションの開発事業もあります。この二つだけをとっても、事業特性が異なるので仕入れに対する考え方には差があります。事業者だからといって一くくりにはできません。しかも、投資家や事業者はそれぞれ、独自の戦略を持っています。したがって、不動産を見る視点はやはり異なってこざるを得ません。

 

つまり極端にいえば、エンドユーザーが100人いれば、100通りの選択が考えられ、投資家が100人いれば、これまた100通りの選択が考えられるわけです。不動産の買い手は決してひと通りではないことを忘れてはいけません。

 

一方で、不動産の側も100の物件があれば、同じものは2つとありません。身の回りにある多くの商品、例えばパソコンであれば、特別にカスタマイズでもしない限り、あるメーカーの同じ型番の商品であれば、まったく同じはずです。

 

ところが、不動産だけは違います。同じ場所に同じ形状で同じ広さの土地は存在しません。まったく同じ造りのビルを建てることはできるかもしれませんが、土地が異なれば当然、不動産としては別のものです。同じものが2つとして存在しないなかで、買い手が不動産を見る視点は無数といっていいほどに存在する――。

 

不動産市場とはそういう世界なのです。そこで売買が成立するというのはまさに、不動産と買い手の出会いです。その出会いのチャンスがたくさんある不動産ほど、買い手が付きやすい、つまり売りやすい不動産ということができます。出会いのチャンスがたくさんある不動産とは、多種多様な買い手のメガネにかなうような不動産です。多くの買い手が気に留めるような不動産といってもいいでしょう。

 

極端にいえば、エンドユーザーも投資家も事業者も、誰もが欲しがるような不動産です。需要の層が、幅広で分厚いわけです。

 

反対に、売りづらい不動産、つまり買い手の付きにくい不動産は、この需要の層が幅に欠け、しかも薄い。市場のなかでこの不動産の存在を気に留めるエンドユーザーや投資家・事業者がいないわけではないにしても、数多くはないということです。だから、不動産を売却しようとしても、買い手となかなか出会うことができません。

 

不動産を高値で売却しようとするなら、こうした不動産市場の独特の構図を頭に入れておきたいものです。そして、売却しようとする不動産の需要層をできるだけ幅広に、しかも厚めに確保するように努める必要があります。

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    宮﨑 泰彦

    幻冬舎メディアコンサルティング

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