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連載8つの実例で学ぶ「法人税・消費税」の税務調査の実態【第3回】

架空の固定資産取得――消費税の「不正還付」を目論んだ事例

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架空の固定資産取得――消費税の「不正還付」を目論んだ事例

今回は、経営資金捻出のために「消費税不正還付」を目論んだ産業廃棄物処理業者の事例を紹介します。※本連載は、税理士・小宮山隆氏の著書『税務調査の実例40』(法令出版)の中から一部を抜粋し、法人税・消費税調査の実例を納税者目線で解明・追及します。

異常に高額な附帯設備の工事費に疑問が・・・

事例③ 産業廃棄物処理業の事例

 

今回は、消費税還付金を保留し、その還付原因解明のために機動的な現場確認調査と反面調査により、架空の固定資産取得を把握した事例を紹介する。

 

調査法人は産業廃棄物処理業を営む法人である。多額な消費税還付申告書が提出されたことから、還付保留の上、申告内容等を検討したところ、

 

①多額な繰越し欠損金があるにもかかわらず高額な焼却プラント資産を取得している

②当該プラント設置費用については、決算期末に多額の未決済金額がある

 

等の疑問点が存在したため、直ちに実地調査へ移行した。

 

調査法人に臨場し、焼却プラント取得に係る見積書、契約書及び請求書等の帳票書類を確認したところ、プラント本体価額に比し、その附帯設備の設置工事等に係る金額が異常に高額である等の不審点が認められた。

 

そのため、新規に取得したプラントの設計図面の内容を確認したところ、図面からは請求書等に記載されている附帯設備等が設置されている事実は確認できなかった。

 

そこで、直ちに新規プラント施設のある焼却処理場へ臨場し、現場の確認を行ったところ、プラント本体は存在するものの、大規模な附帯設備の設置工事等が何ら行われていない事実を把握した。

 

併せて、設置工事等を行ったとされる遠隔地の工事施行業者に対する反面調査を実施したところ、当該工事については、反面調査先が調査法人からの依頼により架空の契約書や請求書等を作成していた事実を把握した。

 

これらの事実を基に、代表者を厳しく追及したところ、景気低迷・資金繰り悪化を理由に、架空のプラント取得費用を計上する方法により消費税の還付申告を行っていた事実を認めた。(仙台国税局)

一部の不誠実な納税者のせいで、増大する申告事務量

本件調査法人は、「景気低迷・資金繰り悪化を理由に、架空のプラント取得費用を計上する方法により消費税の還付申告を行っていた」のである。つまり、調査法人の運転資金を得るために、消費税の不正還付(還付金詐取)を目論んだのである。

 

誠実な納税者からすれば、到底許されるべきものではない。このようなことが放置されているとすれば税務行政を信頼できなくなり、納税者意識(納税道義)は崩壊し、国家そのものが荒廃するのではないか。

 

したがって、税務調査等を通じての納税者意識の維持・向上が重要であり、これに税務当局は積極的に取り組む責務がある。

 

また、見方を変えると、憲法に「租税法律主義」が規定されている。これは

 

①課税要件法定主義

②課税要件明確主義

③合法性の原則

④遡及立法の禁止

 

からなるが、このうち③は「法律で定められたとおり、税金を賦課・徴収しなければならない」という法理で、もちろん不正還付を見逃してはいけないということも含んでいる。

 

したがって、税務当局は、不正還付を見逃すことのないよう、消費税にあってはその還付原因を追及すべきである。

 

ともかく、本件調査法人は厳重に処罰される(重加算税はもちろんのこと刑罰をも科す)べきである。不正還付は、誠実な納税者を欺く行為で、許されない犯罪である。税務署は不正還付を見逃してはいけない

 

平成24年4月1日以後に消費税の還付申告書を提出する場合は、「消費税の還付申告に関する明細書」(①還付申告となった理由、②課税売上等に係る事項、③課税仕入れに係る事項、④当課税期間中の特殊事情を記載する)を添付しなければならないことになった。

 

これは、本件事例のような不正還付を防止するための措置である。誠実な申告を期待するのみでは、不正還付を見抜くために税務署は相当の調査事務量を投下しなければならないので、納税者に提出義務を課し還付原因を明確にさせること(税務当局の調査事務の効率化)にはそれなりの意味がある。

 

しかしながら、一部に不誠実な納税者がいるがために、大部分の誠実な納税者の申告事務量(上記明細書の作成事務量)が増加しているのである。

 

仮に、税理士が消費税の申告書作成事務を請け負っているとして、この明細書作成が加わったという理由だけで、関与先に現在の税理士報酬を引き上げてもらう(金銭的負担を求める)のは難しい。

 

そうすると、税務署の事務量の一部が納税者あるいは税理士の事務量に振り替えられたに過ぎず、税務署側にのみメリットがあるとも言える。

 

これに似たような規定は多い。そこで、申告や納税のために納税者側(税理士を含む)に振り分けられる事務量はどこまで許されるのか、税務署側と納税者側との間の事務量配分はどうあるべきか、その考え方(基準)を整理する必要があると思うが、この分野の研究は全くと言っていいほどない。

 

税務署部内の分析(いわゆる机上調査)により不正還付の疑いがある場合には、還付保留(還付してしまうと取り戻すために更に余分な事務量が生じる)のまま「着眼調査」(例えば消費税の還付原因解明など調査項目を限定した短時日の調査)が行われるが、さらに、臨場等において法人税に係る不正がらみであると判断された場合には「実地調査」に切り替えられる。

 

本件事例は、机上調査の段階で、着眼調査では不十分であると想定していたがために、税務署は「直ちに実地調査へ移行した」のである。

 

調査法人は、プラントは減価償却資産であるから、「(借方)減価償却資産/(貸方)未払金」、そして「(借方)減価償却費/(貸方)減価償却資産」といった処理をしていたようである。ところが、本件事例の調査結果は、「架空の固定資産取得」であった。

 

そうすると、毎(各)事業年度の貸借対照表の資産や負債にも影響するので、この不正により、当期だけでなく翌期以降もウソの処理を続けなければならない(調査法人はここまで考えていなかったように思う)。

 

調査法人にとって特に難題は、「未払金(※1)」の清算である。そのために、さらにウソを重ねなければならないから、この種の不正は早い時期に明らかになってくるという性質を持っている。

 

(※1)未払金は、確定した債務のうち、いまだ支払が終了していないものである(未払金は「販売費及び一般管理費」に属する未払費用(受けている役務提供の対価の支払が終わらない費用)とは違うものである)。つまり、短時日の間に支払が完了する性格のものである。

ところで、一般に、未払金は期首期末の残高がほぼ同額の傾向にある。それは未払金の発生原因が毎期同じ理由だということである。仮に、大きく変動しているようであれば、発生原因を徹底的に追及する必要がある。未払金の発生原因の解明は、税務調査のイロハでもある。

 

税理士が関与しているとすれば、決算に当たり、貸借対照表の「未払金」の内容等を精査するであろうから、そのことを通じて翌期以降において察知するのであろうが、それでは税理士として余りにもみっともない。

 

<本事例のまとめ>

 

①多額な消費税還付申告に疑問があるので還付保留にしている。

 

②還付原因解明のため、実地調査に移行し現場確認を行っている。

小宮山 隆

國學院大學大学院客員教授
税理士 

1949年11月、山梨県北杜市生まれ。1968年4月東京国税局採用。仕事と両立させながら中央大学商学部を卒業。1981年6月税務大学校研究科卒業。
東京国税局課税第一部所得税課課長補佐、国税庁長官官房広報課広報専門官、甲府税務署副署長、国税庁長官官房監察官、東京国税局調査第一部特別国税調査官、東京国税局課税第一部訟務官、潮来税務署長、東京国税局課税第一部主任訟務官、大和税務署長などを歴任し、2009年7月退職。2009年8月税理士を開業。
2010年4月から國學院大學経済学部(税務会計)教授、2016年4月から國學院大學大学院客員教授、税理士業務を行いながら、次代を担う若手税理士の輩出に取り組んでいる。

著者紹介

連載8つの実例で学ぶ「法人税・消費税」の税務調査の実態

税務調査の実例40

税務調査の実例40

小宮山 隆

法令出版

日々淡々と行われている税務調査・・・本書では、所得隠し(脱税)の手口の実例を、誠実な納税者目線で余すところなく解明・追及します。税務職員が学ぶ顕著な事績がこの1冊に詰まっています!

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