前回は、税務調査官が「メンツ」を重んじたエピソードについて紹介しました。今回は、「美術骨董品」の評価方法を見ていきます。

「絵画の評価方法」を把握していなかった税務調査官

土地評価の仕方についてもいえることですが、税務署職員たちはメンツにこだわる一方で、勉強不足が目立つように感じます。

 

たとえば美術品。税務署職員には美術品の評価はわからないと痛感した、こんな一件がありました。

 

被相続人は大変な資産家であると同時に、様々な趣味をお持ちでした。その1つに絵画のコレクションがあったようです。「ようです」と他人事のようにいうのは、相続税の申告の時点では絵画の存在は明らかではなかったからです。相続人たちにもその認識がなく、絵画については全く申告をしていませんでした。

 

そこへ相続税の税務調査です。調査の過程で一片のメモが発見されました。某デパートの「絵画購入メモ」なるものには十数点の作品タイトルと、購入金額とおぼしき数字が書かれていました。総額にして、なんと1億数千万円です。

 

こうなると、税務署は鬼の首でも取ったように相続人を追及します。一方の相続人には財産隠しの意識はなく「そういえば、数点の絵がどこかにありましたね」という感じです。さて、このような場合、まずは絵画の評価額をだすことになりますが、何を根拠に評価するかが難しい問題です。

 

絵画の価値を知る方法の1つに『美術年鑑』があります。税務署の主張は、とりあえず美術年鑑にある参考価格を見よとのことでした。具体的な評価についての実務は、そちらで美術鑑定書なり、権威ある専門家の意見書なりを添えなさいとの指示です。

 

ちなみに、税務署が新たに発見した財産であれば、税務署が率先して「この価格で」と価値を決め、相続人に課税財産として認めさせるのが本筋です。ただ、この件はそうではなかったのです。

 

何しろ購入価格が1億数千万円、くだんの美術年鑑ではそれをさらに上回る値段がついています。鑑定してもそれなりの金額が出ると思っていたのかもしれません。税務署にとっては、まさに大きな増差が見込める大チャンスと捉えていたことでしょう。

 

ところが、美術年鑑の価格とは保存状態が完璧で、デパートや画廊が顧客に売る場合の参考価格なのです。所有しているだけで、それだけの価格が保証されるものではありません。

 

肝心の鑑定価格はというと……結局のところ、購入価格の1/20程度に落ち着きました。若干ではありますが、小さな傷やカビが散見されたことも影響したようです。美術品を所有されている方は、実際の価格は、どうやら購入価格とはかなりの乖離があるものと覚悟しておいた方がよさそうです。

 

ともかく、この件で税務署は美術品の価値に疎い、という弱点を露呈する結果となりました。相続税法上、美術品の評価方法についての明確な基準はありません。だったら、余計に調査官は美術品について勉強し、その価値を決められないまでも「妥当かどうか」を判断できるくらいには、知識を備えておくべきだと思うのです。ただ、こちらとしては嬉しいところでもあるのですが、みなさんの意見はいかがでしょうか?

信頼に値するのは、「税務署と戦える」税理士

税法に照らして税金が安くなる余地があるなら、どんどん主張して戦っていくべきです。なぜなら、矢面に立てるのは税理士だけなのですから。信頼されて雇われて、それで実際の攻防になったら簡単に撤退する、保身に走る、陰に隠れる、というのでは報酬をいただく意味がありません。

 

あなたの税理士は、あなたの利益のために一緒に知恵を絞り、よりよい道を助言してくれますか? 隙のない申告書を作成してくれますか? もしもの時は理論武装を整えて、誠心誠意戦ってくれますか?

 

「この人なら」と思える税理士に出会えることを願って、気ままなおしゃべりはこの辺で終わりにしたいと思います。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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