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連載M&Aのラストステージ――最終契約後の「心得4か条」【第6回】

最終契約書に盛り込むべき「キーマンリスク」に関する条項

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最終契約書に盛り込むべき「キーマンリスク」に関する条項

前回は、環境デューデリジェンスで「公害問題」が発覚した事例を紹介しました。今回は、最終契約書に盛り込むべき「キーマンリスク」とは何かを見ていきます。

キーマンリスクとは「優秀な人材の流出リスク」

心得③ 最終契約では、表明保証の存在と連帯保証の解除に注意すべし

 

デューデリジェンスが完了したら、いよいよ最終契約に向けてのラストスパートになります。買い手企業はデューデリジェンスを実施することで、売り手企業の財務状況や法的問題の有無、経営上のリスクなどについて最終調査をします。

 

しかし、それでも絶対的にすべてを把握できるものではありません。提出された書類に何らかの虚偽がある可能性を完璧に否定できるものではありません。

 

最終契約書には買い手企業が買収後の事業運営のリスクを想定して、その回避のための事項を入れることを主張してきます。その中で特によくあるのが「キーマンリスク」についてのものです。

 

これは売り手企業の中で余人をもって代えがたい技術者、技能者、営業員などのキーマンがM&A後に会社を辞めないことを保証してほしい、辞めない同意書を取ってほしいなどの要求です。

 

じつは会社を辞めないという同意書は、日本国憲法が保障する「職業選択の自由」に抵触します。そこでキーマンと買い手企業との間で、「○年間継続して働いたら、通常以外の追加ボーナス○○万円を支払う、その次の○年後は・・・」というような内容の雇用契約を結んで対応しています。

 

社長がキーマンの場合は、インセンティブとして、株式を一定数継続保有してもらい、一定年経過後の業績連動の買い取り価格、業績連動の退職金などを決めて、「健康問題等の事情を除いて○年間自らの意志では辞任しない」というような内容を最終契約に入れることもあります。

 

スキームが事業譲渡の場合、クロージングまでにやらなければならない手続きの中に、

 

①従業員の転籍同意書の取得

②取引先との契約を買い手側と契約し直すこと

 

が必要になります。

 

この場合「クロージング(受け渡し)」の条件として、キーマンが転籍同意書に署名する、特定顧客あるいは顧客の○%以上が契約を引き継ぐなどの条項が最終契約書に盛り込まれ、もしその条件が満たされない場合は最終受け渡し金額が減額されたり、ブレイクとなります。

 

また合併などの株主総会の特別決議での承認が必要な場合などは、株主総会での承認がクロージング条件になることはいうまでもありません。

契約トラブルに備えて「表明保証条項」も盛り込む

現代のM&Aにおいて最終契約書に一般的に盛り込まれるのが表明保証条項です。

 

もともとは米国のM&A契約書を参考にして日本でも採用されるようになった条項で、今では大手上場企業の契約では必ず記載されます。しかも、多いときには数十項目にも及ぶことがあるため、初めて表明保証条項を目にする中堅・中小企業のオーナー経営者の中には面食らう方もいらっしゃいます。

 

実際、売り手企業の契約違反であるとして裁判となり、買い手企業の損害賠償請求が認められたケースも過去にはありました。しかしこれは基本的に重要事実を買い手側に伝えていなかった場合です。

 

しかし売り手企業の社長は、ことさら心配する必要はありません。なぜなら、表明保証条項はデューデリジェンスですべての問題を把握できない買い手企業にとっての保険であるからです。売り手企業が買い手企業に開示した情報は正しいことを表明して保証するというものです。

 

大きな問題になる可能性があることを知っていて、開示していなかったなどの場合は当然責任を負うことになりますし、知らなかった場合も問題になることがありますので、契約書に「知る限りにおいては」などの表現を使い、できるだけリスクを限定する工夫をします。

 

過去のトラブルが原因の場合は表明保証の対象になる可能性があります。そのためにクレーム一覧、トラブル一覧などの形でデューデリジェンスの段階で相手に開示しておくことが重要です。

 

過去の裁判の事例ですが、売り手企業は税務当局から指摘を受けた事案があることを買収前に買い手企業に開示していました。クロージング後に追徴課税が発生し、表明保証違反として買い手側が「追徴税額に相当する額を支払え」と売り主を訴えました。

 

「追徴課税の可能性を知っていて、M&Aの実行を決断したのは買い手側の責任」として、この裁判は売り主に表明保証違反はないという判断でした。

 

つまり顧客トラブルなども営業日報などを開示するなどして「今こういう状況です」と報告しておくことです。そのトラブルが原因でその後その顧客を失ったとしても、買い手側はM&A前にトラブルの存在を知っているわけですから売り主を追及できません。

本連載は、2016年3月10日刊行の書籍『会社売却の心得28カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大塚 武樹

企業活性パートナーズ株式会社 代表取締役社長

昭和30年12月生まれ。東京大学工学部卒業。スタンフォード大学客員フェロー。昭和53年4月、山一證券株式会社入社後、株式会社レコフ主席執行役員などを経て、平成24年6月、企業活性パートナーズ株式会社代表取締役社長就任(現任)。通産省「店頭市場研究会」「MBO研究会」「企業価値研究会」各委員歴任。M&Aのディール責任者として100件以上の案件成約に関与。電機業界、ソフト・情報産業、流通、住宅、金融、外食、エネルギー、機械等、幅広い業界のM&Aを経験している。

著者紹介

連載M&Aのラストステージ――最終契約後の「心得4か条」

会社売却の心得28カ条

会社売却の心得28カ条

大塚 武樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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