前回は、CFOに求められる「資金調達の能力」について取り上げました。今回は、多様化する企業交渉の場で求められる「CFOの能力」について見ていきます。

専門用語を分かりやすく伝え、交渉の礎を築く

商談はいつどんなものでも難しい。ましてや自分と異なる世界の人との交渉ともなると、何が起きるかわからない。

 

上場企業を取り巻くステークホルダーはこの40年間で激増した。そして主として金融市場に生きるステークホルダーのビジネス慣習、使用する語彙、価値観は、社長のそれとはまったく異なる。そのような異なる世界に身を置く人々と、経営者との間に立ち、その通訳としての役割を果たすのも、CFOの重要な仕事のひとつなのだ。

 

CFOはその性質上、銀行業界や証券業界の事情に通じている。彼らの使う言葉やビジネスの価値観もある程度理解できる。専門用語を一般の経営者にもわかるように言い換えて、交渉の礎を築いてくれる。たとえば、上場企業にとって否が応でも向きあわなければならないステークホルダーの中には、経営者の感覚では理解しづらいビジネスにかかわる人たちが少なからずいる。

 

彼らは会社をドライに値付けし、ドライに売り買いする世界に身を置いている。極めて客観的かつデジタルに会社の価値を数字で判断する必要があるので、ひとつの会社を一から育てた経営者への敬意や事業への興味よりも、ターゲットとなる会社が将来もたらすであろう期待利回りへの関心が優先される。

交渉相手の発想やロジック考慮して適切な言葉を選ぶ

また、M&Aや会社法を専門にしている弁護士も、クライアントにわかりやすい説明を心がけているつもりではあるものの、法律の世界の思考スキームと、現実社会の人間の思考スキームにはそもそも齟齬がある。これは監査の世界に生きる会計士と社長の関係についても同様だ。普段から付きあいがある顧問弁護士や会計士にすら、専門用語ばかりを並べられて、具体的な対応策がわからずにフラストレーションをためたことのある社長は多いはずだ。

 

通訳が必要になる場面として、銀行と投資家が同じように業績動向を訊いてきたとしても、銀行は返済能力をみる目的で訊いているし、投資家は将来どのくらい稼げるかどうかという視点で訊いている。質問の意図が違えば答え方も違ってくる。相手の目的がどこにあるのかを理解していないと、相手が必要としている情報を的確に提供できないばかりか、こちらの伝えたいことも伝わらなくなってしまう。

 

新規事業における銀行交渉では、社長は夢を語りがちだが、これは交渉上逆効果になることがある。銀行はあくまでも、実現可能なキャッシュフローに興味の中心があるので、説明の中心は実績の手堅さにあるべきだ。一方で、投資家は将来ポテンシャルの実現性をみる。CFOが交渉のプロとされるのは、こうした交渉相手の発想、ロジックを知った上で、言葉を選ぶことができるからなのだ。

 

【図表】CFOは、通訳の役目を果たす

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    本連載は、2010年3月1日刊行の書籍『CFO経営』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    佐藤 英志,須原 伸太郎

    幻冬舎メディアコンサルティング

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