前回は、米国の居住者が受益者となり、日本の受託者に信託した「日本の株式」の配当や譲渡益にかかる税金について説明しました。今回は、自身を受益者とした信託設定後の米国不動産に関する損益通算が日本において可能かどうかを見ていきます。

プロベート回避のために信託設定したが・・・

【質問】

日本の居住者である甲は米国に不動産(貸しビル)を保有しています。米国弁護士からのアドバイスで甲に相続が開始した場合の米国でのプロベートの手続きを回避するため、米国不動産を信託設定した方がよいと言われました。米国不動産を信託設定する場合、日本の税務の観点から留意すべき点があれば教えてください。

 

【ポイント】

信託設定後の米国不動産から生じた損失は他の所得と通算することができないので留意が必要です。

損失は損益通算できないが、所得には日本の課税が発生

【解説】

例えば甲が甲を受益者として米国不動産を信託設定した場合、日本の税務上、信託設定後も甲は米国不動産を引き続き保有しているものとして取り扱われ、当該信託はいわゆる受益者等課税信託に該当します。

 

通常、甲は日本国外に保有する不動産であったとしても当該不動産から生じた損失があれば、当該損失を甲の他の所得と通算することができます。

 

一方、受益者等課税信託から生じる不動産所得の損失は生じなかったものとみなされるため、甲が米国不動産を信託設定し、当該信託設定後の不動産から損失が生じた場合、当該損失は生じなかったものとみなされ、甲の他の所得と通算することができなくなりますので留意が必要です。

 

損失が生じた場合には、損益通算はできませんが、所得が生じた場合には日本の課税が発生します。

 

なお受益者等課税信託から生ずる不動産所得を有する個人が確定申告書を提出する場合には、確定申告書にその年中の総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類のほか、当該信託に係る次に掲げる項目別の金額その他参考となるべき事項を記載した信託から生ずる不動産所得の金額の計算に関する明細書を信託ごとに作成し、当該申告書に添付しなければならないものとされています。

 

①総収入金額については当該信託から生ずる不動産所得に係る賃貸料その他の収入の別

 

②必要経費については当該信託から生ずる不動産所得に係る減価償却費、貸倒金、借入金利子及びその他の経費の別

Q&A クロスボーダー信託の税務

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水谷 猛雄 富田 千寿子

税務経理協会

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