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連載財産の「評価を下げて減らす」相続税対策【第7回】

小規模宅地等の評価減――「同居」の要件をどうクリアするか?

相続税評価額小規模宅地等の特例

小規模宅地等の評価減――「同居」の要件をどうクリアするか?

今回は、「小規模宅地等の評価減」を活用する際のポイントを見ていきます。※本連載は、相続を中心に個人の資産に関する業務に力を注いでいる株式会社ウーマンタックスの代表取締役、板倉京税理士の著書、『相続はつらいよ』(光文社)の中から一部を抜粋し、「評価を下げて相続税を減らす」タイプの節税対策を紹介します。

評価減を受けるには「同居」が原則

「評価を下げて減らす」節税対策にはそれぞれ効果の大小がありますが、大きな効果が見込めるものに「小規模宅地等の評価減」という特例があります。

 

これは「自宅の土地の評価を8割引きにしてくれる!」という太っ腹な特例です。「自宅の土地が1億円もするんです」なんて方でも、この特例を利用すれば、8割引きの2000万円として申告することができるのです。

 

「自宅の土地がそんなに安く評価されるなら安心」と言いたいところですが、こういった大型の節税が見込める特例には厳しい条件(要件)がつきものです。「小規模宅地等の評価減」も同じこと。この特例を受けられるのは、以下のケースに限られているのです。

 

【小規模宅地等の評価減を受けられるケース

亡くなった人の住んでいた自宅の土地を、次の①〜③の人が相続した場合。

①配偶者が相続する(同居問わず)

②亡くなった人と同居していた親族が相続して申告期限まで持ち続け、かつ、住み続ける

③ ①②に該当する人がいない場合に、自宅を持っていない別居の親族が相続して、申告期限まで持ち続ける(この自宅とは、自分もしくは配偶者が所有する自宅です)

対象となるのは、330㎡(100坪)までです。

 

つまり、配偶者が自宅を相続する場合は、無条件でこの特例を受けることができるが、子どもが親の家を相続する場合は、原則同居していないとダメ! というわけです。これを受けて、最近「なんとか同居していることにならないか?」というご相談を受けることがあります。

住民票を移しても、同居の実態がなければ適用外

「僕が母の家に住民票を移せば、同居していることになりますよね?」――そんなご相談をされたRさんは、東京・世田谷区にお住まいの55歳男性です。実家の近くに家を購入し、奥様と2人のお子様との4人暮らし。実家には82歳の母親が1人で住んでいて、奥様がご飯を運んだりするなどして面倒をみているといいます。Rさんは、一人っ子。現在の心配事は、お母様が亡くなった場合の相続税です。

 

「自宅の土地は、調べたら5800万円くらいの評価になりそうです。それ以外に母には財産と言えるようなものはなく、現金をかき集めても200万円くらいしかないと思うんです。以前の基礎控除額(相続税の課税ライン)なら、相続人が1人の場合6000万円の財産までは相続税がかからなかったので問題なかったんですけど、相続税法が改正になった今は課税ラインが3600万円に下がったので、母が亡くなると相続税がかかるんですよね」

 

ちなみにRさんのお母様が、Rさんが言うように合計6000万円の財産を持っていたとしたら、かかる相続税は310万円。決して安い額ではありません。

 

そこでRさんは母親と同居して、例の「自宅の土地の評価を8割下げる特例」を使えないかと考えました。この特例が使えれば、土地の評価額は5800万円の8割引きで1160万円になりますから、現金200万円を合わせても相続税の課税ライン3600万円に届かず、相続税はかかりません。しかし母親との同居には、妻も子どもたちも「うん」と言ってくれなかったといいます。

 

そういうわけでRさんは「住民票だけ移してなんとかならないか」と相談に来られたわけですが、住民票を移しても、同居の実態がなければ、前記の②には該当しません。これで「同居していた」と申告すれば、ウソになります。ウソの申告をすると、税務署は「仮装隠蔽をしたな!」ということで重加算税というペナルティを科してくるのです。重加算税は追加になる税金の35%です。

自宅から転居して、賃貸に住むという方法も

どうしても「同居の親族」ということで特例を受けたいというのであれば、本当にお母様と同居していただきたいと思います。

 

実際この特例の適用を受けるために、二世帯住宅などに建て替えて同居する方も増えているといいます。しかしその結果、親世帯と子世帯の関係が悪くなって結局は再び別居に至ったり、二世帯住宅にしたことで遺産の分割がむずかしくなってしまったという例もあります。

 

親と同居はできないが、この特例を受けたいという場合、既に持っている自宅から転居して、賃貸に住むという方法もあります。この特例は、自分(もしくは配偶者)の所有している不動産(持ち家)に住んでいては受けられないというものです。今の自宅を売却したり、賃貸に出したりしても問題はありません。

 

ただし、「亡くなる前3年間以上」は持ち家に住んでいない状態でないといけません。特例を受けるため賃貸に引っ越したとしても、3年以内に相続が起きてしまったような場合は、特例が受けられなくなってしまうのです。

 

相続税を安くすることも重要ですが、自宅は生活の基本です。通勤・通学の便やご近所との関係、はたまた親子関係など色々な要因で「たとえいくら相続税がかかってもいいから、同居したくない」と思う方もいらっしゃるでしょう。一方で「子どもの面倒もみてもらえるし、相続税がきっかけだったけど、親との同居を考えてよかった」という方もいらっしゃるはずです。相続税のことだけではなく、どう暮らしたいのか、ということも十分考えて判断をしていただきたいと思います。

本連載は、2016年6月20日刊行の書籍『相続はつらいよ』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

板倉 京

株式会社ウーマン・タックス 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士 

成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒業後、保険会社勤務を経て、税理士資格取得。朝日税理士法人などで経験を積み、平成17年独立。
平成21年、女性開業税理士で組織された㈱ウーマン・タックスを設立、代表取締役就任。「相続問題など、家庭やお金の問題には女性の視点が役に立つ」との思いから相続を中心に個人の資産に関する業務に力を注いでいる。税理士業務以外に、NHKあさイチなどのテレビ出演や、各種講演・セミナー、執筆活動なども精力的に行っている。一児の母。
主な著書に「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「親と一緒に考えるかしこい相続」(日本経済新聞社)がある。

著者紹介

連載財産の「評価を下げて減らす」相続税対策

相続はつらいよ

相続はつらいよ

板倉 京

光文社

相続のルール、遺産分割、相続税、節税対策、生前贈与・・・身近な人が亡くなる前に知っておきたい基本的な対策を敏腕税理士がやさしく伝授。親族が元気なうちにやっておくべきこととは? 相続問題でよくある落とし穴とは? …

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