前回は、役員や従業員が会社の株式を買い取る「MBO」「EBO」について説明しました。今回は、会社を高く売るために「財務会計」の整理が重要な理由を見てきます。

組織図、決算書類、事業計画…まずは会社の中身を整理

M&Aによって第三者に売却するのであれば「できるだけ高く売りたい」というのがオーナー経営者共通の気持ちです。では、どうすれば高く売れるのでしょうか。それは簡単です。第三者に会社のことを説明しやすい状態にしておけばよいのです。これに尽きます。

 

中小企業の多くは、会社の中身が整理されていません。ぐちゃぐちゃになっています。外部の人が見たときに、その会社がどういう会社でどの部分から利益が出ているのか、まったく理解できないというケースは多いものです。

 

たとえば、決算。大企業では月次の決算が当たり前になっていますが、中小企業の多くはやっていません。決算書類も税理士任せになっていて、きちんと会社に整理されていません。これでは会社の実態を把握する方法がないのです。その上、会社の組織図を作っておらず、誰がどんな仕事をしているのか、知っているのは社長だけ、ということが多いのです。M&Aを実行すれば、現社長は辞任するのが一般的です。

 

社長がいなくなったあと、どのように経営していけばよいのか、誰にもわからない会社など買収したいと思うでしょうか。ですから、M&Aを考えるのであれば、第三者から見て会社をわかりやすい状態にしておくことが重要です。決算関係書類をいつでもすぐに出せるように整理し、会社の組織図を整え、会社の規定が整備されていれば、ずいぶんと変わるでしょう。会社の流れがどうなっているのかが見えてきます。

 

加えて事業計画もきちんとしていなければなりません。銀行から融資を受けている会社であれば、事業計画は作成しているでしょうが、M&Aにおいては、その事業計画は役に立ちません。なぜなら、融資が通りやすくするために少なからず脚色された事業計画書になっているはずだからです。まともな事業計画ではないのです。同じようなこととして、よく勘違いするのは税務と財務の違いです。

 

どんな会社でも毎年、会計事務所に依頼をして決算の手続きをしています。それは税務会計です。しかし、M&Aのときに必要になるのは財務会計です。税務会計と財務会計はまったく異なるものなのです。財務会計であれば会社の実態がわかりますが、税務会計ではわかりません。

根本的に違う「税務会計」と「財務会計」

具体的な例で説明しましょう。ある会社が子会社に1億円の出資をしていたとします。その子会社の業績が悪く、出資した1億円はほとんど使い切ってしまいました。会社を整理するか、存続させるのであれば、追加で出資をしなければなりません。

 

この場合、親会社の税務会計のバランスシートには、出資した1億円が「投資有価証券1億円」と記載されているはずです。まだ倒産していないので、1億円を損金とすることができず、税務会計では1億円のまま残っているのです。しかし、財務会計の視点で会社の実態を見るなら、子会社に出資した1億円にまったく価値はありません。戻ってくる可能性がないからです。当然、1億円は1円に減損しなければなりません。

 

このような違いが税務会計と財務会計にはあるのです。そういう意味では、M&Aの相談をする相手として、税理士は向いていないと思います。日ごろ、税務会計を基本に業務を行っていますので、財務会計の視点で会社の実態を見る習慣がありません。

 

税務会計の枠を超えて、会社の実態を捉えようという前向きな感覚を持っている税理士であればよいかもしれませんが、そのような税理士は極めてまれであると言わざるをえません。

 

M&Aで会社を高く売るためには、買い手の立場になって考えてみることです。もし、自分が買い手だった場合、「どのくらいの金額であれば買うのか」という発想を持つことです。残念ながら、そのようなオーナー経営者はほとんどいないのが実情です。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

財を「残す」技術

齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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