親族内で株式を承継する3つの方法

本連載では、企業オーナーの皆さんが必ず直面する「事業承継」という課題について、基礎知識から具体的な進め方まで詳しく解説していきます。今回は、親族内で株式を承継する方法を見ていきましょう。

自社株式の「譲渡」と「贈与」の違いとは?

事業承継を行うためには、後継者へ自社株式を移転する必要があります。これには大きく3つの方法がありますが、下記でそれぞれ見ていきましょう。

 

①後継者に対する自社株式の「譲渡」

自社株式の譲渡とは、後継者に現経営者が持っている株式を買ってもらうことをいいます。つまり、現経営者の自社株式は、「売買」によって後継者へ移転されます。その際、適正な対価が支払われることになりますので、相続の場合とは異なり、遺産分割争いの対象となったり、後継者以外の相続人から遺留分を主張されたりすることはなく、後継者の経営支配力は確実に承継されることになります。

 

しかし、後継者は株式の買取りに必要な対価として多額の現金を支払わなければなりません。通常は金融機関からの借入金によって賄うことになるでしょう。また、現経営者は保有する自社株式を手放す代わりに多額の現金を取得することになりますので、相続財産は減るどころか、逆に財産評価は高まることになります。

 

また、現経営者から後継者への株式譲渡によって、現経営者に譲渡所得が発生するケースが多く見られますが、その場合は申告分離課税で税率20%(所得税15%、住民税5%)の所得税が課されます。

 

後継者への株式譲渡によって譲渡所得が計上される場合には、可能であれば、他に含み損失のある金融商品を見つけ(平成28年からは債券の譲渡損失も損益通算できるようになります)、その含み損失を実現させることによって、損益通算による節税を図るとよいでしょう。

 

なお、後継者への株式譲渡が適正な時価と比べて著しく低い価額で行われた場合、自社株式の時価と後継者への譲渡価額との差額分については、後継者が贈与を受けたものみなされ、贈与税が課されることになるため、注意が必要です。

 

②後継者に対する自社株式の「贈与」

贈与による株式承継は、現経営者の保有する自社株式を贈与によって後継者へ移転させる方法です。その際、後継者は自社株式を取得に対価を支払う必要はなく、贈与税負担のみで経営権を確保することができます。

 

ただし、贈与の方法のうち暦年贈与の場合、年間110万円の基礎控除を超える部分には贈与税が課されます。また、生前贈与の場合、特別受益として相続発生時に、後継者以外の相続人から遺留分を主張されるおそれがあり、後継者の経営権の維持には、やや不安が残ります。遺留分の主張を回避する方法としては、後継者以外の相続人に遺留分を事前に放棄してもらう手続きを取ってもらうことや、中小企業経営承継円滑化法の除外合意を活用することが考えられます。

 

一方、110万円の暦年贈与の税負担が重すぎる場合、相続時精算課税制度を活用した自社株式の贈与も有効です。これは、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子・孫への生前贈与について、贈与時には贈与財産のうち2,500万円を超える部分に対して20%の贈与税を支払い、その後相続時にその贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税額を精算する方法です。

 

自社株式の相続税評価額が今後上昇する見込みがある場合、あるいは、退職金による特別損失などで一時的に株価が著しく下落した場合は、相続時精算課税制度を利用し、後継者に対して自社株式を一気に移転してしまうことによって、大幅な節税が可能になる場合があります。

 

さらに、中小企業経営承継円滑化法による贈与税の納税猶予制度によって、税負担ゼロで自社株式を後継者へ移転する方法もあります。これは極めて有効な手法になるのですが、次回以降の記事において、詳しく説明したいと思います。

相続は「いつ発生するか」わからない

③後継者による自社株式の「相続」

相続による株式承継は、現経営者の死亡時、すなわち、相続のタイミングで現経営者の保有する自社株式を後継者へ承継させる方法です。後継者は自社株式の取得のための対価を支払う必要はありませんが、相続税を負担しなければなりません。その税負担の大きさは、株式以外の財産を含めた相続財産の大きさ等によりますから、自社株対策を行っていない場合には生前贈与と比べて税負担が重くなるケースが多く見られます。

 

この相続、自社株式が遺産分割争いの対象となってしまう場合が問題となります。相続人が複数いるにもかかわらず、現経営者が遺言書を遺さずに死亡した場合、自社株式の承継のために遺産分割協議を経なければならず、後継者が十分な支配権を得るための自社株式を相続できるかどうかわかりません。また、分割協議が整わないうちは自社株式が全相続人の共有となり、後継者はもちろん全ての相続人が自社株式を自由に処分することはできません。また、たとえ遺言書が残されていた場合であっても、他の相続人から遺留分を主張されるおそれもあるため、後継者の地位は安泰であるとは言えません。

 

株式承継に伴う税負担を軽減するためには、現経営者は、相続が発生する前の早い段階から贈与や譲渡などで持っている自己株式の数を減らしていかなければいけません。

 

相続はいつ発生するかわからないため、株価をどのタイミングで引き下げればよいのか、決めることができません。これに対して、贈与や譲渡は予め実行時期を決めることができます。実行時期が決まっていれば、様々な株価引下げ対策を講じることができるのです。

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 公認会計士/税理士

一橋大学大学院商学研究科修了(会計学及び経営学修士)。 公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)。日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。
中央青山監査法人(PricewaterhouseCoopers)にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門(不動産投資)、SMBC日興証券企業情報本部(中小企業オーナー向け事業承継コンサルティング業務)、みずほ証券グローバル投資銀行部門(M&Aアドバイザリー業務)に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と組織再編のアドバイスを行った。
WEBサイト http://kishida-cpa.main.jp/

著者紹介

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