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連載インドシナ経済回廊の現場を歩く【第1回】

動き出した巨大商圏――「陸のアセアン」インドシナ諸国の近況

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動き出した巨大商圏――「陸のアセアン」インドシナ諸国の近況

本連載は、雑誌、書籍、ウェブなど幅広い媒体で活動するアジア専門ライター・室橋裕和氏の共著、『新視点がヒントになる アセアン経済回廊』(キョーハンブックス)の中から一部を抜粋し、「陸のアセアン」とも呼ばれるインドシナ諸国の最新事情を紹介します。

インフラ整備急速に進む「インドシナ諸国

関税を段階的に撤廃し、ひとつの巨大な商圏をつくっていこうという東南アジアの新しい試み、AEC(ASEAN Economic Community、アセアン経済共同体)。EUほど「国境」の壁を低くするわけではないが、それでも域内の人やモノ、マネーの動きを自由化させようというものだ。

 

この恩恵を最も受けるのが、「陸のアセアン」とも呼ばれるインドシナ諸国だ。タイを中心に、カンボジア、ベトナム、ラオス、そしてミャンマー。陸路で密接に結ばれたこの5カ国はいま、AEC発足に合わせるようにインフラ整備を急速な勢いで展開させている。AECによって物流や人の動きが活発化するならば、その制度に合わせて必要なものは、移動のための道路や鉄道、港といったインフラの発達だからだ。

 

インドシナ諸国はどこも大河や山岳地が多く、これまでは満足な交通網があるとはいえなかった。とくに後発国であるミャンマー、カンボジア、ラオスは、経済の動脈どころか、まともにバスも通行できない未舗装路ばかりで、ビジネスの前に旅行をすること自体が難しかった。内紛や、反政府ゲリラの活動によって開発ができなかった地域もまた多い。

 

しかし時代は変わっていく。そのきっかけとなったのが、1992年にはじまった「GMS(Greater Mekong Sub region、大メコン圏)開発プログラムだ。メコン河を中央に抱くこれらの5カ国に中国の雲南省を加えたエリアを「大メコン圏」と定義する、ADB(アジア開発銀行)出資の大規模な開発計画である。

 

日本は官民ともにこの計画に深く関わってきた。港湾や道路の整備、通関プログラムに至るまで、アジア開発銀行と協力してさまざまな支援を行ってきたのだ。将来的にこのエリアが、国を越えたひとつのインドシナ圏として動き出せば、巨大なマーケットができると見込んだからである。

 

【図表】東西経済回廊マップ

 

人とモノの集積地になる「国境地帯」に注目

外国からの働きかけだけでなく、それぞれの国もまた変化していく。カンボジアには和平がもたらされ、治安が回復していった。これによりタイ・バンコクからカンボジアを経てベトナム・ホーチミンシティに向かうルートが開拓された。2015年にはカンボジア東部でネアックルン橋が開通し、南部経済回廊の完成に至っている。メコン河の流れや、紛争に阻害されることなく、1本の道路で行き来できるようになった。

 

東西経済回廊が開通したのは2013年だ。AEC発足を前にして、ミャンマー政府がそれまでの陸路鎖国政策を解除。いくつかのタイ国境を、第3国人でも通行できる国際国境に格上げした。ミャンマーの民主化の進展と、アセアン統合という出来事が、必然か偶然か一致したのだ。

 

日本がとくに力を入れて開発してきたのがこの東西経済回廊だ。2006年のタイ=ラオス第2友好橋の開通と、橋のたもとにつくられたサワンセノ経済特区は、アセアン経済回廊というものの在り方を示すエポックメイキング的な存在かもしれない。

 

サワンセノはラオス初の経済特区でもある。ここで生産された商品が、国境を越えてタイのマザー工場に送られ、組み立てられて、バンコク近郊の輸出港から世界に流通していく。生産体制を国ごとの特徴や法制度、電力事情などに合わせて分業化していき、部品を国境を越えて運び、組み立てて輸出する。これはインドシナ半島がひとつの生産圏として機能する、モデルプランといえるだろう。

 

つまり今後は、「国境地帯」が大きな意味をもち、存在感を放つようになる。国境がいままで以上に人とモノの集積地になっていくだろう。だからいまタイやラオスなどインドシナ各地の国境を歩いてみると「AEC」を大きく掲げた看板をよく見かける。期待感が伝わってくるのだ。辺鄙な国境でも、将来的な物流の増大を見越して、イミグレーション施設の増設工事をしている姿も目立つ。

 

またタイ政府は周辺国との国境沿いに経済特区を設置することを決定。外国人労働者や観光客、投資家を呼び込み、国境経済を活性化させる目論見だ。すでに各国境や、経済回廊の主要路となる道路の沿線は地価の高騰も始まっている。日本が20年以上かけて投資してきたものが、ようやく実を結ぼうとしている。

 

AECを待ち望む看板やモニュメントが、メコン各国の国境で見られる
AECを待ち望む看板やモニュメントが、メコン各国の国境で見られる

本連載は、2016年1月20日刊行の書籍『新視点がヒントになる アセアン経済回廊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

室橋 裕和

ライター

1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイ・バンコクに移住。現地で10年、日本語情報誌の記者としてアジア各地で取材に当たる。現在は東京に拠点を移し、アジア関連の雑誌、書籍、ウェブなど各媒体で活動するアジア専門ライター。

著者紹介

連載インドシナ経済回廊の現場を歩く

新視点がヒントになる アセアン経済回廊

新視点がヒントになる アセアン経済回廊

室橋 裕和

キョーハンブックス

地図とグラフで読み解くアジア新時代 アジアで働くビジネスマン必携の一冊! 2015年末に発足したアセアン経済共同体(Asean Economic Community)。人とモノ、マネー の流れがより活発になり、注目を集めるアセアン地域を、地図…

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