今回は、公的年金制度存続の抜本的な対策として議論されている、「賦課方式」から「積立方式」へ変更について考察します。※本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

賦課方式は「世代間扶養」、積立方式は「自助努力」

現在は、若年・壮年の人口が減っていく一方で老年の世代の人口が増えていく少子高齢化の時代である。このような少子高齢化の時代では、賦課方式の年金制度は機能しない。この点は前述した通りだ。

 

年金の給付年齢を引き上げたり、金持ちの基礎年金を削ったりしたところで、システムを維持できるだけのお金を集めることは不可能だ。株式に投入して大損すれば、ただでさえ乏しくなりつつある年金資金は、一巻の終わりである。

 

公的年金制度の抜本的な解決を図るのなら、賦課方式をあきらめるよりほかない。そこで、賦課方式に代わる方式としては積立方式しかない。

 

積立方式とは、基本的に、国民それぞれが現役時に積み立てた保険料とその保険料の運用益によって退職後の生活を賄う方式だ。

 

積立方式は自助努力の年金方式で、「世代間扶養」の賦課方式とは対極の方式である。これなら、自分で自分の老後に備えるわけだから、「少子高齢化」の時代にもうまく機能する。また、「世代間扶養」の不平等の問題もなくなる。そして何より、積立方式なら、「自助」の年金制度なので、そもそも政府が年金制度に関与する必要性はなくなる。

 

賦課方式は「世代間の扶助」なので政府の関与が不可欠だが、積立方式は「自助」なので政府の関与は必要ない。スウェーデンは、所得比例の1階建ての年金に、「積立方式」を採用している。

 

しかし、そもそも「自助」の年金制度である「積立方式」のもとで、はたして年金制度が政府によって運用される必要があるのか疑問だ。積立方式なら、いっそのこと、公的年金は民間に委ねてもよいのだ。

賦課方式と積立方式をミックスしたスウェーデンの制度

少子高齢化が進んでいる国の公的年金は、「賦課方式」から「積立方式」の採用、公的年金から私的年金への段階的移行が世界の潮流である。

 

世界銀行は1994年に、少子高齢化を迎える国々の公的年金制度に関して、「積立方式」への移行を推奨し、最終的には年金事業は民間に委ねたほうがよいと主張した。

 

そしてスウェーデンの年金制度は、1999年、基本的に所得比例のみの1階建ての年金制度に改革された。これは、「賦課方式」と「積立方式」のミックスと言われている。被保険者は、現役時に積み立てた保険料と保険料の運用益を老後に取り崩して生活を維持する。

 

ただ、国民の所得の上昇を勘案して、積み立てた保険料以上の額の政府による補償がある。この点が賦課方式だ。それにより、今までの一律の基礎年金はなくなり、低所得層に対して、生活保護的な意味合いの基礎年金が適用される。

 

スウェーデンはこの年金改革によって、公的年金制度の関与を大幅に低減させている。だが、それでも現在、公的年金制度の維持に四苦八苦している。

 

「自助努力」の積立方式でも、政府の関与が必要になるケースはすぐ思いつく。インフレリスクの問題だ。将来インフレが進行し、現役時に積み立てた保険料や運用益では老後の生活を賄えきれない場合である。

 

急激なインフレになれば、高齢者は自分が積み立てた資金では生活ができない。その場合は政府の関与が必要になるのである。そんな事態が起こったら、政府は、その時代の現役世代に幾分かの負担をしてもらい、高齢者の生活を支えるだろう。現役世代が支払った年金保険料を、インフレによる高齢者の年金給付の追加分として使うだろう。「世代間扶養」の賦課方式の導入だ。

 

しかし、少子高齢化では支えるべき層が厚過ぎて、現役世代がインフレリスクを負担しきれない。

 

結局は、どのようなスキームを考えても、「賦課方式」が入っている以上、制度の維持は難しい。現に、前述したように、実質的に「賦課方式」と「積立方式」のミックスの制度を採用しているスウェーデンでさえ、近年は再び年金制度が行き詰まっているのだ。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか──。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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