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連載徹底検証――日本の公的年金制度は大丈夫なのか?【第8回】

隠れた政府の借金――年金財政の「危機的状況」の実態

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隠れた政府の借金――年金財政の「危機的状況」の実態

今回は、日本の年金債務の危機的状況について考察します。※本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

そもそも「年金財政」とは何か?

各種年金や健康保険、児童手当などの事業収支の会計は、厚生労働省管轄の「年金特別会計」によって行われている。年金特別会計は基本的に、「基礎年金勘定」と「厚生年金勘定」に分けられる。基礎年金勘定の収入は、「税金」と「基礎年金の保険料」、そして、「年金積立金の運用益」「年金積立金の取り崩し」(マイナスの収入)だ。

 

厚生年金勘定も基本的には同じである。厚生年金勘定の収入は、「厚生年金の保険料」と「年金積立金の運用益」、「年金積立金の取り崩し」(マイナスの収入)だ。

 

年金特別会計の支出は、基礎年金勘定も厚生年金勘定も年金給付である。収入が支出を上回れば、余剰金として年金積立金に積み立てられる。先ほども述べたように、高度成長期は現役世代が多かったため、現役世代が支払う年金保険料は、当時の高齢者世代の年金給付を賄っても余剰が出た。それら余剰のお金は、年金積立金に積み立てられる。

 

しかし、少子高齢化の時代になると、年金保険料だけでは不足が発生する。年金会計を考えるならば、「少子高齢化」による年金財政の悪化を食い止める対策は次の4つだ。

 

①積立金のリスク資産への運用を増やし、収益を上げる

②年金保険料を引き上げ、現役世代に頑張ってもらう

③年金給付を下げ、高齢者世代に我慢してもらう

④積立金を取り崩す

 

政府は今までに、これら4つの対策すべて講じてきた。④に至っては、最終手段と言うべき方策であろう。

 

しかし、それでも抜本的解決につながらない。積立金を1年分だけ残してすべて使い切ってしまおうという、2004年の年金改革プランだが、将来の経済状況如何では、100年安心どころか、年金積立金の取り崩しが予想外に早く進む可能性がある。

 

年金資金の取り崩しは、今後の「少子高齢化」の進展や日本人の平均寿命の延びなどに影響を受ける。

 

リーマンショックで年金資金の運用益は大きくマイナスとなったが、アベノミクスによる株高と円安で、最近は大幅なプラスが続いている。リスク資産への運用益は、当然のことながら変動する。とはいえ、マーケットの動向次第では、年金積立金の取り崩しのペースは予想外に早くなるかもしれない。

 

そのリスクがあるにもかかわらず、政府は年金積立金のリスク資産への運用を、さらに引き上げた。当然だが、リスク資産への運用を引き上げて運用に失敗した場合、その損失は大きくなる。しかし、失敗した場合の対応は、年金制度には盛り込まれていないのだ。

将来へつけ回される「おぞましい額」の年金債務

年金保険料の支払い期間が25年以上経たてば、年金の受給権が得られる。年金保険料の最大支払い期間は40年。20歳から60歳まで払い続けると40年になる。現在年金を受給している人も含めて、年金の受給権を持つ国民に対する年金給付の総額が、年金財政の債務となる。それが950兆円あるという。

 

それに対して現在の年金積立金は150兆円程度。差し引き800兆円もの純債務となる(鈴木亘『年金問題は解決できる!』日本経済新聞社、2012年)。恐ろしい額ではないか。要するに、現在年金受給権を持つ国民に、現在及び将来に予定通りの年金給付を行うには800兆円足りないということだ。

 

問題はそれだけではない。今後も少子化が進むと、年金財政はいっそう悲観的になる。年金保険料を払う世代がもっと少なくなると、年金債務は膨らむ一方になる。年金債務は、おそらく政府がさらに国債を増やすことで、その場限りの対応をするだろう。しかし、これ以上国債を発行できるのかという問題もある。

 

果たして政府は、このような年金財政の危機的状況を認識しているのだろうか。ここまで来ると、もはやその場しのぎの対応でどうにかなるレベルの問題ではない。それとも今の政府は、将来のことは将来の政権が考えればよいという無責任な考えでいるのだろうか。

 

年金財政の債務問題は、隠れた政府の借金なのだ。おぞましいほどの借金の額、そして、それに手をこまねいている政府の対応を見ていると、日本の公的年金制度はもはや風前の灯ともしび、破綻寸前だと言わざるを得ない。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

北岡 孝義

明治大学 商学部 教授

1977年、神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。経済学博士。専門は金融・証券市場の実証分析。
著書に『スウェーデンはなぜ強いのか』(PHP研究所)、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)、『Eviewsによるデータ分析入門』(共著、東京図書)、 『EViewsで学ぶ実証分析の方法』(共著、日本評論社)などがある。

著者紹介

連載徹底検証――日本の公的年金制度は大丈夫なのか?

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか――。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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