今回は、M&Aのデューディリジェンスで確認すべき事項について見ていきます。※本連載は、弁護士法人飛翔法律事務所の編著書(執筆は五島洋弁護士、松村直哉弁護士、濱永健太弁護士、江崎辰典弁護士)、『事業承継にも使える!中堅・中小企業のためのM&Aコンパクトバイブル』(一般財団法人 経済産業調査会)の中から一部を抜粋し、M&Aにおいて重要性の高い手続「デューディリジェンス」の基本的な方法と実務ポイントを紹介していきます。

財務状況等だけでなく「人事労務」の面も調査

デューディリジェンスは、買収対象企業を徹底して調査するものですから、確認すべき事項は当該企業に関する全般となります。そのため、確認すべき事項を網羅的に挙げると、それだけで1冊の書籍になってしまいますので、ここでは幾つかの分野に絞って簡潔に例示します。

 

①ガバナンス

 

ガバナンスについて、設立手続の適正を確認した上で、株主が誰かを確認します。現在の株主名簿で確認するだけではなく、過去に遡って株主構成の変化を追っていきます。旧商法が発起人について7名以上等としていたことから、設立当初株主が多く、それが代表者とその家族だけに変化しているような中小企業は少なくありません。この株主の異動について株式譲渡手続及び売買代金の支払い、取締役会等での譲渡承認手続の履践がなされているかを確認することになります。

 

これらが不十分な場合、現在は株主でない旨の確認書を旧株主から取り付ける必要があります。また、新株予約権等に基づいて潜在的な株主が存在しないかの確認が必要です。さらに、株主総会及び取締役会が適正になされ、それが議事録に反映されていることの確認も重要です。

 

②会計

 

会計について、決算書類等を参考にしつつも適正な数字に置き直して現在の財務状況を把握します。資産計上されている不動産について現在の時価に置き直すこと、未回収の売掛金について回収見込みのないものを外すこと、価値を喪失した長期在庫を外すことといった処理がなされます。その一方で債務については、簿外処理されて計上漏れとなっているものがないかを確認することになります。

 

③人事労務

 

人事労務について、未払い給与(未払い残業代・未払い退職金等)がないか、あるとすればどの程度かを確認し、就業規則・付帯する規則・労使間の協定が適正に作成され、それに従った運営がなされているか、労使で紛争になった事態がないか、労働基準監督署からの是正勧告の有無や内容等を確認することになります。

 

特に、近時は未払い残業代の問題が重要視されています。この点は、労働時間管理の方法から確認し、詳細に検討する必要があります(未払い残業代問題が重要視されるのは過去2年分に遡って退職した従業員を含めて請求されるリスクがあることに加え、今後適正に残業代を払っていくとすればコストアップするかどうかという問題も加わるからです。)。

知的財産権に関する制約等にも注意

④不動産

 

不動産について、登記関係を把握すると共に、今後の転売や担保提供時の評価、増改築が可能か否かといった点から建築確認書及び検査済証の有無を確認し、その後に違法な変更がなされていないことも確認します。また、修繕履歴や今後の修繕計画なども確認し、維持コストを算出することが必要です。加えて、土地については、土壌汚染の有無や隣地との境界が画定しているか否かといった確認も必要です。

 

⑤知的財産権

 

知的財産権については、保有しているもののリストを開示してもらい、それらが適法に保有されているかの確認を行います。その権利が共同開発にて取得されている場合には、共同開発者との契約において、M&Aが行われた場合の制約が規定されていないか注意が必要です。これは、第三者とライセンス契約を締結することで事業を行っている場合も同様です。さらに、職務発明に関して労働者と紛争はないか、対価の支払いは確実に行っているかについても確認が必要です。

 

⑥契約関係

 

契約関係について、M&Aを解除原因とする契約を洗い出し、相手方から実際に解除される可能性を検討すること、不利な契約で今後のリスクになるものがないかを確認すること、逆に重要な取引先であるのに契約書が締結されておらず不安定なものがないかといった事項を確認することになります。

 

⑦その他

 

その他、訴訟に関しては、当該訴訟の帰趨により予想される損害の程度や今後類似のトラブルが頻発する可能性を検討すること等が必要になりますし、許認可に関しては、M&A後も承継できるのか或いは承継できない場合に新規取得は可能か等を検討することになります。これ以外にも確認すべき分野は多々ありますし、それぞれの分野ごとに実際のデューディリジェンスにおいては深く掘り下げた検証がなされることになります。

 

なお、実務的な視点でお勧めなのは、弁護士が担当する法務・労務デューディリジェンスと公認会計士や税理士が担当する財務・税務デューディリジェンスとを別々にしておくのではなく、最終報告前に双方の調査結果を共有させて互いの調査結果に抜け落ちがないか、誤解がないかを確認させることです。かかる流れで進めるなら、デューディリジェンスの報告書の前に調査結果共有や意見交換の日程を確保しておくことが必要です。

本連載は、2016年2月19日刊行の書籍『事業承継にも使える!中堅・中小企業のためのM&Aコンパクトバイブル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

事業承継にも使える! 中堅・中小企業のための M&Aコンパクトバイブル

事業承継にも使える! 中堅・中小企業のための M&Aコンパクトバイブル

五島 洋,松村 直哉,濱永 健太,江崎 辰典

一般財団法人 経済産業調査会

これまで大企業中心であったM&Aも、中小中堅企業が行う機会が普及してきました。国や銀行もこのような流れをバックアップしており、従来よりM&Aが身近な存在になってきております。 本書は、幅広いM&A実務経験のある法律事務…

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