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連載徹底検証――日本の公的年金制度は大丈夫なのか?【第1回】

行き詰まるのが目に見えている「公的年金制度」

新連載公的年金

行き詰まるのが目に見えている「公的年金制度」

日本の公的年金制度の行き詰まりは誰の目にも明らかであり、紛うことなき事実です。では、現在の年金は、どのような意義のもとに成り立ち、そしてどこへ行こうとしているのでしょうか。本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

少子高齢化のもとでは不可能な「世代間扶養」

2004年の公的年金制度の改革の際、改革を主導した公明党は、当時の厚生労働大臣、坂口力氏を先頭に「100年安心」の年金プランを打ち出し、胸を張って見せた。現行の公的年金制度は、「世代間扶養」の年金制度である。現役世代の支払った保険料が退職した高齢者の世代に給付される。つまり、現役世代が高齢世代を扶養するわけだ。

 

この「世代間扶養」の年金制度は、「賦課(ふか)方式」の年金制度と呼ばれる。国から公的年金の運営業務の委任・委託を受けているのは、日本年金保険機構(前身は社会保険庁)だ。その日本年金保険機構は、公的年金制度について以下のように説明している。

 

「どれだけ長生きしても、また子供の同居や経済状況など私的な家族の状況にかかわらず、安心自立して老後を暮らせるための社会的な仕組みとして、公的年金は大きな役割を担っています」(日本年金保険機構ウェブサイト「公的年金制度の役割」より引用、傍線筆者)

 

この説明によれば、公的年金制度によって、国民は安心・自立して老後を暮らせるというわけだ。だが依然として、国民の多くは自分の老後について、不安でいっぱいである。公的年金で、本当に老後は安心・自立して暮らせるのか。

 

よく考えてもらいたい。「少子高齢化」が進み、経済が「低成長」のままで、「世代間扶養」の公的年金制度が機能するのか。人数が減っていく現役世代で、人数が増えていく高齢世代を扶養していくのは、どだい無理な話なのだ。

年金原資をリスク資産へ投資して大丈夫なのか

現在の高齢世代に給付する年金は、主に現役世代の支払う年金保険料が原資になっている。したがって、現役世代の人口が減少すれば、高齢世代へ安定した年金給付ができなくなる。

 

そこで政府は、年金原資を増やそうと、株式や外国債券などのリスク資産に投資しようとしている。現役世代の支払う年金保険料の収入の伸びが期待できないので、ここはリスクを取って年金資金を増やそうというわけだ。

 

もちろん、株価が上がれば運用収益は増えるから、年金原資は増える。しかし、あくまでも「株価が上がれば」の話だ。所詮、株は株でしかない。リスクがある。上がり続ける保証などない。

 

平成24年度の年金積立金運用報告書(厚生労働省)によれば、リーマンショックの影響で、2007年度、2008年度の運用収益は、それぞれ、-3.53%、-6.86%になっている。

 

2012年末からのアベノミクスによる株価の上昇によって、直近の年金資金の運用益はプラスに転じてはいるが、今後も運用益が出るかどうかは保証の限りではない。

 

リスク資産への運用収益は、景気の動向などに左右され不安定だ。リスク資産への運用で年金原資が増える可能性はあるが、減る危険性も当然ある。

 

政府は、株式等のリスク資産への運用について、長期的に見れば安全だと言う。だが、いったいその安全性を誰が保証するというのだろうか。

 

そもそも、株式などのリスク資産への投資は、資金に余裕があってこその話ではないか。生活に余裕のないものが手を出せば、身の破滅だ。これは昔から言われていることだ。国家だからといって例外ではない。

 

年金保険料収入が減少し続ける中、せっぱつまってのリスク資産への運用は、実に危険きわまりない。その失敗は、公的年金制度の崩壊に直結する。さらに事態は進んでいる。

GPIFとは何か

年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund、通称GPIF)という独立行政法人がある。厚生労働省より、公的年金の積立金の管理・運用を任されている独立行政法人だ。年金資金運用の司令塔だ。もっとも、実際の運用は、外部の民間のファンド運用会社に委ねており、GPIFは運用のチェックと管理を行う。

 

2014年10月に、GPIFは、株式の運用比率を24%(日本株12%、外国株12%、運用比率の上限35%)から50%(日本株25%、外国株25%、運用比率の上限67%)へ引き上げた(年金積立金管理運用独立行政法人ウェブサイト、「管理・運用状況」を参照)。

 

為替リスクのある外国債券の運用15%(運用比率の上限19%)を含めると、何と65%(運用比率の上限86%)がリスク資産に運用される。

 

これは、安全性が求められる年金積立金の健全な運用の在り方とはいえない。それが年金資金運用の実態なのだ。

 

今まで、年金資金は国債での運用が主だった。しかし、これからはインフレ等により金利が上昇し国債価格が下落する恐れがある。したがって、国債での運用はリスクが大きい。そこで、リスク分散を図るために、株式の運用を高めたほうがよいとの判断だ。

 

国債は、満期まで保有せず途中で売却するようなことがあれば評価損が表に出る。しかし、満期まで保有すれば、利息はわずかであっても損は出ない。金利が上昇する局面では、国債の満期構成をより短くすれば対応できる。

 

ところが、株式などのリスク資産はうまくいけば高い収益が得られるが、失敗すれば大きな損が出る。だからリスク資産なのだ。

 

リスク資産の運用で大きな損が出た場合には、年金保険料の引き上げや年金給付額の減額など、公的年金への影響が避けられない。しかし、大きな損失が出たときの対応をどうするかを予め決めていない。そのことが問題だ。

 

大きな損が出た場合には、そのときに対応すればよいとの場当たり主義なら、公的年金制度に対する不安はいっそう大きくなる。

 

また、GPIFの政府からの独立性を目指したGPIFのガバナンス改革もうやむやになっている。現状では、GPIFの年金資金の運用の決定に際して、理事長の権限が強過ぎる。日本銀行のように、ボード制の組織を採用するべきだと思う。

 

現在、株式市場が活況を呈しているが、それを支えているのが年金資金を始めとする公的資金だと言われている。2015年3月12日付の日本経済新聞では、「公的年金」「共済」「簡保」「ゆうちょ」そして日銀の「公的資金」による株式市場のテコ入れを〝5つのクジラ買い〞と呼び、その影響力の大きさを強調しているほどだ。

 

政府はこの年金の積立金を使って、株式市場をテコ入れしようというわけである。それを年金資金の「成長への投資」と言うのだろうか。

 

ただでさえ危険のあるリスク資産での運用が、株式市場のテコ入れだとは・・・。

 

成長への投資という名のもと、国民の老後を守る大切な虎の子を、株式市場のテコ入れに使おうとしているのだろうか。そうであれば、政府は、本気で高齢者の生活を支える気があるのか疑ってしまう。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

北岡 孝義

明治大学 商学部 教授

1977年、神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。経済学博士。専門は金融・証券市場の実証分析。
著書に『スウェーデンはなぜ強いのか』(PHP研究所)、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)、『Eviewsによるデータ分析入門』(共著、東京図書)、 『EViewsで学ぶ実証分析の方法』(共著、日本評論社)などがある。

著者紹介

連載徹底検証――日本の公的年金制度は大丈夫なのか?

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか――。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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