相続・事業承継 M&A
連載失敗事例・成功事例で学ぶ「中小ベンチャー企業」のM&A【第6回】

M&Aを見越した事業提携を経て「企業売却」に成功した事例

事業譲渡M&Aアドバイザー

M&Aを見越した事業提携を経て「企業売却」に成功した事例

今回は、M&Aを見越した事業提携を経て「企業売却」に成功した事例を見ていきます。※本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、実際の中小ベンチャー企業のM&Aを例にとり、M&Aを中小企業経営成功の切り札にする方法を解説します。

将来のM&Aを視野に入れた事業提携からスタート

前回の続きである。その後、F氏とS氏は再度面談。(※1)将来のM&Aも視野に入れた事業提携を進めることとなった。甲社の社員は、乙社の仕事に取り組むようになった。そして、乙社のプロジェクトマネジャーD氏が少しずつ甲社の社員と接するようになった。

 

仕事を通じたゆるやかな連携が一年近く行われた頃、F氏は乙社への売却を具体的に進めることを決意した。そして改めてS氏と面談して売却条件を話しあった。F氏の最低条件は次の2点。

 

(1)現在の甲社の社員を継続雇用してもらうこと。

(2)F氏の後任として乙社のD氏を取締役として入ってもらい、F氏から業務の引継ぎを行うこと。

社員への丁寧な対応&説明で事業の引継ぎも円滑に

甲社は借入もなく現預金が豊富であったため、売却交渉は円滑に進んだ。乙社からの条件としては、F氏が譲渡後一年間は相談役として業務の引継ぎと顧客への営業支援に関わってもらいたいとのことであった。F氏としては病気治療のため体力的な不安はあったが、引き受けることとした。

 

(※2)方向性が固まったところで、F氏は自分の病気、それを踏まえた提携、今回の売却の決定について社員に話をした。社員に大きな動揺はなく、逆に病気と闘いながら自分達のことを考えてくれたF氏に感謝を表した。そして、F氏は一人ずつ面談を行い社員の心境を聞いた。さらに、数日後にも一人ずつ面談を行った。

 

1回目の面談は発表直後であったため、まだ考えがまとまらない者も多い。数日したら整理もつくだろうとの配慮であった。

 

2回目の面談では、社員から様々な質問が出た。「本当に継続雇用をしてもらえるのか」「勤務場所は変わるのか」「給与体系はどうなるのか」「顧客は離れてしまわないのか」等々。

 

(※3)丙M&Aアドバイザーのアドバイスもあり、(※4)事前に出てきそうな質問への対応も準備していたため、不安を除くための効果的な面談となった。1回目、2回目の面談を通じて特に退職等の意向を示す者はおらず、ほぼ全員が乙社に移ることに同意をした。

 

その後、(※5)正式な譲渡契約を締結。F氏は病気の治療と並行し、できる限り引継ぎに取り組んだ。その結果、顧客からの大きな取引減少もなく順調な事業の引継ぎが実現された。

 

(※6)M&A後は、両者の想定したメリットやシナジーが現れた。特に、甲社社員においては、会社の成長に関われて待遇もアップし、感謝の声が上がっている。

 

 

成功の教訓

 

(※1)提携期間を“様子見”期間として利用し、売却ステップを着実に踏んでいった。
いわば、結婚生活前の同棲生活でお互いの相性等を確認するようなもので売却への移行もスムーズになりやすい。

 

(※2)ステークホルダーへの対応はM&A成功にとっての最重要課題。通常、一般社員への告知は、最終契約後であるが、状況を勘案して早めの対応となった。このようにM&Aにおける各種対応は、教科書的でなくケースバイケースで適切に対応することが求められる。

 

(※3)経験あるM&Aアドバイザーからのアドバイスは有効。手順・段取りは慎重かつ確実に行いたい。

 

(※4)中小ベンチャー企業の最大の資産は“働いていただく社員”である。その点に最大限の配慮をした計画で適切である。特に、情報開示後は面談を通じた細やかな対応を実行。価値を棄損せずに最終契約(売却)まで至る。

 

(※5)一般取引先へは売却決定まで情報をクローズ。秘密保持体制が重要である。

 

(※6)PMIでの顧客創造というテーマも提携を通じてスムーズに達成でき、社員のモチベーションアップが図れた。

佐々木 敦也

有限会社あおむしマネジメント 代表取締役

1983年 筑波大学第一学群社会学類(法律学専攻)卒。住友信託銀行(現三井住友信託銀行)、および朝日生命保険でエコノミスト、債券・為替ファンドマネージャー、朝日ライフアセットマネジメントで年金ポートフォリオマネージャー等を歴任。
2003年 既存にない経済・金融サ-ビスを目指して独立。豊富な金融経験を活かし、起業支援NPO、金融コンサルティング・不動産・M&A・投資教育事業会社などを設立、運営を行う。実績案件多数。
2014年 クラウドファンディング事業を行う一般社団法人「筑波フューチャーファンディング(TFF)」を設立、代表理事に就任。
現在、TFF運営の傍ら、クライアントにFA(ファイナンシャルアドバイザー)としてM&Aを含む幅広い財務戦略アドバイス(資金調達~資産運用)を行っている。
主な著書に、『中小ベンチャー企業経営者のための”超”入門 M&A』『次世代ファイナンス クラウドファンディングで世界を変えよう!』(以上、ジャムハウス)などがある。
【資格】
公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員
宅地建物取引士

著者紹介

連載失敗事例・成功事例で学ぶ「中小ベンチャー企業」のM&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの買い…

Special Feature

2016.11

「法人保険」活用バイブル<書籍刊行>

決算対策、相続・事業承継、財産移転・・・企業とオーナー社長のさまざまな課題解決に、絶大な効果を発揮する「法人保険」の活用…

GGO編集部(保険取材班)

[連載]オーナー社長のための「法人保険」活用バイブル~決算対策編

【第19回】保険のための医的診査 結果が「少し悪い」ほうが社長が喜ぶ理由

GTAC(吉永 秀史)

[連載]法人保険を活用した資産移転の節税スキーム

【第15回】「逆ハーフタックスプラン」活用時の留意点

Seminar information

海外不動産セミナーのご案内

「ニューヨーク不動産」投資の最新事情

~世界の投資家が集まるニューヨークでの不動産投資とは?  現地日系の最大手不動産会社の担当者が語るNY不動産活用術

日時 2016年12月07日(水)
講師 川上恵里子

事業投資セミナーのご案内

いま最もアツい再生可能エネルギー「風力発電」投資を学ぶフェア

~2016年度の買取価格は55円。業界の最新事情と専門会社が取り扱う投資案件の実際

日時 2016年12月07日(水)
講師 近藤陽一

不動産活用セミナーのご案内

償却メリットを狙った「京都の町家」投資の魅力

~建物比率5割超&4年で減価償却も可能!独自の不動産マーケットを形成する京町家だから実現する投資法

日時 2016年12月10日(土)
講師 平野準

The Latest