特集2015.9不動産×相続対策

相続・事業承継 信託
連載資産運用と相続対策のための不動産信託活用法【最終回】

賃貸用不動産を信託して土地を残し、兄弟間のしこりを解消

受益権相続相続税

賃貸用不動産を信託して土地を残し、兄弟間のしこりを解消

先祖伝来の土地で不動産経営をしている方が、3人の子どもに資産を相続させるとき、大切な土地を売却することなく仲良く財産を相続させる方法として、信託が利用できます。ここでは、その具体的な事例と方法を見ていきます。

土地を手放さず、遺産分割も平等に・・・

今回の事例における家族の課題は次のとおりです。

 

Aさんは駅のすぐ前に100坪ほどの土地を持っており、長らくその土地を自宅兼店舗として利用していました。家族はAさんと、地元でAさんと一緒に飲食店を切り盛りする長男Bさん、東京で医師を開業する次男Cさん、三男Dさんの4人で、Aさんの配偶者は数年前に亡くなっています。

 

3年前に所有する土地に区画整理の話が持ち上がりました。駅前の一等地でもあり、低層の自宅兼用店舗ではもったいないと、Aさんは1億5000万円をかけてビルを建設します。立地が良いため、テナントはすぐに決まり、その後も満室経営が続いていました。毎年の賃料収入は6000万円。ローンの返済期間は10年ですが、この調子なら順調に返済し、かつ利益も上がっていくように思われました。

 

ところが、ビル建設から3年後、Aさんは病に伏します。このまま相続を迎え、揉め事になることをおそれたAさんは、信託を利用することを思いつきます。これまで長男BさんがAさんと同居し、面倒を見てきましたし、家業の飲食店もBさんが切り盛りし、さらにビルの計画から運営まですべてBさんが手がけてきました。そのため、土地を売却せず、土地を引き継ぐのであれば、Bさんが相続するのが望ましいはずです。

 

しかし、法律上は子ども3人の相続分は等分です。「弟2人が反対して、土地を売却することになっても困る」、Aさんはそう考えたのです。信託を利用し、受益権で相続させることにすれば、土地、建物を手放すことなく、遺産を平等に分けることができ、兄弟間に無用のしこりを残すことがありません。

 

さらに試算をしてみた結果、不動産を売却して現金として相続するより、信託して長く不動産を維持してその受益権を相続するほうが、長い目で見ると金銭的にも大きなメリットがあることがわかりました。

 

そのときに行った試算は以下の通りです。

 

●売却した場合(3年間の元本返済額は考慮せず)

不動産を6億円で売却。ローン残額を一括返金し、手元に残るのは約4億5000万円となります。これを兄弟3人で等分に分けると、各自1億5000万円となり、そこに2割ほどの税金などがかかるため、各人が手にする額は1億2000万円ほど。もちろん、不動産は売却してしまうので、その後、賃料収入を生むことはありません。

 

●信託して所有し続ける場合

毎年6000万円の賃料のうち、ローン返済に2000万円、経費その他に1000万円かかったとして、残額を3等分すると1人当たり1000万円。

 

ローン返済が終わる7年間で1人7000万円の収入。さらにローン返済終了後には5000万円近くが3人の手元に残ることになり、毎年1500万円ずつ分けたとして、ローン完済後20年間運用できれば、総額はその20年間だけで1人3億円。

 

売却、分割した場合に比べると、何倍もの額を手にする計算になります。なお、各人にかかる税金や大規模修繕等の費用は考慮していません。

このケースで信託を利用するメリット

①Aさんが試算した通り、売却して分け合うよりも、所有し続けて収益を等分するほうがはるかに大きな額を手にすることができます。等分に遺産を相続することができるため、兄弟間に不満が残らず、兄弟不仲になることが避けられます。

 

②先祖伝来の土地を売却せずに相続できます。

 

③土地、不動産を売却せずに済むので、Bさんは先代からの家業を継ぐことができます。逆に、売却した場合にはBさんの仕事もなくなってしまうことになり、それが兄弟間にしこりを残すことも考えられます。

信託を実行すると・・・

①信託契約時委託者であり、第一受益者であるAさんと信託会社T社で契約を締結。信託財産の所有権移転登記、信託の登記をし、委託者から受託者へ不動産の管理、処分を委ねます。病床にあるAさんは、これで不動産の管理という責務から解放されます。

 

②Aさんの死亡後第一受益者であるAさんの死亡後、子どものBさん、Cさん、Dさんは第二受益者として受益権を取得し、T社が不動産の管理を続け、収益を受け取ります。子ども3人が取得した受益権は相続税の課税対象になります。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

千賀 修一

虎ノ門法律経済事務所 所長弁護士

昭和41年3月、中央大学法学部法律学科卒業。昭和48年3月、早稲田大学大学院修士課程政治学研究科修了。昭和45年4月、弁護士登録(東京弁護士会)。昭和47年4月、千賀法律事務所を開設(現在の虎ノ門法律経済事務所)。平成11年に日弁連常務理事、平成12年に東京家庭裁判所調停委員、平成14年に東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会委員長など、数多くの公職を歴任。現在は、虎ノ門法律経済事務所を母体とする株式会社虎ノ門サポート信託の代表取締役も務め、個人を中心に不動産信託に特化した財産管理のサポートをしている。

著者紹介

連載資産運用と相続対策のための不動産信託活用法

資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門

資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門

編著 千賀 修一

幻冬舎メディアコンサルティング

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