世界に衝撃を与えている「パナマ文書」。その暴露は社会や国際情勢を一変させるほどの破壊力があります。本連載は、作家・経済評論家として活躍する渡邉哲也氏の最新刊『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、タックスヘイブンを利用した脱税のしくみ、規制に動く各国税務当局の対応の一端をご紹介します。

租税回避地に親会社をつくり、知的財産権などを移転

今回は、タックスヘイブンを利用した具体的な脱税方法について述べていこう。

 

簡単に説明すると、タックスヘイブンに親会社をつくり、そこに知的財産権などを移すことで各国の国内法人の利益を消してしまい、税金を逃れる方法である。

 

たとえば、日本にAとBという会社があったとしよう。この会社を合併させ、その親会社Cをタックスヘイブンにつくるわけである(このように外国に親会社を設立することを「コーポレート・インバージョン」という)。そして、AとBは知的財産権などを資本金の一部としてCに譲渡する。

 

決算前にA社は100億円の利益が見込めるとする。B社でも100億円の利益が見込めるとする。この場合、日本の実効税率は35%前後なので、合計70億円の税の支払い義務が発生する。

 

しかし、ここでC社がAとBの両社に対して、知的財産権の使用料として100億円ずつ請求した場合、A社、B社ともに利益はゼロになり、納税義務はなくなってしまうのである。

 

最終的に200億円の利益を移した相手であるC社であるが、C社は税率の低い国にあるため、わずかな税金の支払いで済むという仕組みなのである。たとえばC社が税率5%の国にあった場合、本来払うべき税金70億円が10億円で済む。

 

これが単純化した仕組みの解説となるわけだが、実際にはもう少し複雑な処理を行い、債務を付け替えたり、関連会社を使うことで税を最小化しているのだ。この代表的な方法として、ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチというものがある。

「規制」に最も積極的な国はアメリカ

しかし、このような企業活動を許していれば、どんどん本来の活動国に税金が入らなくなり、税収が減少していってしまう。

 

そのため、OECDおよびG20では、この規制が話し合われ、現実的な対応策が練られ始めている。それにもっとも積極的な国がアメリカであり、インバージョンによる租税回避を許さない姿勢を示している。

 

これに関連して話題となったのは、アメリカ医薬大手ファイザーとアイルランドの同業大手のアラガンの合併だ。

 

事実上この合併は、ファイザーがアラガンを買収し、法人税率が12.5%とアメリカよりも格段に低い(アメリカの法人実効税率は約40%)アイルランドへ持ち株会社を設立、そこへすべての権利を移すことで、巨額の節税を目指したものだった。

 

各国で出た利益を持ち株会社への特許使用料や看板代などの名目で抜くことで、各国での利益は実質上0に近くなり、法人税の支払い義務を逃れることになる。

 

アメリカ国内ではこのファイザーの租税回避に非難が殺到し、それに後押しされるかたちでアメリカ財務省は2016年4月、過去3年以内にインバージョンを行った企業が再度こうした取引に関与することを制限する新たな規制を発表したことで、この合併はご破算となった。

 

同様に、2013年9月に合意したものの2015年4月に破談となった、日本の東京エレクトロンとアメリカのアプライドマテリアルズという半導体メーカー同士の大型合併も、本社をオランダに置いてその下に両社がぶら下がるという節税目的のスキームにアメリカ当局が難色を示したことで、頓挫したといわれている。

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