任意後見制度と不動産信託を併せて利用する方法

高齢のために、体はもとより、判断力を失うようなケースも起こりえます。そのような場合は何に備えるべきか、具体的な方法をご紹介します。

任意後見制度は「制限行為能力者」をカバーする仕組み

高齢になれば判断力が落ちてくることが往々にしてあります。場合によっては精神的な障害などによって著しく判断力を欠く状況に陥ることもあり得るでしょう。そのような場合に備え、自身がどんな状態、状況下にあっても自らの意思を貫き、不動産経営を続けるための方法として不動産信託と任意後見制度を併せて使う方法があります。

 

このやり方を解説する前に、まず任意後見制度とその前提となっている「制限行為能力者制度」について説明しておきましょう。

 

個人が単独で、契約等の法律行為を行うためには十分な判断力が必要となります。ところが、中には精神的な障害その他の事情から十分な判断能力を備えていない人がいます。そこで、そのような人が、だまされたりするといったことにより不利益を被ることがないよう、法律行為を取り消すなどの方法により保護することを図った制度が制限行為能力者制度です。この制度によって保護を受ける人を制限行為能力者といいます。

「制限行為能力者」と認定されるためには

制限行為能力者として、民法では未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人(補助人の同意を要する行為の定めが置かれた場合)の4種類が定められています(未成年者以外は家庭裁判所に審判を申し出て、制限行為能力者と認めてもらうことになっています)。
そして、制限行為能力者には、それぞれの判断力に応じて後見人、保佐人、補助人というサポート役が付けられることになります。

 

また、後見人のうち、家庭裁判所の審判を経て就任する者を法定後見人といい、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ者に依頼しておくものを任意後見人といいます。

 

そもそも任意後見契約とは、あらかじめ本人と任意後見受任者とが公正証書により任意後見契約を結び、本人の判断能力が低下した際に一定の申立権者が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをし、その選任審判が確定したときに、任意後見契約の効力が発生します。

 

法定後見と違う点は、本人が後見人となる人を選べることと、委任事務(後見事務)の範囲=代理権の範囲を自分で決められるという点です。なお、財産管理委任契約と任意後見契約を併用することもできます。

 

つまり、判断能力が低下する前から任意後見受任者に委任して財産管理・療養看護等の委任事務をしてもらい、判断能力が低下した際に任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力を発生させ、従前の委任契約を任意後見契約に移行させることがでるのです。これを移行型の任意後見契約といいます。

任意後見人なら自分の意思で選べる

法定後見人も任意後見人も被後見人をサポートするという立場であることには変わりありませんが、前述のとおり、両者には大きな違いがあります。法定後見人は本人によかれと思うことをしてくれはしますが、本人が判断能力に欠けると判断された後に任命されるので、必ずしも本人の意思に従ってくれるとは限りません。

 

ところが任意後見人であれば、事前に自分の生活や介護の内容、財産管理の方法などについて細かく自分の意思で決めておくことができます。同時に不動産信託の契約をしておけば、自分で判断できないようになったとしても、自分の生活も財産も自分の意思通りになることが期待できます。

 

ただし、信託会社に任意後見人を依頼すると利益相反となる可能性もありますから、同時に契約するにしても、他の人、あるいは他の弁護士法人などに依頼するのが妥当かもしれません。

 

例えば、不動産信託の契約と同時に、父と息子が財産管理等の委任契約(信託不動産の管理は除く)と任意後見契約を結んだとします。その後、父の判断能力が低下したときに、息子等が家庭裁判所に医師の診断書を添えて任意後見監督人選任の申立てをする必要があります。

 

裁判所が申立てに理由があると判断すると任意後見監督人が選任され、息子は任意後見人として監督人の監督のもとに本人を代理して契約その他の事務をすることになります。このように不動産信託と任意後見制度を併用すれば、認知症などになったとしても自分の意思通りに生活を続け、財産を管理することが可能となります。

 

ちなみに任意後見人に委任する後見事務は、財産管理に関する法律行為、身上監護に関する法律行為が主なものとなります。前者に関しては不動産・預貯金などの管理や処分、賃貸借契約の締結や賃貸経営などが想定され、後者に関しては医療や介護サービスの契約などが考えられます。

 

ひとつ、注意しておきたいのは、身上監護とは実際に介護をしてもらったり、生活の世話を見てもらったりするという意味ではないことです。あくまでも法律行為を代理してもらうにすぎないと考えてください。
 

 

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載資産運用と相続対策のための不動産信託活用法

虎ノ門法律経済事務所 所長弁護士

昭和41年3月、中央大学法学部法律学科卒業。昭和48年3月、早稲田大学大学院修士課程政治学研究科修了。昭和45年4月、弁護士登録(東京弁護士会)。昭和47年4月、千賀法律事務所を開設(現在の虎ノ門法律経済事務所)。平成11年に日弁連常務理事、平成12年に東京家庭裁判所調停委員、平成14年に東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会委員長など、数多くの公職を歴任。現在は、虎ノ門法律経済事務所を母体とする株式会社虎ノ門サポート信託の代表取締役も務め、個人を中心に不動産信託に特化した財産管理のサポートをしている。

著者紹介

資産運用と相続対策を両立する 不動産信託入門

資産運用と相続対策を両立する 不動産信託入門

編著 千賀 修一

幻冬舎メディアコンサルティング

高齢の不動産オーナーなどは、老後の不動産管理や賃貸経営、そして相続に関して、さまざまな不安要素が生じてくるものです。不動産管理に関する知識がなかったり、あるいは財産を目当てとした思わぬトラブルなどが発生したりし…

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