今回は、「認知症の疑いがある人」が書いた遺言書の有効性について見ていきます。※本連載は、弁護士・山下江氏の著書、『相続・遺言のポイント50』南々社)の中から一部を抜粋し、相続・遺言書の意外に知られていない、財産分与に関連のある法律についてわかりやすく解説します。

本人の意思能力が認められない場合、遺言書は無効

認知症の疑いがある人の書いた遺言書については、認知症に乗じて本人の意思とは異なる内容を書かせたものと主張されて、もめることがかなりあります。

 

遺言書が有効となるには、遺言書を作成した時点で、自分の行為の結果を弁識(物事の道理を理解すること)し判断できる能力(意思能力)が備わっていることが必要です。意思能力が認められない場合、遺言書は無効ということになります。

 

ただ、認知症と診断されていれば直ちに遺言書が無効になるのではありません。意思能力が認められない状態になっているといえる場合に初めて、遺言書が無効と評価されることになります。

遺言書の作成前に専門医の診断を受けておく

では、認知症の疑いのある場合、遺言書の有効性について後でもめないようにするためには、どうすればいいでしょうか?

 

まず、遺言書を作成する直前に、専門医に認知症についてテストを実施してもらい、意思能力には問題がない旨の診断書を作成してもらいます。

 

また、遺言書の形式としては、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成することが望ましいでしょう。そして、公正証書遺言作成の際に、公証役場に上記の診断書も提出します。このようにすれば、後で相続人の間でもめる可能性は減ると思われます。そのほか、以下の場合にも遺言書は無効になるので注意してください。

 

●遺言者が15歳に達していないとき

遺言をするには、15歳に達している必要があります。遺言の意味が分かる程度の基本的な社会的知識が備わっていることが必要といえるからです。ですから、15歳未満の者が書いた遺言書は無効となります。ただ、契約の有効な成立などに必要とされる行為能力(原則20歳以上)より年齢が引き下げられています。これは遺言者の最終的な意思を尊重する趣旨からです。

 

イラスト/momonga

 

◆まとめ◆

遺言者に認知症の疑いのある場合、意思能力がなかったとして、後で遺言書の無効を主張されることがあります。そうならないよう、公正証書遺言を利用し、意思能力に問題がない旨の医師の診断書も作成時に提出しておくことが有用です。このほか、遺言者が15歳未満の場合も遺言書は無効です。

本連載は、2016年5月20日刊行の書籍『相続・遺言のポイント50』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続・遺言のポイント50

相続・遺言のポイント50

山下 江 編著

南々社

相続に関する法律は少々複雑であり、これらを直接読んで理解するのは困難です。しかし、相続は誰にでも発生する問題であり、誰もが理解しておくべき事柄だといえます。 相続の本の中で、一番わかりやすい内容を目指した本書は…

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