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連載院長のための「クリニックの労務トラブル」を予防・解決する方法【最終回】

同僚との「賞与格差」に疑問を持つ職員への対応方法

人事労務管理

同僚との「賞与格差」に疑問を持つ職員への対応方法

今回は、同僚との「賞与格差」に疑問を持つ職員への対応方法を見ていきます。※本連載は、社会保険労務士・吉田卓生氏の著書、『Q&A院長先生の労務管理』(中央経済社)の中から一部を抜粋し、院長先生が行うべき職員の人事労務管理について、その基本となる考え方と、給与・賞与面での具体的な対応ポイントをご紹介します。

給与と賞与は異なる金銭報酬であることを理解させる

Q1

職員が同僚と賞与明細を見せ合っていました。その職員から給与は同じなのに賞与はどうしてAさんの方が多いのかと聞かれました。

 

A1

職員に対して、まずはそもそもの給与(毎月支給)と賞与(年2回)の支給意義の違いを理解してもらいます。制度の概要を確認のうえ、クリニックの賞与のしくみや賞与決定プロセスについて伝えます。

 

【解説】

 

(1)給与と賞与の支給意義の違いを理解してもらう

 

金銭で支払われる報酬には、毎月支払われる給与(月例給与)と年に何度か支払われる賞与、退職時に支払われる退職金などがあります。なお、給与以外の賞与や退職金は必ず支払わなければならない金銭報酬ではありませんが、わが国においては、慣行として支払うクリニックが多いといえます。

 

今回の設問の場合、まずはそもそもの給与と賞与の支給意義(なぜ支払われるのか=何に対して支払われる金銭報酬なのか)について、職員に理解してもらう必要があります。

 

毎月支払われる給与は、労働の対価(仕事をしていることに対する対価)であり、本人にとっては生活の糧となる基本的な金銭報酬です。したがって、クリニックによって支給基準の違い(年功基準、年齢基準、能力基準、役割基準、職務基準など)はあっても、世間相場を踏まえつつ毎月安定的に支払われます。

 

また、「降給」(給与が下がること=マイナス昇給)は一般的ではなく、ある程度の水準まで昇給することが前提となっています。ただし、昇給額は人事評価結果によって個別に決まるのが通常であり、昨今では、降給のしくみや、一定の水準で給与を据え置くしくみなどを採り入れているクリニックもあります。

 

一方の賞与は、クリニック業績の還元(利益の分配)という支給意義が強く、年に何回支払うか、毎回どの程度支払うかは、クリニックによって異なります。昨今の小規模なクリニックにおいては、全職員に対して固定で一律の月数分の賞与を毎回安定的に支払うということはほとんどありません。クリニックを取り巻く経営環境もめまぐるしく変化するため、毎回安定的に支払うことができないといった方が正確かもしれません。

 

賞与の実際の支給額を決めるときは、まずはクリニックの業績によって賞与支払総額(原資)が決まり、これを個々の職員の成果や業績(クリニック貢献度)をもとに実施する人事評価結果によって個別に配分するという方法(プロセス)をとります。

 

給与が安定的に支払われるのに対し、賞与はその時々のクリニック業績と個人成績などで決まるウエイトが大きいため、変動する要素が非常に強い金銭報酬です。

 

給与は職員の能力の伸長や本人の生活などを考慮に入れた長期的視野で支払われる金銭報酬であり、賞与はその時々のクリニック業績を中心とする短期的視野で支払われる金銭報酬であるという捉え方もできます。

 

いずれにせよ、給与と賞与は上記のとおり全く性質の異なる金銭報酬ですので、設問のように、給与が同じ額だからといって、賞与が同じになるとは限りません。

一般的な賞与の決め方とは?

(2)賞与のしくみ(決定プロセス)を理解してもらう

 

賞与の決め方は、クリニックによってさまざまですが、一般的なパターンとして以下のような2種類に分けられます。

 

①人事評価結果により支給月数を決定する方式

 

代表的な算式

賞与=賞与基礎給×評価別支給係数

 

※賞与基礎給は①基本給のみとする場合と②基本給と役職手当の合計とする場合(役職が高い職員ほど賞与が高くなるよう)などがあります。

 

※評価別支給係数は人事評価結果(S~Dなど)によって、賞与の支給係数を変えるしくみ(評価が高い職員ほど賞与が高くなるよう)です。

 

②ポイント制を用いて決定する方式

 

代表的な算式

賞与=評価別ポイント×ポイント単価

 

※この方式は、図表のように人事評価結果(S~Dなど)による獲得ポイントを設定しておき、該当するポイントに単価(全職員一律)を掛けて賞与額を決めるしくみです。

 

【図表 賞与ポイントテーブル例】

 

このように、人事評価結果をもとに賞与額を決める場合も、その算出方式はクリニックによって異なります。専門家等に賞与算出方式を確認して、職員にきちんと伝え理解してもらうことが必要です。

同僚との賞与格差に疑問を持つ職員との対話例

山田さん:平田さんと賞与明細を見せ合いました。彼女とは給与が同じなのに、どうして賞与は彼女の方が多いのですか?

 

伊藤院長:山田さんは賞与をもらって、どんな気持ちだったの?

 

山田さん:えっ!? 唐突に何ですか? これだけ世の中が不景気で経済的に厳しい情勢が続いているご時世で、賞与が頂けたこと自体はありがたいことだと思っています。

 

伊藤院長:でも、平田さんより少なかったことは不満なんだよね?

 

山田さん:平田さんとは給与が同じですから、賞与も同じにならないと不公平じゃないでしょうか? 前回まではほぼ同じだったのですが、今回は私の方が結構低くなっています。

 

伊藤院長:山田さんは、もううちに来て8年になるよね。うちの人事制度(給与制度)は、以前も話したように、30歳からはそれまでよりも本人の実力を重視するようになるんだ。20代は育成期間と捉えて、金銭処遇ではあまり大きく差を付けないしくみになっているけど、30歳からはそういうわけにはいかないんだ。それは理解しているかな?

 

山田さん:はい。私も今年30歳になりましたので、一人前の医療従事者として仕事をしないといけないと自覚し、頑張っているつもりです。

 

伊藤院長:そうだね、後輩の面倒見も良く、頑張ってくれているね。でも、賞与はそうした日頃の頑張りに加え、ある程度、仕事で結果を出さないと高い評価がもらえないことを理解して欲しいんだ。今回の賞与は、山田さんが頑張らなかったということじゃなくて、同期の平田さんが、めざましい成果をあげたことが認められて、差がついたということなんだ。

 

山田さん:なるほど。確かにこのところの平田さんの仕事ぶりはめざましいものがあると思っていました。それが賞与にも反映されたんですね。

本連載は、2012年8月10日刊行の書籍『Q&A院長先生の労務管理』から抜粋したものです。その後の労働法令改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

吉田 卓生

社会保険労務士法人ブレインパートナー 代表  社会保険労務士
医療労務コンサルタント

1977年、名古屋市生まれ、名古屋大学経済学部卒業後、名古屋市交通局に勤務中、社会保険労務士資格を取得。2007年現税理士法人ブレインパートナーへ入社。2014年、社会保険労務士法人ブレインパートナーを設立。医療機関に特化し、労務と税務の両面から総合的なコンサルティングを行うと同時に、開業時の支援から労務トラブルの解決、助成金の申請まで、日々クライアントに対して親切丁寧なサポートを実行している。

著者紹介

税理士法人ブレインパートナー

企業経営をサポートするプロ集団(公認会計士、税理士、社会保険労務士在籍)として、設立以降医療機関を中心に500件を超えるクライアントを支援。ドクターのライフステージをふまえ、医業開業から相続・医業承継までを体系的にサポートしている。
単に記帳代行業務などを請け負うだけではなく、毎月の経営診断に基づいた付加価値の高いコンサルテーションに加え、医療法人化、M&A、資産管理、信託、さらには労務課題の解決といった、医業継続のためのトータルサービスを提供している。
また、さまざまなニーズに応じたセミナーや相談会も定期的に開催している。(写真は代表社員の矢野厚登氏)

著者紹介

連載院長のための「クリニックの労務トラブル」を予防・解決する方法

Q&A院長先生の労務管理

Q&A院長先生の労務管理

吉田 卓生,税理士法人ブレインパートナー

中央経済社

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