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連載院長のための「クリニックの労務トラブル」を予防・解決する方法【第4回】

クリニックの年功賃金制に不満を持つ職員への対処法

人事労務管理

クリニックの年功賃金制に不満を持つ職員への対処法

今回は、クリニックの年功賃金制に不満を持つ職員に対してどのように対応すべきかを見ていきます。※本連載は、社会保険労務士・吉田卓生氏の著書、『Q&A院長先生の労務管理』(中央経済社)の中から一部を抜粋し、院長先生が行うべき職員の人事労務管理について、その基本となる考え方と、給与・賞与面での具体的な対応ポイントをご紹介します。

「長期的な視点」で考えれば不公平ではない年功賃金制

Q1

当院は年功賃金です。若い職員から「やってもやらなくても給料が変わらないなら,他のクリニックに移りたい」と相談されました。

 

A1

職員と話し合いの場を持ち、職員の真意を確認します。その後、年功賃金制の意味を説明し、職員の就労感(なぜ働くか)についてじっくり耳を傾け、折り合う点を探ります。もし、お金のためだけに働くという職員であれば他のクリニックに移ってもらった方が良い場合もあります。

 

【解説】

 

(1)職員に年功賃金を方針とするクリニックで働くことの意味を知ってもらう

 

年功賃金が維持できるということは、今後も長期にわたって少しずつでも成長が見込めること、また職員にとっては安定した処遇が保障され、安心して仕事ができることなど、そこで働くメリットも少なくないはずです。職員はそうした点に気づいていないと思われますので、じっくり話し合ってください。

 

年功賃金制(年齢や勤続年数によって給与が上がるしくみ)は、特に若い職員にとっては、「やってもやらなくても同じで、不公平」と受け止められることもあります。現に、能力や成果、クリニックへの貢献によらず、年齢と勤続年数だけで給与や賞与が決定するしくみは、クリニックに多くの利益をもたらしている職員からすれば、公正とは言えないのは、もっともなことです。

 

しかしながら、年功賃金制はもともと半年や1年など、短期間で職員の働きと処遇との釣り合いをとる考え方ではありません。少なくとも10年単位の長期にわたる勤続の中で応分に処遇していくことを前提としたしくみです。長期的な視点で考えれば、あながち不公正とも言いきれません。

 

給与制度において年功賃金制を採るか、実力主義型を採るかはクリニックの経営ポリシーに根ざすところとなります。

お金以外に不満を感じていないかを確認する

(2)他の職員との比較で不満を感じているかどうか確認する

 

さて、職員は「やってもやらなくても給料が変わらないなら、他のクリニックに移りたい」と言っているわけですが、何に対して不満を感じているのか、院長として本人に確認してみることが重要です。

 

「同年齢・同勤続年数の他の職員と給料が変わらないこと(自分の方が頑張っているはずなのに他の職員と昇給額が変わらないこと)」「給与(絶対額)が年配職員より低いこと(年配職員で自分よりも働きが悪いように見える職員より給与が安いこと)」あるいは、その他のことかもしれません。

 

いずれにしても、他の職員との比較で不満を感じている可能性が高いと思います。そのような職員には、気づきを持たせることが大切です。その職員が仕事をしている動機はどこにあるのか(=なぜ働いているのか)にまでさかのぼって、一緒に考えてみる必要があります。

 

もし、お金が唯一の働く動機であり目的であるという職員であれば、年功賃金制のクリニックには合いませんので、実力主義の強い他のクリニックや、医療機関以外の業種に移ってもらった方が、本人にとってもクリニックにとっても幸せです。

 

ただし、お金という要素は外せないが、その他の働く動機も持ち合わせているという職員であれば、院長は転職を急がせることなく、さらに踏み込んで、なぜ当院で働いているのか(=金銭以外にある働く動機が当院で満たせるか否か)について、一緒に考えてみることが大切です。

 

(3)職員の就労感(働く動機)に対して、短期/長期の両面でアドバイスする

 

大切なのは、働く動機を目先の短期間だけで満たそうと考えないことです。今すぐに満たせないとしても、将来的にその動機が満たせることがあるかもしれません。院長は、職員がもっと長期的な視野に立って考えられるようサポートしてください。

 

例えば、「患者様に喜んでいただくことが自分にとっての喜びであり、働く動機である」と考えている職員であっても、仕事の経験が浅いとすぐには、患者様に喜んでいただける仕事ができません。しかし、焦らず時間をかけて、経験や場数を積むことで、何年か後には患者様に喜んでいただける良い仕事ができるようになるはずです。

 

目先のお金だけにとらわれることなく、そもそもなぜ当院が年功賃金制にしているか、院長の理念をきちんと話して理解してもらうこと、そのうえで、職員の働く動機を再度確認し、クリニックの経営理念・診療方針とのマッチングを一緒に考えることが大切です。

 

職員の動機づけには、①短期の視点(日々、目の前の仕事にどうやる気を持たせるか)で捉える“モチべーション”と、②長期の視点(将来を見据えて、いかに働きがいを持たせるか)で捉える“コミットメント”(あるいは“エンゲージメント”)の2点で捉える必要があります。職員と対話するときには、この両方の視点でアドバイスすることが大切です。

 

この設問は、一見するとクリニックの給与制度の話のように捉えられがちですが、その本質は給与制度が良い/悪いという次元の話ではないことに留意してください。

年功賃金への不満をこぼす職員との対話例

山田さん:うちのクリニックでは、やってもやらなくても給料が変わらないですよね? 年功だけで決まるなら、いくら頑張っても報われない気がします。今のままなら、他のクリニックに移りたいのですが?

 

伊藤院長:確かにうちのクリニックは、年功賃金制を採用しているね。山田さんのように若い人から見れば、理不尽な感じがするのもよくわかるよ。やっぱりお金がいっぱいもらえた方がいいと思うのかな?

 

山田さん:もちろんです。それに森さんよりも私の方が頑張っているはずなのに、給料が同じというのは納得できません。

 

伊藤院長:今の給料では生活できないということかな?

 

山田さん:いいえ、そういうことではありません。生活はできますが、なぜ森さんと同じ給料なのかが納得できないのです。それはうちのクリニックが年功賃金制を採っているためだと思うのですが、それが納得できないんです。

 

伊藤院長:確かに短期で見るとそうかもしれないけど、10年20年という長いスパンで考えてみたらどうだろう? 年功賃金で働き続けることは、この先の安定・安心を感じないかな?それが、年功賃金のメリットでもあるんだよ。今生活できないというならともかく、そうでなければそんなふうに考えてもらえるといいと思うのだけど、どうだろう?

 

山田さん:そうですね。

 

伊藤院長:山田さんなら、ゆくゆくはクリニックの中心メンバーとして活躍できると思うよ。それより目先のお金を優先したい、あるいは短期的な頑張りをすぐお金に還元してもらいたいと思っているようならうちの経営理念とは異なるから、それこそ他へ移るほうがいいと思うけど、どうかな?

 

山田さん:そこまで極端に考えているわけではありません。それにそういうクリニックでは安心して働けないかもしれませんね。

本連載は、2012年8月10日刊行の書籍『Q&A院長先生の労務管理』から抜粋したものです。その後の労働法令改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

吉田 卓生

社会保険労務士法人ブレインパートナー 代表  社会保険労務士
医療労務コンサルタント

1977年、名古屋市生まれ、名古屋大学経済学部卒業後、名古屋市交通局に勤務中、社会保険労務士資格を取得。2007年現税理士法人ブレインパートナーへ入社。2014年、社会保険労務士法人ブレインパートナーを設立。医療機関に特化し、労務と税務の両面から総合的なコンサルティングを行うと同時に、開業時の支援から労務トラブルの解決、助成金の申請まで、日々クライアントに対して親切丁寧なサポートを実行している。

著者紹介

税理士法人ブレインパートナー

企業経営をサポートするプロ集団(公認会計士、税理士、社会保険労務士在籍)として、設立以降医療機関を中心に500件を超えるクライアントを支援。ドクターのライフステージをふまえ、医業開業から相続・医業承継までを体系的にサポートしている。
単に記帳代行業務などを請け負うだけではなく、毎月の経営診断に基づいた付加価値の高いコンサルテーションに加え、医療法人化、M&A、資産管理、信託、さらには労務課題の解決といった、医業継続のためのトータルサービスを提供している。
また、さまざまなニーズに応じたセミナーや相談会も定期的に開催している。(写真は代表社員の矢野厚登氏)

著者紹介

連載院長のための「クリニックの労務トラブル」を予防・解決する方法

Q&A院長先生の労務管理

Q&A院長先生の労務管理

吉田 卓生,税理士法人ブレインパートナー

中央経済社

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