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連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ【第1回】

中国株急落の影響が「限定的」といえる理由

上海総合指数中国経済NWB(日本ウェルス銀行)新連載

中国株急落の影響が「限定的」といえる理由

中国株の急落とギリシャの債務問題に端を発する、世界的な経済変調がもはや見逃せないレベルになっている。グローバル資産防衛という観点から、2015年後半の国際的なマーケット環境をどう捉えればよいのか。まずは「中国で起こっていること」を再検討してみる。

習近平政権は何を目標として経済運営をしているのか

2015年前半の世界経済は、米国景気に下支えられて、マイナーな変調こそ見受けられたものの、緩やかな成長軌道から外れたわけではなかった。むしろ、それらは世界的な金融緩和策の波及効果として、株価にはプラスに働いてきた。しかし、ここへ来て、中国株の急落とギリシャの債務問題という、マイナーとはいえない変調を連想させる事象も起きている。2015年後半の世界経済と投資運用の見通しを再考する上で、本連載では4回にわたりそれらを再検討してみる。



今回は「中国で起こっていること」を考えてみたい。大きな流れとして、まず、習近平政権が何を目標として、経済運営をしているのかを理解する必要がある。中国の政権にとっては、前胡錦濤政権時代に決定された「2020年までに一人当たり所得を2010年比2倍にする」ことが、最大の公約であり目標である。これは、面子を重んじる中国とその政権が、内外に向かって約束したことだ。



これまで「輸出型経済」の高い経済成長率の中で所得を増やしてきたという経済運営上の「貯金」があることもあり、現政権のもとでは、成長率の鈍化を容認しつつ、経済の「新常態」すなわち「内需主導」への転換を図っている。この転換が上手くいくかどうか、それが今後の成長を占う、最大のポイントであろう。輸出や政策的な投資が主導する鉱工業を中心とする第二次産業が核となる経済ではなく、中国国内で育ってきた個人消費を中心とする内需が主導する経済への移行を図っているのである。



実際に、本年上期の成長率を分解してみると、第一次産業が3.5%、2次産業が6.1%であるのに比べ、第3次産業の成長率は8.4%となっており、既に相対的に高くなっている。特に、IT関連産業の伸びは業種によっては20%超といわれるものも出てきている。

一方で、株価は波乱の様相を呈している。昨年末から急騰していた中国株式市場は、6月12日に、上海総合指数が5178と日中高値をつけた後、下落に転じ、不安定な値動きが続いている。中国国内の金融緩和に加え、他の資産に投資規制が掛かっているため、余剰資金が一気に株式市場に流入したが、「根拠なき熱狂」による上昇は長続きしなかった。急落は、株式市場が一種のカジノと化した不幸な帰結であろう。

問題は、この株式市場の不安定さが、金融市場全般に影響を及ぼし、「金融危機」に繋がることである。しかし、中国ではなお銀行部門が金融の主体となる間接金融が経済を回しており、株価急変の主たる原因である信用取引の膨張・収縮は、もっぱら個人部門で起きているうえに、銀行がローンの担保として株式を受け取っている例は少ないと考えられ、銀行システムが傷み、信用創造を阻むとは想定し難い。

日本のバブル崩壊は、不動産を担保に銀行が行っていた融資が焦げ付いて不良債権が積み上がり、銀行のバランスシートが大きく毀損して倒れ、間接金融が機能不全に陥ったものである。そして、バランスシートの痛みは企業や家計にも及び、経済的に長く低迷する原因となってしまったものだ。現在の中国の状況は、それとは異なる。

今回の株価急落が中国経済に与える影響は限定的?

また、中国株式市場の参加者の8割は個人で、株価急落がマイナスの資産効果を通じて、消費に悪影響を与えることも懸念されている。

 

しかし、個人の保有資産に占める株式のウェイトは、実はそれほど高くはない。金融資産に限っても、預金、現金が合わせて75%に対し、株は15%程度である(西南財経大学、2012年家庭金融調査)。また、市場に関与している世帯数は本年第2四半期時点で3700万戸で、これは総世帯の8.8%で決して高いわけではないというデータもある(同、2015年第2四半期中国家庭資産報告)。

 

つまり、逆資産効果による、消費の急速な冷え込みは、一時的な心理面での消費抑制効果を除けば、大きく既存される可能性は、それほど高くない。なお、データ上は、消費も投資の伸び悩みに比べれば安定的で、個人所得も中国経済全体の成長率をやや上回る7.6%の伸びを示しているほどである。


政策的には、仮にさらに景気が落ち込む兆しが出てくるようであれば、中国当局は再度の利下げや預金準備率の引き下げなど、政策カードの余地を残していると考えられる。現状は、株価について言及している高官の序列から考えると、まだ、冷静に市場を見ていると考えるが、必要と判断すれば、躊躇なく金融政策を発動する可能性が高いだろう。やや皮肉なことだが、むしろ、金融相場といえる株価急騰が落ち着いたことで、金融政策のフリーハンドがある状況ともいえよう。

 

以上のように、要因を冷静に考えると、今回の中国株の急落は、中国マクロ経済に与える影響は限定的と考えられる。

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) COO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。 2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)にてCOOを務める。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

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