前回は、同業界・隣接業界にいる同一業種とM&Aを行うメリットについて説明しました。今回は、買い手候補が少ない場合の「対象企業」の増やし方について見ていきます。

隣接業界の前後工程にいる企業も有力な売却先となる

本連載の第3回と第4回で説明した、縦軸と横軸の関係性を合わせて見ていくと、もう一つ買い手側としての可能性を秘めている方向があることがわかります。それは斜め方向です。斜め方向の企業相手の場合、縦、横両方のメリットを受けられる可能性があります。

 

例えばある2つの大手電気機器メーカーの系列ピラミッドを簡単なイラストにまとめてみました。

 

【図表 売却先には隣接業界の前後工程の企業も有効】

 

Eの企業が事業譲渡を考えるとしたら、ここまで説明してきたD・Fの縦軸、Bの横軸の他、AやCなどの斜め方向の相手にも可能性があるということです。これなら心情的に抵抗感が生まれやすい同系列ピラミッドの同一業種や、類似業種ではないためスムーズに進む可能性が高くなります。そうはいっても業界が同じだと抵抗があるという場合であれば、さらに隣接業界で斜め方向の企業を狙えばいいのです。

 

縦軸や横軸でM&A対象となる企業が少ないもしくは一つもないという時には、こういった斜め方向から相手を探す手もあります。生産能力の強化やシェア拡大というよりは、事業の多角化や新規業界への参入、販路の拡大といった多くのメリットが期待できます。

当該地域への進出を図ってる相手も買い手候補の一つ

売り手側の生産拠点のある地域が買い手側企業にとって魅力になることがあります。

 

現在取引のあるメーカーの新工場設立による供給体制の見直しや、取引先との関係で、これまで生産拠点のないエリアへの進出を考えている企業とのマッチングです。

 

例えば、愛知県刈谷市にあるプレス加工メーカーが取引先との関係で、北九州に新工場をつくらなくてはいけなくなった場合、用地買収から工場建設、設備を設置して稼働するまでには莫大な費用と時間が掛かります。しかも、それほど都合よくいい土地があるかどうかもわかりません。さらに不慣れな土地で従業員を募集し、教育するとしたら、そこにも多大な労力と時間がかかります。

 

自社の技術に自信があり、新たな取引を始められる可能性が高くても、準備から順調に稼働するまでには準備期間も含めて数年かかり、費用対効果から考えても、進出になかなか踏み切ることができません。

 

その点、M&Aで同業種を買うことができればすでに工場もあり、設備や人材もあるため、工場の立ち上げにあまり時間がかかりません。なおかつ相手の売却額にもよりますが、ゼロから工場を立ち上げるよりもコストは安く抑えられます。なによりも最近は人材の確保も非常に困難ですので、すでに技術を習得した従業員を確保できるということは大きなメリットとなります。

 

しかもそのプレス加工メーカーがすでに他の系列メーカーと取引をしていたら、取引先まで獲得することができます。売り手側の心情としても、遠く離れた愛知県の企業であれば同業界、同業種でも抵抗感は抱きにくくなります。

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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