特集2016.5会社の高値売却

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連載中小企業経営者のための事業・従業員・経営者を守る「事業譲渡」の手法【第7回】

赤字会社が廃業よりも「事業譲渡」を選択すべきケースとは?

赤字会社事業譲渡

赤字会社が廃業よりも「事業譲渡」を選択すべきケースとは?

前回は、経営者の姿勢や資質が赤字の原因となってしまう理由と事例を説明しました。今回は、どのようなケースで「事業譲渡」が有利に働くのかを見ていきましょう。

事業と社員を守る「事業譲渡」という選択肢

赤字会社の経営者が会社をたたもうとするときには、「箱=会社」と「中身=事業」を分けて中身だけを譲渡する事業譲渡という道があります。

 

収支が赤字でも、買い手の目線で魅力的に映るダイヤの原石がある会社ならなおさら、第三者への事業譲渡という選択肢を検討する価値があるでしょう。

 

とはいえ、事業譲渡というのは事業を承継するための方策ですから、会社をすっかり終わらせる廃業をお考えの経営者の方にとって、事業譲渡を選ぶべきか廃業を選ぶべきか、決めかねている方もいることでしょう。

 

そこで、具体例を挙げながら廃業よりも事業譲渡を選択することが適していると考えられるケースについて、考えてみることにしましょう。

 

①従業員の生活を守る

 

会社を廃業する場合、もっとも経営者を悩ませるのが、従業員の雇用問題です。

 

働いている従業員は、会社が廃業となれば同時に失業してしまいます。ですから長年苦楽をともにしてきた従業員やその家族の生活を考えれば、簡単に廃業することもできません。ここで経営者は苦渋の選択を迫られます。

 

しかし、事業譲渡という方法を使えば、第三者に承継された事業部門の雇用を守ることは可能になります。

 

たとえば工場の製造部門を譲り受ける企業は、製造部門とともにその部門の経理や総務の人材も承継する場合が多く、GOOD部門の従業員は失業のリスクから免れることができます。

 

もちろんGOOD部門の従業員に限られますが、事業譲渡という方法を使えば、従業員の生活を守ることができるわけです。

 

たとえば、こんなケースがあります。ある美容院が経営不振となり、10店舗のうち5店舗が売りに出されました。

 

購入したのは化粧品の卸会社です。購入金額は2000万円。1店舗あたり400万円ということになりますが、新規開店するには3000万円以上かかるというこの業界の相場を考えると、買い手にしてみれば、飛び切りお得な買い物となったわけです。

 

なぜ業績不振の美容院を買ったのかといえば、化粧品の卸会社にとって、美容院は小売販売ルートのひとつですから、そこに化粧品を卸すだけでその分利益を見込むことができ、卸会社が小売販売に事業を拡大することでシナジー効果が得られるというわけなのです。

 

こうしたケースでは、スタッフも一緒に譲り受けるのが普通です。技術や経験を持つスタッフは貴重ですし、スタッフ一人ひとりにお客さんがついている場合が多いので、ほとんどの場合店舗とスタッフがセットで譲渡されます。

 

もしも、この美容院5店舗がすべて廃業していたら、勤めていたスタッフは全員失業してしまうことになります。しかし、店舗とスタッフがセットで譲渡されることによって、これまでどおりの雇用が守られたのです。

 

②事業や技術・ノウハウを守る

 

廃業を考えている経営者の中には、本音では事業を継続させたいという方もいます。特に、若い頃に起業し、人並みならぬ苦労をして育てた会社を終わらせてしまうことには、どこかで寂しさを感じている方が多いようです。

 

赤字といえどもせっかくここまで続けてきた事業、広げたネットワーク、および長年培った技術・ノウハウの重みは、経営者自身が一番よくわかっています。

 

赤字で後継者もいないからたたむしかないと、半ばあきらめていた事業承継も、GOOD部門を切り分けて譲渡すれば十分可能となります。

 

もちろん、愛着のある会社の名前は変わり、後継者となる人は子どもでも親族でもないかもしれませんが、長年育ててきた事業の価値を認めてくれる人が後継者となるのです。培ってきた技術やノウハウ、取引先のネットワークも維持されるでしょう。まさに、人生をかけて育ててきた大樹が次世代に受け継がれていくのです。

「対外的なダメージ」も減らすことができる事業譲渡

③取引先へのダメージを最小限にする

 

従業員や事業を守るのに加えて、取引先に迷惑をかけないためにも、事業譲渡は有益です。

 

会社が廃業してしまえば、取引先との契約はそこで終わってしまいますから、先方にさまざまな迷惑をかけることにもなりかねませんし、場合によっては違約金が発生することもあります。

 

けれども先に述べたように、事業譲渡されたGOOD部門では、取引先との契約などもそのまま継続される場合が多く、名義や金融機関の口座変更の手続をしてもらうだけで、取引先にはほとんど迷惑をかけることはありません。

 

④譲渡代金ですみやかに弁済ができる

 

会社が債務超過だった場合、廃業すれば、当然負債が残ります。負債は会社という箱についているものですが、中身のGOOD部門もともに廃業してしまえば、債務を支払う原資となるものがありません。このため、債権者への弁済は、破産などの手続まで待ってもらわなければなりません。

 

一方、GOOD部門を事業譲渡できれば、その譲渡代金を負債の支払に充てることが可能です。債務超過であれば、経営者個人の手元に代金が残ることはありませんが、債権者に対してすみやかに弁済を行うことができ、対外的なダメージも少なくなります。

 

⑤晩節を汚すことなくリタイアできる

 

事業譲渡後には、負債とともに残された「箱=会社」を清算することになるわけですから、たとえ譲渡代金を手にしても、経営者がそのままハッピーリタイアというわけにはいきません。

 

けれども、長年守り続けてきた会社や、地域の名士として貢献してきた経営者が、債務超過のゆえに破産しなければならないという最悪の事態は避けることができます。

 

破産した、というレッテルによるダメージは大きいものです。借金が払えずに破産したということは、社会的な失格者のような烙印を押されたように感じるかもしれません。これまで長い間、地方の名士として貢献してきた経営者にとっては耐え難いことでしょう。

 

事業譲渡という方法を活用すれば、経営者として生きてきた人生の晩節を破産によって汚すことはありません。

 

何より、事業を承継・存続させることで、長年お世話になった顧客や取引先を維持し、苦楽をともにしてきた従業員とその家族を守ることができます。

 

もちろん、その中には自身の配偶者や子どもがいるかもしれません。かけがえのない人々を守り、大切な人間関係を維持し続けることができるのです。それを思えば、事業譲渡によって得るものは、譲渡代金という現金以上のものがあるはずです。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

山田 尚武

弁護士法人しょうぶ法律事務所 代表社員

1964年、愛知県に生まれる。名古屋大学法学部卒業。卒業後に最高裁判所司法研修所司法修習生となる。1992年弁護士登録(愛知県弁護士会)。1996年しょうぶ法律事務所を開設。2008年静岡大学法科大学院教授就任(担当 商法・会社法)。2012年愛知県弁護士会副会長就任。 2013年10月にしょうぶ法律事務所を法人化する。
大手企業・中小企業を顧問先とし、倒産案件の申立代理人および破産管財人・監督委員をそれぞれ100件以上務める。複数の弁護士によるチーム体制で最高品質のリーガル・サービスの提供を目指す。 2015年4月には一般社団法人中部事業承継紹介センターを設立。事業承継の出会いの場を士業ならではの視点から提供している。

著者紹介

連載中小企業経営者のための事業・従業員・経営者を守る「事業譲渡」の手法

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

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