本連載では、「別会社を使った事業再生スキーム」について、筆者の体験をもとに詳しく解説します。今回は、具体的な再生戦略のアウトラインから見ていきます。

民事再生は原則として担保権の実行を止められない

中小企業の数が減り続けています。親の希望とはうらはらに「跡を継ぎたがらない」子が増えているのです。中小企業の7割が赤字といわれている昨今、親から引き継いだ会社を子が再生させるのは、ゼロから立ち上げるよりも、むしろ大きな困難を伴うかもしれません。

 

しかし、子が経営を立て直すことは十分に可能です。まず、親から引き継いだ会社を再生する方法としては、私的整理ではなく法的整理もあり得ます。私的整理が債権者と債務者の合意に基づいて会社再建を進めていくのに対して、法的整理は徹頭徹尾、法のルールに従って処理が行われます。

 

そして、再建型の法的整理手続きとしては、前述した民事再生と会社更生の2つが考えられます。もっとも、後者は大企業を対象とした制度であるため、中小企業が利用することは難しいでしょう。

 

そこで、法的整理の場合には、民事再生が基本的な選択肢となるはずです。その手続きの概略は、滞りなく終結まで至れば、債務の支払いが大幅に免除されるなど、民事再生には数々のメリットがあります。ただし、逆に、会社の立て直しにとってマイナスともいえる事態に陥ることもあり得るので、その点には十分な注意を要します。

 

まず、民事再生が行われる場合、その事実が官報で公告されるため、会社が整理手続きを行っていることが広く世間に知れ渡ってしまいます。「民事再生」=「倒産」というイメージを持っている人も少なくないことから、その結果として、会社のブランドや信用が毀損するおそれがあります。

 

また、再生計画が認可されるためには、債権者の過半数の同意が必要となります。つまり、債権者の半分の同意が得られなければ、事業の再生が途中で頓挫してしまうことになるわけです。

 

万が一、非協力的な債権者が多い場合には、対外的な信用を失ったうえに会社の立て直しができない――そんな最悪の事態に追い込まれてしまうことも十分にあり得るのです。しかも、民事再生には原則として担保権の実行を止められないという限界もあります。そのため、抵当権の対象となっている土地や譲渡担保権の対象となっている動産などが債権者に差し押さえられる可能性が残ってしまいます。

 

もし、会社の事業にとって重要な資産が差し押さえられるようなことにでもなれば、会社再建に大きな悪影響がもたらされるおそれがあるのです。このように、民事再生の手続きには数々の問題点やリスクがあることをしっかりと認識しておく必要があるでしょう。

私的整理の戦略には4種類ある

民事再生の手続きに伴うこれらの問題点やリスクが気になるのであれば、やはり法的整理ではなく、私的整理によって再生を図ることが望ましいといえるかもしれません(なお、私的整理には、法的整理に比べて再建までの時間を短縮できる、再生方法を自由に選べるというメリットがあります)。

 

私的整理の具体的な手段には、リスケジュール(リスケ)やあるいは債権放棄(債務免除)も含まれます。もっとも、リスケと債権放棄だけでは抜本的な経営の立て直しを行うのには不十分です。そこで、それらに加えて、一般的には、以下の4つの戦略があわせて検討されることになります。

 

①超長期による返済
②サービサーによる債権買い取り
③資本的劣後ローンを使った債務超過の解消
④別会社を使った事業再生スキーム

 

では、このように4つの戦略があるとして、中小企業の経営者が事業の立て直しを進めるうえでは、どの選択肢が最も理想的といえるでしょうか。

 

結論を先にいえば、中小企業の事業再生、とりわけ債務超過の状態に陥っている企業の場合には、経営者にとって最も効果的といえる戦略は、④別会社を使った事業再生スキームになります。

 

もっとも、誤解をしてほしくはないのですが、①から③の戦略が全く無意味であるというわけではありません。いずれも個々の企業の置かれている状況によっては、十分に有効な選択肢となり得ます。また、これらのうち複数の戦略を組み合わせて利用することも、すなわち④と同時に①から③の戦略を併用することも、もちろん可能です。

 

次回は、そうした点を念頭に置いたうえで①から順番に、それぞれの戦略の具体的な中身について確認していきましょう。
 

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    本連載は、2014年10月25日刊行の書籍『引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    高山 義章

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