前回は、M&Aの起承転結に基づいた手順のうち、「転」にあたる買収査定について取り上げました。今回は、「結」の部分にあたるクロージングについて見ていきます。

M&Aの成約は売り手と買い手の新たなスタート

最終段階は「⑥クロージング」です。起承転結でいえば、「結」の部分になります。

 

ここまで、さまざまな問題をクリアして、最終的に株価など売り手側と買い手側の諸条件がまとまり「最終契約の締結」となります。売り手企業から買い手企業へ株式が譲渡され、それに対する支払いが完了すると「成約式」を執り行います。

 

成約式は、まさに結婚式です。売り手企業の社長にとっては、娘を嫁に行かせる心境だという方も多くいらっしゃいます。感極まって涙を流される社長の姿を拝見するときなどは、私たちM&Aコンサルタントも感動し、身が引き締まる思いをする瞬間です。

 

買い手企業にとっては、大切な娘のような会社を譲り受けるのですから、売り手企業の社長のこれまでの労をねぎらい、敬意を払い、譲り受けた会社を大切に成長させていくことを誓う場です。日本M&Aセンターでは結婚式のように、シャンパンで祝杯をあげたり、奥様から夫であるオーナー経営者への手紙、式の写真やビデオをオーナー経営者にプレゼントし、一生残る思い出としていただいています。

 

結婚式がゴールではないように、M&Aは成約すれば終わりというわけではなく、売り手企業と買い手企業の双方にとっては新たなスタートとなります。買い手企業は、譲渡された会社をこれから大きく成長させていかなければいけませんし、売り手企業の社員は、新たなリーダーのもとで仕事に取り組んでいくことになります。

M&A最後の実務は社内外に向けた「情報開示

さて、このクロージングには「成約式」の後、もうひとつ重要なことがあります。

 

それは、ディスクロージャー(情報開示)です。ディスクロージャーには、外部向けと内部向けの2つあります。

 

外部向けは、IR(投資家向け広報)です。会社のステークホルダー、つまり株主へのIRを行い、今回のM&Aが、今後の成長に向けた経営戦略の一環として実施したことなどを伝えます。

 

また、取引先、金融機関、さらには新聞などのメディアといった外部への適切な対応も重要です。メディアにも好意的な記事を書いてもらえるように、しっかりと対応しなければなりません。取引先に対しても、誠意を持ってM&Aの事実を伝えることが今後の取り引きをよりスムーズにします。

 

もうひとつが内部の社員に向けたディスクローズです。M&Aの成功には秘密保持が重要ですが、売り手企業の社長は、ここまで誰にも公表していない場合もあります。もし伝えていたとしても奥さんや一部の幹部のみということもあります。そこで、多くの場合は成約式に合わせてその日の夕方に社員を集めてM&Aの発表を行います。

 

売り手企業の社員は、自分の会社が譲渡されるということで不安に思うものです。社長から社員へ、このM&Aが後ろ向きなものではなく、会社と社員の将来にとってプラスになること、雇用が継続され待遇などは変わらないこと、ここまでに至るご自身の思いなどを伝えます。

 

その後に、買い手企業の社長からも挨拶をし、統合にかける熱い思いを話していただきます。実際、筆者が手掛ける案件では必ず、売り手と買い手両方の社長から直接社員に対してディスクローズしてもらい、スムーズな滑り出しが成功しています。売り手企業の社員に安心感が生まれ、社員全員のモチベーションを高められるからです。

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    本連載は、2015年9月20日刊行の書籍『「業界再編時代」のM&A戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    「業界再編時代」のM&A戦略

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    渡部 恒郎

    幻冬舎メディアコンサルティング

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